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講座

2017年2月24日 (金)

酒母造りについてまとめてみました(最新情報もあるよ)

先日銀座NAGANOの日本酒講座で麹造りを勉強し、長野県の丸世酒造店で麹造りの体験をし麹造りの難しさが少しわかった感じがしました。銀座NAGANOではそのあと引き続き酒母と醪の造りも勉強しましたが、現在どんな酒母造りをしているかの説明はあったのですが、どうして今の形態になったか、その理論的根拠や背景は何かの説明はありませんでしたので、それなら自分何りに酒母造りとは何かを勉強しようと調べてみました。特にブルーバックス社の和田美代子著の「日本酒の科学」と新政の佐藤祐輔さんのブログを色々と参考にさせていただきました。 

 酒造りでは昔から「一麹、二酛、三造り」と言われてきたとおり、酒造りの重要な手順は麹造り、次に酛(酒母造り)、そして醪を仕込む「造り」ということです。麹造りはお米からお酒の原料となる糖、アミノ酸、脂肪酸を作る工程を言い、どんなタイプのお酒を造りたいか、そのためにはどんな麹をどのタイミングでどのくらい投入すべきかを考え、麹のタイプ、アミノ酸の量など色々なことを制御しながら作るのが麹造りであることを知りました。これについては前回のブログでまとめてありますのでご覧ください。 

http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-1bb6.html 

<日本酒の発酵の工程について> 

麹ができればあとは酵母を投入してアルコール発酵させればアルコールができるはずなのに、ワインの場合とは違ってまず酒母を作ってそのあと3のステップにわけて麹や蒸米を投入して徐々にアルコール発酵させていきます。どうしてそんな複雑な工程がいるのでしょうか。岡さんが造った酒造りの全工程をお見せします。こんなに複雑なのです。 

Dsc_0500

この図で注目してもらいたいことがあります。日本酒の発酵は4つの工程に分かれています。まず最初に酒母と呼ばれる酛を作る行程と、酒母に添麹、水、蒸米を加えて発酵させる初添えの工と、初添に仲麹、水、蒸米を加えて発酵させる仲添の工程と、仲添に留麹、水、蒸米を加えて発酵させる留添の工の4つあります。この4つの工程が完了してから醪を2週間から1か月かけてゆっくりと発酵させる最終工程に入ります。最初に作る酒母の工程に使用するお米の総量は全体の7に過ぎなく少量ですが、重要な役目を持っています。 

この4つの工程の中で酵母を入れているのは最初の酒母の段階だけです。酒母の役割はアルコール発酵に必要な酵母を大量に増殖させることにあります。ですから酒母の役割はアルコールを作ることが目的ではなく、それ以降の工程のアルコール発酵が健全に進むような環境をつくることにあり、非常に重要な工程です。ですからお酒の母、酒母と呼ばれているのです。 

では酒母はどのように作られるのでしょうか。そのためにはまず酵母について考えてみる必要があります。 

<日本酒に使われる酵母について>

一般的に酵母は酸素があると糖を分解しエネルギーと炭酸ガスと水を作りますが、酸素が少ない環境だとエタノールと炭酸ガスと水を作るようです。この特性を使ったのが酵母によるアルコール発酵です。
 

酵母は単細胞の微生物で、果物の皮や樹液や葉のつぼみなど自然界のありとあらゆるところにいるようです。パン造りの酵母もその一つですし、味噌用の酵母、醤油用の酵母もありますが、アルコールはほとんど作らないようです。アルコール発酵する酵母にもいろいろあります。ワインには「ワイン酵母」、焼酎には「焼酎酵母」があるようです。日本酒造りに適した酵母は自然界にある野生酵母から生まれていて、昔は特定できていなかったようですが、明治時代に入って日本醸造協会が、色々な蔵に住み着いている酵母を採取して純粋培養して協会酵母として配布するようになってきています。また今では各県の醸造研究所で独自に開発した酵母もあります。協会酵母を下記に示します。 

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意外に思われる方が多いと思いますが、ワイン業界では酵母の研究はあまり進んでいなくて、最近の研究で初めて注目され始めたようで、日本の酵母の研究は世界一進んでいるといえます。 

日本酒用酵母はこの表以外にもたくさんの酵母がありますが、これらには共通した特徴があります。それはアルコール耐性がつよく、アルコール濃度20%近い高濃度のアルコールが造れることです。でもこの酵母は欠点があります。それはこの酵母は他の微生物と一緒にいるとその微生物に淘汰されるほど弱いことにあります。でも酸性の環境に強いという特徴があるので、酸性の環境にしてやると、微生物は酸性に弱いので酵母の増殖の都合がよい環境となります。 

