天狗舞の極上酒はすごい酒でした。
五月の連休が明けた火曜日に天狗舞の極上酒を大いに楽しむ会を開催するという案内が4月の終わりごろに突然来ました。これを企画したのは、自称酔いどれフォトグラフィッカーの平塚義久さんです。この企画がどのようにして生まれたのかはわかりませんが、神戸の夙川にお店を出している吟座糀屋にお酒を提供している糀屋酒店の玉谷さんと平塚さんが仲が良くて色々お付き合いしているうちに、お店にある貴重な天狗舞の極上酒を東京の皆様に糀屋のお料理と合わせて飲んでもらおうということになったようです。
応募人数は13名と、ごく少数の平塚さんの知り合いに声をかけられたようで、参加費が1万3千円と高かったけれども、天狗舞の中三郎の純米大吟醸や大吟醸と天狗舞山廃の純米大吟醸が飲めるということなので、迷わず申し込みました。天狗舞の純米酒や五凛のお酒は飲んだことはありますが、最近は中三郎は飲んだことがなかったので、じっくり楽しんでみようと思った次第です。
天狗舞のお酒をじっくり味わうのは、2009年に新橋の野崎酒店で開かれた「天狗舞と五凛を楽しむ会」以来のことです。この時の感想は下記のブログに書きましたので、良かったら見てください。随分前のことで、僕もお酒の初心者でしたので、あまりたいしたことは書いていませんね。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/2-673d.html
この会は両国駅近くのレンタルスペースのスキーマ両国店で開かれました。ここはキッチン付きのレンタルスペースで、最大20名の立食パーティールームで平日の夜で、6時間15000円、土曜日の夜で28000円で借りれるようです。今回は神戸から糀屋の料理人の玉谷昴さんがこられて、ここのキッチンで料理を作って出していただきました。
下の写真の左の方が主催者の平塚さんで、中央の方が麹屋の玉谷さんです。
この下の写真がレンタルルームの入り口ですが、よく見ないとどんなお店なのかがわかりにくいですが、外から何をやってるかは丸見えです。僕は中に知っている人がいたのでここだとわかりましたが、看板だけだとわかりにくかったですね。
中の様子を見てみましょう。奥にキッチンルームが見えます。随分シンプルなレンタルルームでした。もうちょっと高級感を求めればもっと高いのでしょうね。我が家のダイニングルームを貸し出せば、20人くらいの立食パーティならできそうですね。やってみようかな?
中央にフルネットの中野社長、その左にノムリエ会会長の高瀬さんがおられました。
では早速どんなお酒を飲んだかをご紹介しましょう。この写真は平塚さんがFACEBOOKに出したものを拝借いたしました。このように飲んだお酒を並べたのは僕が帰った後のようですから仕方がないです。
・ 中三郎 純米大吟醸 27BY
・ 中三郎 大吟醸 27BY
・ 天狗舞 山廃純米大吟醸 28BY
・ 五凛 純米大吟醸 28BY
・ 天狗舞 純米大吟醸 28BY
・ 五凛 純米山田錦 28BY
・ 天狗舞 山廃純米 26BY
・ 天狗舞 山廃純米 25BY
全て生酒ですから、すごいラインアップですよね。
それでは飲んだお酒の印象を纏めてかいてみますが、その前に天狗舞の車多酒造と中三郎さんのことにちょっと触れておきます。
<車多酒造と中三郎>
車多酒造は石川県の白山町にあります。北陸本線の松任駅から南へ3㎞程下った田んぼの中にあるようです。創業は江戸末期の1823年だそうですから、このあたりの酒蔵としては古いほうではありません。初代の蔵元の車多太右衛門さんは油屋を営んでいたのですが、酒がお好きだったので自分でも作ってみたいと酒屋を始められたようです。天狗舞とはすごい名前を付けたものですね。平塚さんのお話によりますと、蔵の近くの森の木の葉の擦れ合う音が天狗の舞う音に聞こえたということから銘々したそうです。
それから地元に飲まれるお酒を造り続けてきたのですが、車多酒造を大きく変えたのが昭和30年代後半に蔵に戻ってきた7代目の蔵元の車多壽郎さんです(現在は息子さんお一成さんが社長をしています)。壽郎さんは新しい味わいの酒、自分が好む酒を造りたいと山廃仕込みに着目されたそうです。そこで、静岡県のある酒屋で杜氏をしていた中三郎さんを呼び寄せ、その時から中三郎杜氏と二人三脚で山廃仕込みのお酒を作り上げていったのです。
ご存知の通り中三郎杜氏は能登杜氏の四天王の一人ですが、その頂点に立つのが農口尚彦さんで、農口さんの弁によると開運の波瀬さんも満寿泉の三盃さんも天狗舞の中さんもみんな僕の教え子だと言っていますが、農口さんの山廃つくりを越えたのは中さんだけだったようです。それだけ山廃つくりは奥が深い造りなのでしょうね