それではその環境をどのように作るのでしょうか。現在ではその環境は乳酸を多くしてPHを4ぐらいにすればよいことが判っていますので、酒母を作るときに前もって乳酸を投入することが一般的になっています。この方法の酒母を速醸系酒母とよびますが、それについてはのちに詳しく説明します。でも。乳酸菌や乳酸のことを知らなかった昔はどのようにしていたのでしょうか。昔から日本酒は造られているので、何か方法があったはずです。 

<室町時代の日本酒の酒母> 

日本では奈良時代には日本酒が造られていたことは。万葉集にも書かれていますし、その時代には麹による酒造りが始まっていたと書いてある文献もあります。平安時代には米、麹、水で仕込む方法が開発されいくつかの種類のお酒が造られるようになりました。でもその頃のお酒は1段仕込みなので、まだ酒母の概念はなかったようです 

室町時代になると酒造りの技術も進歩し、乳酸発酵の応用、木炭によるろ過、火入れ、段仕込みの方法ができたようですが、酒母の概念が明確になったのは奈良の菩提山正暦寺のお酒の「菩提泉」が最初と言われています。それではそれはどんな方法だったのでしょうか 

ずいぶんと変わった方法でした。新酒を作るのに残暑の暑い日を選び、いかきという籠の中に生米9割、蒸米1割の比率で入れて水の中に3日間浸しておくと酸性で泡立った「そやし水」ができます。この水を仕込水として使って麹や蒸米(水につかっていた白米を蒸したもの)を投入してお酒を造るそうです。このそやし水は乳酸菌が造った乳酸が多く含まれた水で、その後の研究でPHが4になっていたことが判明しています。気温の高い時期の方が乳酸菌が良く増殖して素早く乳酸ができるからいいそうです。当然酵母は自然に入ってくる酵母です。 

この方法は菩提酛といわれましたが、この技術が引き継がれたて江戸時代になって水酛と呼ばれて広く使われるようになったようです。水酛はほとんど菩提酛と同じ方法ですが、気温の温暖な地域での酒母の製造方法として広まったようです。でも安定性が悪く、混入する微生物の種類によって酒質が大きく変わる欠点がありましたが、江戸時代には夏場に作る酒の方法として使われてきました。でも明治時代に入って次第に衰退したようです。 

<寒酛いわれた生酛系酒母 

現在生酛と言われている酒母造りが生まれたのは正確にはいつ頃であるか不明ですが、堀江修二さんが書いた「日本酒のきた道」の本の中に、江戸時代の初期に書かれた酒造りの秘伝書である「童蒙酒造記」の中に菩提酛や後の高温糖化酒母の基になるいわれる煮酛や生酛仕込みの基になる「寒仕込み酛」の方法が記されているそうです。生酛の基になる方法は江戸時代の初めには存在していたと思われます。 

生酛と呼ばれたのは明治の末に速醸酛が開発されたときだそうで、江戸時代には「寒酛」と呼ばれていて、明治の初めは「普通酛」と呼ばれていたようです。ではその方法を説明しましょう。 

寒造りとは寒前の11月から立春までの約90日間に造りを言いますが、12℃から15℃位になった蒸米と麹と仕込水を半切りの桶に入れて、5℃から7℃の低温で仕込みます。水が十分米に吸い込まれて、水がなくなったときに木片で均一に混ぜ合わせる「手酛」という作業を2-3時間ごとに、長い時は20日くらい長期にわたって行い、そのあと半切りに入っている酛を酒母タンクに移して3-4日低温(6-7℃)に保つ打瀬(うたせ)という期間を設けます。 

その後湯たんぽの役目をする暖気樽(だきたる)投入して加温操作とともに乳酸菌を増殖させていきます。そして乳酸菌が十分に多くなったころから蔵付き酵母が増殖するというjことのようです。 

この工程の状況を科学的に示した図を大七酒造が出していますので、それをお見せします。これによると打瀬の期間に硝酸還元菌が増えて亜硝酸が生成し、野生酵母などの雑菌を抑え込んだ後暖気樽による加温で乳酸菌を徐々に増やしていくと、最後に家付き酵母が増大し、できたアルコールによって乳酸菌は次第になくなっていくというわけです。 