中三郎さんは現在は杜氏は後輩の岡田さんにゆずり、現在は杜氏顧問として支援側にまわっているそうですが、まだ現役で活躍されています。そのお酒が飲めるのはとてもうれしいことです。僕と中三郎さんと車多社長との写真がありますので、ちょっとお見せします。この場所は石川県の迎賓館広場で行われたサケマルシェです。中央の小柄な方が中さんで、右側の方が車多社長です。中さんはまだお元気そうですね。
蔵や中さんのお話はそれくらいにして早速飲んだ酒をご紹介しましょう。でもその前に櫂のはじめに行われた高瀬先生のご講演についてちょっとまとめてみました。
<高瀬先生のご講演要旨>
ご講演は15分くらいの短いものでしたが、主にアルコール添加と山廃つくりのお話をいただきました。
アルコール添加を多くするとアルコールの刺激が気になるけれども、適量のアルコール添加は香りを引き立てるとともに清涼感が出て飲みつかれしなくなるので、出品酒はほとんどアルコール添加のようです。その添加用のアルコールは粗粒アルコールを外国から輸入して醸造用アルコールとして使用していますが、一部のメーカーでは米で作った焼酎を添加用のアルコールとして使っている蔵もありますが、国税局はこれを醸造用アルコールとして認めていないので、特定名称酒ととして名乗れないそうです。どうしてそんな規則があるのかわかりませんが、より品質の高い醸造アルコールを使うことは良いことなので、ぜひ見直してもらいたいものです。
山廃つくりは明治42年に開発された方法ですが、それまで使われていた生酛造りの工程の中の櫂で潰す作業を廃止して麹の酵素で溶かす方法に変えて酛造りの作業環境を大幅に改善したものです。この開発には福島県の末広酒造で色々実験を行ったそうです。山廃つくりの前の生酛造りは伊谷で生まれた寒造りを改良して完成したもので、その後の酒母造りのベースとなったので、当時は普通酛と言われていたそうです。
昔の生酛系(山廃つくりを含む)は木桶を使ったり酒造りの環境の悪いところで作られることが多かったので、どうしても酸味の強い独特の風味を出すことが多かったのですが、最近の生酛系の造りの酒は大幅に改善され、奇麗になっていますので、現代生酛系と呼んだほうがいいそうです。天狗舞の山廃は酸はあるものの、昔にあったような強い酸ではなく奇麗な酸味だそうです。それをよく味わってもらいたいとのことでした。
以上で講演の要旨を終わります。
<試飲したお酒の紹介>
1.中三郎 純米大吟醸 27BY
この写真をよく見てください。純米大吟醸の上に真精と書いてあります。この意味は精米度が正しいという意味だそうですが、もう無くなった傳魚坊のお店にはこの文字が付いた中三郎が入ったそうです。ラベルの右上には筋水岩高と書いてありますが、この意味は醪の泡の状態を表すそうで、筋泡、水泡、岩泡、高泡という意味がそうです。この文字が入っているのは中三郎さんがこれだと気に入ったものだけに書いたそうです。ですから今回のお酒は中三郎の純米大吟醸の中でも最高峰のものと言えます。
中三郎の純米大吟醸の生酒はインターネットでもほとんどその姿を見ることができないもので、普通の人は手に入らない特殊なお酒ですが、その中でもこのお酒はさらに特別なものといえます。こんなお酒が飲めるのは幸せそのものです。
飲んでみましたが、さすがにうまい酒でした。しっかりした味わいがあって、最後まで奇麗な余韻を残しながらきれいに消えていくお酒でした。飲んでいるとホワット楽しくさせるお酒で、この酒に文句を言う人はいないのではないでしょうか。
香に少しカプロン酸エチルの香りがしたので、皆さんが18号酵母を少し使ったのではないかという話になっていました。最近はほとんどの蔵で酵母を明確にしないようですが、飲む側としては公開してもらったほうが良いという意見が多かったです。
最近は先入観を持たないで飲むべきとの意見を持つ蔵も多いようですが、最初にイメージを持つほうがお酒がよくわかるのも確かです、皆さんはどう思いますか。
2.中三郎 大吟醸 27BY
このお酒は今回唯一のアルコール添加のお酒です。アルコール添加すると香りが引き立ち、さわやかさがでて飲みやすくなると言われますが、このお酒もまさしくそうで、純米大吟醸のようなうまみは少なくなっていますが、バランスが良く、奇麗な余韻が漂う、いくらでも飲めてしまうようなお酒でした。
確かに奇麗で飲みやすいけど、純米大吟醸に比べるとちょっと物足りない気がしてしまうのは、飲み比べたからだと思います。僕が胸がないなと言ったら、高瀬先生が八千草薫のようなお酒かなと言われたのが印象的でした。
お酒のスペックは兵庫県特A地区の山田錦35%精米、日本酒ぞ+5、酸度1.2とまさしく金賞酒狙いのお酒ともいえます。
次いでながら、高瀬先生も中野社長も純米酒党として有名な方ですが、決してアルコール添加のお酒が嫌いではなく、よく飲まれるそうです。昔はアルコール添加でお酒の増量を図るようなお酒が出回っていたので、それを抑えるために純米酒を推進してきただけで、中三郎のように味を調えるためのアルコール添加のお酒は大好きだそうですから、皆さん知っておいてくださいね。