このとき発生する乳酸菌は2種類あるそうで、ヨーグルトのようになるそうですが、両方の菌ともアルコールに弱く、酵母が元気になりアルコールを作り始めると死滅するそうです。せっかく頑張ったのに何か可哀そうですね。 

Photo

ですから、低温でじっくり米を溶かす過程で還元硝酸菌を増やすところが肝となっていますが、昔の人は理論はわからないけど、体験的にこの方法を見つけ出したのだと思います。 

<生酛系酒母>

実は生酛酒母造りは寒仕込み酛とはちょっと違っていて、手酛の時に櫂を入れてすりつぶす作業をすることにより、ここの工程の効率を上げた方法をいい、この方法は江戸時代の中頃、丹波杜氏により灘で確立されたと言われています。まさに日本発の世界に冠たるバイオテクノロジーと言えます。 

この話にはまだ先があります。櫂を入れる作業は一つの半切りの桶に2-3人が一組となり、櫂で根気よく擦り潰すので「酛擦り」とも呼ばれますが、「山卸」作業と呼ばれています。山卸では全員で「酛擦り唄」を歌ってリズムを合わせて長時間にわたって作業するので、大変な作業だったのです。この山卸の作業をやめることが可能なことが判ったのは明治後半のことだったのです。 

<山廃酛>

明治42年に醸造研究所の嘉儀金一郎技師が山卸作業をしなくても麹の酵素の力だけで米を溶かすことができることを明らかにしてできたのが「山廃酛」です。山卸作業を廃止できたので「山廃」と言います。具体的には麹の酵素が染み出した液を蒸米に何度も掛ける「酌み掛け」をして麹の力だけで溶かす方法です。ですから山廃では汲水が多く、水でシャバシャバになるので、いっぺんに混ぜ合わすことができ、生酛のように水分の少ない酛をかき混ぜるのとは違い作業が楽になります。これにより今まで生酛しかなかった方法がより簡単な山廃酛が普及することになります。 

ですから生酛も山廃酛も同じ生酛系的酛と分類されていますが、生酛と山廃の違いは櫂いを入れるかどうかだけでなく、酛の作り方にありそうですが定義は曖昧なように思えます。 

最近になって新政酒造の佐藤祐輔さんが新しい生酛を開発しました。それは寒仕込み酛に近い方法で、「手酛」の作業のタイミングで、ポリエチレンの袋に米と麹と水を入れておいておくと櫂を入れなくても酵素の力で米が自然と解けるそうです。このとき、手で混ぜながら膨張した麹を押しつぶすことはするそうです。昔はコメの精米が悪かったので櫂を入れないとなかなか溶けなかったのですが、40%精米だと手で押しつぶすくらいでゆっくり溶けるそうです。櫂を入れると早く溶け過ぎて硝酸還元菌が十分に活躍する前に糖化が始まるのでうまくいかないそうです。だから新政の酒母の米は櫂を入れなくてもうまく硝酸還元菌が増殖して乳酸菌が育つ環境ができるように、全部40%精米になっているのです。知っていましたか? 

その方法をある講演会で行われた佐藤祐輔さんの講演の要旨をブログに書いてありますので興味のある方は見てください。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2016/05/post-d8e7.html 

ですから祐輔さんの生酛は麹の力で米を溶かすという点では山廃に近い方法ですが、原点は寒仕込み酛にあるので、生酛と言った方がいいのでしょう。佐藤さんの説明では硝酸還元菌による亜硝酸反応は雑菌を殺す重要な反応ですが、硝酸イオンが少ない軟水では起こりにくいので、無機塩類を添加するといいそうで、今では山廃酛はこれが標準になっているようです。佐藤さんはもともと人工的に作られたものを添加することが嫌いなので、きっと硬水を運んで使っているのではないでしょうか? 

これで生酛系酒母の説明は終わりますが、昔は酵母添加はしないで蔵付き酵母が増えてくるのを待ちましたが、今では生酛でも山廃でも暖気加温が終わり十分乳酸菌が増えた段階で酵母を入れるのが普通になっており、新政でも6号酵母を添加しています。現在の新しい蔵では清潔な環境になっているので、蔵付き酵母を引き入れることが難しくなっていますが、木樽を使えば可能になると思われますので、木樽の得意な新政では近いうちに蔵付き酵母が標準になるのではと期待しています。 

<速醸系酒母>

生酛系酒母は自然発生する乳酸菌を育てて、乳酸菌が出す乳酸の力で、酵母を保護する環境を作っていますので、頭のいい人なら人工的に製造した乳酸を入れれば、もっと簡単にできると思た方もいると思います。まさにその方法が明治42年に醸造試験所の江田鎌治郎さんが生酛作りに代わる乳酸を投入する速醸酛仕込みを発表しました。 

でもこの方法は江田さんが最初の発明者ではなく、もっとずっと前の明治27年に現在新潟になる福酒造の岸五郎さんが乳酸を投入方法を発明しています。今から考えると当たり前の方法かもしれませんが、日本酒醸造の世界では画期的な発明でした。 

日本酒の科学の中にわかり易い図がありましたのでお見せします。この図では速醸酛はは12日間、生酛系酛は25日と書いてありますが、速醸酛は2週間、生酛系酛は1か月と言われていることが多いようです。 

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速醸酛も生酛系酛も乳酸を利用している点では同じですが、出来上がったお酒は少し違うようですがその 理論的背景を調べてみました。生酛で育った酵母は発酵力が強いそうです。生酛で育った乳酸菌は米由来の脂肪酸であるパルミチン酸とリノール酸のうちリノール酸を優先的に消費するので、パルミチン酸が多く含む酵母となるそうです。この酵母ははアルコール耐性の強い酵母なので、醪発酵の終盤でも発酵力が強くアルコールを作っていくので、辛口に適していると言われています。でも精米度が上がった最近のお米ではもともとの脂肪酸が少ないので、今ではこの効果は少ないのではないかと思います。 

次はアミノ酸の量の違いです。生酛は速醸もとより3倍アミノ酸が多いと言われています。それはどうしてでしょうか。お米の中の蛋白質はペプチド(アミノ酸がいくつかくっついたもの)に分解された後、アミノ酸に分解していきます。速醸酛と違って生酛は乳酸菌が生育するまではPHの低い時期がありこのときはペプチドが多く生成し、PHが4以下になるとアミノ酸へと分解するようにです。そのため生酛はペプチドを多く含むことになります。これが味わいの違いになるようです。 

最後に速醸酛の工程をしまします。銀座NAGANOの講座で教わったものを見ていただきます。 

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生酛では最初6-7℃くらいの冷たいところから始まりますが、速醸酛は18-20℃くらいの比較的高い温度で水と麹と乳酸と酵母と無機塩類を入れて水麹を作り、麹から酵素を十分に溶かしだしたところで蒸米を投入して、汲掛という工程に入ります。ここで蒸米を溶解糖化の促進をさせるようです。つぎに 温度を8-10℃まで冷却する打瀬に入るのですが、どうしてこれが必要なのかは佐藤祐輔さんが書いていますので紹介します。 

速醸酛を開発した江田さんは打瀬の必要はないという理論でしたが、秋田県の醸造試験所の花岡先生が「生モト・山廃みたいに、はじめに温度が低い状態から速醸酒母をスタートすれば、低温状態で酵母を休眠させたまま、先に米を良く溶かすことができるので、その後、温度を上げて酵母を繁殖させるのが良い」と言われたのがきっかけで打瀬の工程を採用することが普通の方法となったようです。 

そのあとに部分的に加温して糖化を促進させますが、暖気樽を使わないでタンクの下に電熱器などで加温すると所も多いようです。最後には20℃くらいまで加温して酵母を増殖させ、使用する前には冷却して酵母を休ませます。枯らし期間は使用するまでの期間で、速醸は生酛よりも酵母の死滅が早いので、枯らし期間は5-7日間程度にするようです。生酛の場合は1か月位たっても使えるそうです。 

酒母には高温糖化酒母もありますが、今回は省略させていただきます。以上で酒母のお話を終えますが、皆さんの参考になれば幸いです。

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2017年1月31日 (火)

銀座NAGANO日本酒講座で学んだ麹造りについて

長野県のアンテナショップである銀座NAGANOが主催で日本酒講座基礎コース後期連蔵講座として、9月から翌年の3月まで9回シリーズで洗米から瓶詰・貯蔵管理まで教える講座があることを11月に初めて知って12月より参加しました。12月は2回で麹造り、1月も2回で酒母、醪造りでした。参加して初めて知ったのですが、この講座は長野県の蔵で酒造りを体験する前の事前教育の意味もあったようです。 

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蔵の体験をするためにはこの講座を最低6回受けなければいけないそうですが、今年の蔵体験は1月末から2月初めに麹造りを体験するそうですが、まだ4回しか参加していない僕の参加は無理と思っていましたら、最後まで受講すれば6回になるので、参加できることになりました。 