3.天狗舞 山廃純米大吟醸 28BY
天狗舞と言えば山廃仕込みが有名ですが、それこそ中三郎さんが磨き上げてきた造りのお酒で、その中でも最高峰のお酒がこの山廃純米大吟醸です。
天狗舞の山廃純米大吟醸には2種類あって一つは山田錦45%の緑の瓶と山田錦35%精米の茶色い瓶がありますが、今回のお酒は後者の生酒です。スペックは日本酒度+3、酸度1.4と中三郎より少し酸が高いようです。
飲んでみますと、口に含むとしっかりした旨み甘みが広がってきて、口の中までしっかりと伸びてきて、その後甘みを感じながら程よく消えていくお酒で、飲んでいる人を楽しくさせるお酒でした。カプロン酸エチルの香りはしませんでした。
中三郎の純米大吟醸はまず手に入りませんが、このお酒なら頑張れば購入できる可能性がありますので、ぜひ購入しておきたいお酒ですね。
4.五凛 純米大吟醸 28BY
五凛は8代目の蔵元社長をしている車多一成さんが「旨い」、「滑らかなのど越し」「飲み飽きしない」の3要素を味のコンセプトとして世に出したお酒で、お客様、飲食店、酒販店、蔵元、杜氏の5者が常に凛とした関係でお酒を楽しんでもらうという意味で「五凛」となずけられたそうです。
お酒のスペックは山田錦45%精米、日本酒度+4、酸度1.5ですが飲んでみると、香りは少なめで天狗舞より酸味を感じて中ごろから膨らんできて、最後に軽い苦みを感じながら消えていく余韻の長いお酒でした。全体的には酸味がすっきりした輪郭を与えてくれる格調の高い印象を与えるようです。
燗助さん(佐藤晃一さん)の意見をはこれが一番燗に合うお酒のように思えるとのお話でした。
5.天狗舞 純米大吟醸 28BY
天狗舞の純米大吟醸は生酒と火入れのお酒はラベルが違っていて、生酒は青いラベルですが、火入れは白いラベルのようです。
お酒のスペックは山田錦50%精米、日本酒度+3、酸度1.4ですが、飲んでみると酢酸イソアミル系の洋ナシのような香りがあって、口当たりははっきりとした甘みを感じるけど、中盤からちょっと膨らんできめやかな酸味を感じながら消えていくお酒でした。
最初にはっきりした旨みを感じた後のバランスが良いので、お料理に合わせやすく、今どきの若者にとって受けるお酒ではないかなと思いました。
6.五凛 純米山田錦 28BY
このお酒は最初の乾杯酒として出てきました。お酒のスペックは山田錦60%精米、日本酒度+3、酸度1.8ですが、飲んでみると吟醸香は全くしないので、高温短期醸造ではないと思われます。口に含むと甘みはあまり感じないけど旨みがあり、口の中ほどまで味がのびて来るので、酸味はあるけど意外と強く感じないバランスのお酒で、飲みつかれしないお酒のように感じました。
実はこのお酒の写真を現場で撮りそこなったので、インターネットからお借りしたのですが、どうもこの写真はちょっと違ったお酒のようで、瓶の肩にラベルがついている五凛純米生酒 ドンブレンドのお酒の写真でした。
ドンブレンドとは35%精米の純米大吟醸を7%、45%精米の純米大吟醸を28%、65%精米の純米を65%でブレンドしたお酒のようです。それでいて1升瓶で税抜きで3000円で出したようでこれは呑んでみたかったですね 。
7.天狗舞 山廃純米 25BY
8.天狗舞 山廃純米 26BY
天狗舞山廃純米原酒は車多酒造の定番のお酒なので、比較的手に入りやすいお酒ですが、生酒の25BYや26BYを飲むチャンスはあまりないと思います。表のラベルでは25BYか26BYかはわかりません。
お酒のスペックは五百万石60%精米、日本酒度+4、酸度2.2、アルコール度数18度ですが、飲んでみると熟成の香りはするけど、そんなに強くはないけど、角が取れたとろみのある旨みが口の中で厚みはあるけど意外にフラットに広がってきて、その後消えていくお酒でした。純米大吟醸の山廃とは酸度がだいぶ違うの、同じ山廃でも造りはだいぶ違うのではないかな。
香は熟成よりは穀物的な香りのような気がしましたが、これが山廃生酒の熟成の香りの特徴のようです。
僕にとっては25BYも26BYも大きな差は感じなかったけれど、28BYとの差はみてみたかったです。
<終わりに>
この日はこの会に参加されていたフルネットの中野社長の誕生日の前の日なので、誕生日祝いのケーキが出されました。中野社長がそのケーキを家に持ち帰って夫婦で食べたいということで、この後すぐにお帰りになりました。
最後に平塚さんが撮った写真を載せておきます。真ん中の女性は中野さんの72歳を逆にした27歳のお嬢様で、この偶然を中野さんは喜んでおられました。僕の笑顔が良いですね。かなり酔っていますね・・・・
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