今回体験する蔵は丸世酒造店で体験内容は麹造なので、そのためにこの講座で勉強した麹造りについて事前に整理しておく意味で、ブログにまとめてみることにしました。この講座の先生は玉岡あずさんです。玉岡さんは銀座NAGANOに勤務している職員のようですが、お酒造りにはいろいろと経験をお持ちのようで、講義内容も深いものがありました。下の写真が玉岡さんです。 

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今回は麹造りについて単にここで学んできたことを紹介するのではなくて、僕なりに蔵に行く前の整理としてまとめることが目的なので、僕が調べたことも書きましたから勘違いがあるかもしれません。もしあったら指摘いただければ幸いです。
 

まず麹造りの酒造りの中でどんな位置づけにあるかを考えてみます。酒造りで大切なのは一麹、二酛、三造といわれるように麹造りは非常に大切な工程であります。まず麹の役割はお米のでんぷんをアルコールの原料となる糖に変えることにありますが、それだけでしょうか。もっといろいろあるのでそれを整理してみます。 

<麹の役割> 

お米の中にはでんぷんだけでなく、蛋白質や脂質や配分やミネラルもあります。これが麹造りの段階でどうなるかを示します。 

・ でんぷんは麹菌が出す酵素のαアミラーゼやグルコアミラーゼによりブドウ糖を作ります。ブドウ糖はアルコールの原料となるだけでなく、香り成分にもなります。 

・ タンパク質は麹菌が出す酵素の酸性プロテアーゼや酸性カルボキシペプチターゼが蛋白質を分解し、アミノ酸を作ります。アミノ酸はまみ成分だけでなく、お酒の香り成分にも関わります。 

・ 脂質は麹菌が出す酵素のリパーゼにより脂肪酸を作ります。この脂肪酸は各種の脂肪酸エステルとなり香り成分や味わい成分の一つとなります。 

・ 灰分やミネラルは酵素活性のエネルギーとなるようです。 

ですから麹造りはアルコールの原料となる糖分造りだけでなく、味わいのもとになるアミノ酸のを作るのですから、アミノ酸の量をコントロールするためには麹造りが肝となるようです。 

このあたりをもっと知りたい方は僕の下記のブログを見てください。http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2016/10/9-2bb6.html

<酒造りの中での麹の位置づけ> 

酒造りの流れについてはいろいろな本に書かれていますので、僕は理解していたつもりでしたが、玉岡さんが造られた下記の図は酒造り全体の流れをうまく表現しているので、これなら全体がよくわかると感心してしまいました。こんな表現をしている図を見たのは初めてです。 

よく注意してみてください。細かいところに留意されています。例えば、麹は水と一緒に投入した後に、蒸米は必ず後から投入しています。それは水と麹を投入して麹を元気にしてから原料の蒸米を入れると麹菌が良く働くためだそうです。ですからこれを水麹と呼ぶこともあるそうです。また麹も酒母用の麹は酛麹、初添用麹は添麹という風に分けて表示しています。よく見ると面白いですね。 

Dsc_0500 

玄米から蒸米までは一直線に表示していますが、そこからが複雑になります。蒸米と麹は酒母と醪の工程の両方で使われるからです。もろみの工程には初添、仲添、留添の3つの工程があり、その作業は全部実施される日が違います。蒸米はその工程に合わせて造る必要があるので、それに合わせて蒸し作業が行われなければいけないことが分かります。 

麹はどうなのでしょうか。麹も酒母と醪の両方にに投入されますが、最初に作ったものでいいのでしょうか。当然酒母用の麹と醪用の麹は通常違います。酒母用の麹はでんぷん分解力やたんぱく質分解力の強く、ブドウ糖やアミノ酸をよく作る麹をつかうようです。ですから総破精の麹を使うことが多いようです。それに対して醪に使う麹は掛麹と言い、でんぷん分解力は強いが、アミノ酸の生成は少ないものを使うことが多いようです。それはアミノ酸が増えると味の濃いお酒になるのを嫌うからです。でも、実際にどのような麹を使うかは蔵によって違います。 

蔵によっては醪用の麹を初添、仲添、留添で同じ麹を使わないで、それに合わせて麹を作り投入することもあるようです。そうなると麹を作るタイミングも難しそうですね。麹が作り置きすることができればその点が楽になりそうですが、実際はどうしているのでしょうか。その点も考えて麹造りを勉強してみました。 

<蒸米と麹の投入量について> 

麹の行程を勉強する前に、醪に使う麹の量はどのくらいなのかを勉強しました。蒸米の量に対する麹の量は酒母の時が一番多く、最後の留添えの時が一番少なくなります。蒸米に対する麹の量の比率は以下の通りです。 

 酒母の時50%  
 初添の時40%   
 仲添の時30%  
 
 留添の時20%  
 

これだけでは比率はわかっても量的なことのイメージはできませんね。蒸米の投入時の蒸米の量の比率は酒母:初添:仲添:留添=1:2:4:6~7らしいので、簡略化して計算上1:2:4:7とします。すると蒸米の総量を1とすると、酒母は1/14、初添は1/7、中添は2/7、留添は1/2となるわけです。 

総米を600kg仕込みを考えた場合、総米(蒸米+麹米)は母で43kg、初添が85kg、仲添が170kg、留添で300kgになるわけで、各段階でそれにあった量の蒸米をタイミングに合わせて蒸す必要があることが判ります。蒸す時間は通常1時間ぐらいなので事前に準備できそうですね。 

それに対して麹の量は前述の麹の比率を当てはめてみますと、母が14kg、初添が24kg、仲添が39kg、留添が50kgとなり、総麹量は127kgとなり、麹の比率は21.2%となります。麹米の比率は20%~23%といわれているので、ほぼ合致いたしますね。麹の製造時間は丸2日かかるので、それに合わせて麹を用意するのは大変そうですね。 

蒸米に対して水の量は程同量入れますので、全体がどうなるかを示すわかり易い資料を見つけました。FBO出版の日本酒の基のテキストに図示されていましたのでそれをお見せします。銀座NAGANOで教わった麹の量より多いですが、普通酒の場合はこのぐらいになるのかもしれません。でもイメージをつかむには良い図だと思います。 

Dsc_0651

 <麹造りの工程:製麹(せいきく)> 

この工程についても玉岡さんはわかり易い工程表を作っていただいております。 

Dsc_0498_2

 麹の工程は通常蒸米を引き込んでから出麹をするまでは約2日強の時間かかります。上図の中でかっこ書きにしているところは、蔵によってはやらないところがあるからだそうです。これを簡単に表すと下記のようになります。 

1日目 引き込み ➡ 種切り ➡床もみ ➡切り返し
2日目 盛り ➡ 仲仕事 ➡ 仕舞仕事
3日目 出麹 ➡ 枯らし

それでは工程ごとにその内容を示します。 

<引き込み> 

蒸米を放冷して麹室に入れることを引き込みと言います。その時の温度は通常33~35℃くらいで、吸水率も+33%位です。引き込みは温度が変わらないように短時間でやる必要があるので人手をかけるようです。引き込んだ蒸米の温度を均一にするために、一度床と言われる台の上に積み置きして布をかけられ1-2時間おきます 

<種切り> 

蒸米の温度が均一になったら、床に積み上げた蒸米を崩して、床一面に広げて麹菌の胞子である種麹をまんべんに振りかけます。この工程を種切と言いますが、その間温度が下がらないように手早く行う必要があります。。 

<床もみ> 

振りかけた種麹が均一に蒸米につくように床の上でよくかけ混ぜます。この工程を床もみと言います。床もみの作業が終わったら再び床の上に積み上げて布野をかけて乾燥や温度が下がることを防ぎます。床もみの終わったときの温度をみあげ温度と言い、31℃から32になるようにするのが重要なことのようです。温度が下がると菌の繁殖が阻害されるからです。

<切り返し> 

床もみ終了後8-10時間たつと蒸米の表面が乾いて米の粒子同士がくっつき始め硬い状態になります。それをほぐしてよく揉み合わせる作業を切り返しと言います。切り返しは温度の水分を均一にすることと、麹菌に酸素を供給するのが目的ですが、この段階は菌がまだ食い込んでいないので、温度が下がらないよう迅速にやる必要があり、蔵人総出で行うようです。切り返し後は再び床に積み上げて布に包んでおきます。 

<盛り> 

切り返しから10~12時間後、引き込から22~24時間後になると、米に麹菌が繁殖した証である白い斑点が見えるようになります。このときはシャベルで崩すほどの硬さになっているので、通常は機械でほぐしてバラバラにします。この後は麹菌の繁殖による発熱で温度が高くなるので、一定の大きさの箱、(小さいもので15kg、やや大きいと30kgなどの箱)に入れる作業を盛りと言います。このときは下の図のように、通気性がいい室で専用の布の上に蒸米を片方または中央に6~8㎝くらいに盛るそうです。盛った箱は2~3段に積んで、積み上げた箱全体をキャンパスや毛布で包んで、温度を見ながら掛具合を調節します。 

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Photo_2

<仲仕事> 

盛りの作業の7-9時間たつと蒸米の温度が35℃から37℃に上昇します。このときの独特の青っぽい香りがするそうです。ここで熱の急激な上昇を防ぐために、再度温度が均一になるようにかき混ぜます。すると温度は1-2℃さがりますが、再び、箱の中で5-6cm厚さにひろげます。この作業を仲仕事と言います。通常は引き込んだ翌日の午前中に行うことが多いようです。 

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積み上げた箱の上の温度が高くなりやすいので、定期的に上の箱は最下部に、下の箱は上に移動させます。この作業を積み替えと言います。 

<仕舞仕事> 

仲仕事の後6-7時間たつと蒸米の温度が37℃~39℃に上昇します。熱の急激な上昇を防ぐために、麹全体の温度を均一にするためにかき混ぜます。そのあと箱全体に薄く蒸米を広げて、表面積を広げるために表面に溝をつけます。この溝の形は蔵によって違い、丸くするところとかまっすくにつけるなど色々あります。この作業を仕舞仕事といいますが、この時が一番温度管理が難しくなるので、1時間おきに換気窓の隙間を調整するなど気を遣う作業だそうです。 

<出麹> 

仕舞仕事の後8~10時間前後、引き込みより43時間~45時間後に、麹が出来上がります。酒母麹の場合はさらに数時間延ばして出すこともあるようです。その時の麹の温度は40℃~43℃ですが、麹室の中で麹を手でほぐして敷き布ごと室の外に運び出して、これ以上麹菌が繁殖しないように冷却します。この作業を出麹といいますが、蔵によっては専用の部屋を設けているところもあります。 

<枯らし> 

麹部屋の外の寒冷で湿気のない通気性の良い床や棚に麹の用途別に布を広げて麹をさらします。掛麹が同じ麹でよい場合は用途別に分けて使えばいいですが、タイミングが合わない場合枯らした後に冷凍保存することもあるそうです。冷凍保存しても菌が死ぬわけではなく休眠状態になるだけだそうです。その場合はあらかじめ麹を作っておけば長期保存をすることができますし、季節の温度が上がったときにはもろみの温度を下げる冷却材としても使えるようです。 

以上で麹造りの工程の紹介を終わりますが、次に麹造りの全体の温度の流れを見てみましょう。 

最初にお見せするのが引き込み温度が高い場合の一例ですが、麹造りの各作業の初めに蒸米をかき混ぜる作業があるので、必ず温度が1~2度くらい下がっています。アミノ酸の量を抑えるためには35℃~38℃帯を素早くすり抜けることがポイントだそうです。逆にアミノ酸を増やしたいときはゆっくりその温度を通過させるようです。 

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低温引き込みの場合は初めの段階をゆっくり進めて、後半に一気に温度を上げる場合が多いので、アミノ酸の少ない切れの良いお酒になるようです。 

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<麹室について>

麹室は杉の木の壁で作られることが多いのは湿気を適度に吸うので、乾燥した室になりやすいからですが、最近は完全空調をしたステンレス壁の室もあるようです。麹造りの1日目の部屋と2日目の部屋は目的の違う麹を取り扱う可能性が多いので、部屋は最低2室必要です。大きな蔵では目的別に違う麹室を持つため10室くらい持っているところもあるようです。部屋のの温度は28℃が標準ですが、部屋によって温度や湿度の環境を変えることも多いようです。

<破精込みについて> 

麹の繁殖状態ついて麹菌の生育や度合いを表現する言葉に「破精」という言葉が使われ、米粒を割ってみた時に禁止の侵入した度合いを「破精込み」と言います。麹の形状には以下の4つがありますので、以下に示します。 

「総破精型」 

蒸米の表面全体が菌糸に覆われ、内部にも深く破精込んでいて、糖化力も蛋白質分解力も強いが、味が濃くなりがちです。酒母用に使われたり、濃醇タイプのお酒を目指すときに使われます。蒸米が膨軟だったり麹室のの湿度が高い場合にできるようです。 

「突き破精型」 

蒸米表面の菌糸の発育は表面全体を覆うことはなく、破精部分とそうでない部分に分かれているが、菌糸は内部に深く破精込んでいます。強い糖化力をもち、適度な蛋白質分解力を持っているので、吟醸酒や淡麗でふくらみのある酒造りに使われます。蒸米が外硬内軟で、麹室の乾燥状態が良い時にできるようです。 

塗り破精型」 

蒸米の表面全部が菌糸に覆われるが、内部への破精込みは少なく、糖化力も蛋白質分解力も弱く、味が薄くなりやすいく、粕が多くなります。蒸米の吸水が芯までいかず、表面のみが給水しているときの起きやすいそうです。 

馬鹿破精」 

蒸し米が柔らかすぎて中心部まで全体の破精が回り、握ると固まるようなものを言い、糖化力も蛋白分解力も弱く麹としては使えないようです。 

<麹室に使われている計測類> 

下記にしましたように昔からの乾漆温度計のほかに、デジタル温度計や留点温度計(最高温度を示す)ものとか、最近ではWiFI型の温度計とかロードセルなどの新兵器もあるようです。 

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以上で麹造りの紹介を終わります。

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2017年1月10日 (火)

インフィニット日本酒中級コース第12回(酒の表現)

インフィニット日本酒中級コースも最終回の12回となりました。中級コースには卒業試験はありませんで、自分の判断で上級に進むことはできますが、今回は中級クラスのまとめとして、飲んだお酒の印象をどのように表現するかについて、実際に試飲したお酒で具体的に勉強しました。 

その例をお示しする前に、原則としてどのような手順で表現するかの原則論についてまとめておきます。香りについては日本酒の酒質を見ることにより、ある程度予想されるので、それを頭において嗅ぐことが大切だそうです。 

<香りについて> 

お酒の香りには香りのもととなる化合物を鼻で嗅ぎながら特定ししていき、その強弱、濃淡、状態、印象を言葉で表現していきます。まず香りの種類によって大きく8種類に分けて考えます。 

1.原料系の香り: 表現の一例(穀物のような) 

  ・ 原料のお米や酒粕から穀物系の香り
  ・ 蒸米、酒粕、ごはん、玄米、麹、餅の香りです
 

2.清涼系①の香り: 表現の一例(清涼感のある) 

  ・ エタノール、酢酸エチル、乳酸の香り
  ・ アルコールの香りはメンソール、すっとしたアルコール臭、
    酢酸エチルは溶剤とかセメダインの香り、乳酸はヨーグルト
    サワークリームの香りです。
 

3.清涼系②の香り: 表現の一例(青々しい)  

  ・ 新酒生酒に必ず存在するアセトアルデヒドや
    木桶や樽からくる木の香
  ・ アセトアルデヒドの香りは青草、ハーブ、青りんごの香りで
    木からくる香りは松の葉、杉の木の香りです。
 

4.果実系の香り: 表現の一例(フルーティな) 

  ・ カプロン酸エチルや酢酸イソアミルのエステル系の香り
  ・ カプロン酸エチルはリンゴ、メロン、グレープフルーツの香り
    
酢酸イソアミルはバナナ、パイナップル、洋ナシの香り、
    カプロン酸エチルのもとになるカプロン酸はミルクの香り
 

5.重厚系のの香り: 表現の一例(厚みのある) 

  ・ 高級アルコールからくる香り
  ・ 高級アルコールはその炭素数で香りは違ってきます。
  ・ 油性マジック、ろう、油脂、樹脂、穀物、木の実の香り
 

6.熟成系①の香り: 表現の一例(熟成の深みのある) 

  ・ 熟成によって生まれるフラノンの香り
  ・ 熟成の程度は温度や熟成期間で変わりますが、色である
    程度分かります。
  ・ 飴・シロップ、ナッツ、玄米、カラメル、紹興酒、ドライフル
    ーツなどの香りです。
 

7.熟成系②の香り: 表現の一例(漬物のような) 

  ・ Pスルフィド(硫黄化合物)の香りで、熟成の過程で出る
    ことがあるようです。
  ・ 硫黄、酵母、DMS,たくあん、温泉卵、ガス臭などの香り
 

8.不快臭系の香り: 表現の一例(鼻を刺すような、独特な) 

  ・ 製造工程のプロセスの中で生まれる化合物からくる香り
    で、色々なものがありますので、臭いから原因が推定
    できます。
    詳しいことは下記URLを見てください。

 http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/5-27fd.html                                                                         
  ・ ムレ臭(イソバレル)、糠(酸化)、老香(酸化や劣化)、紙臭
    (ろ紙)、カビ臭(TCA),つわり臭(ジアセチル)、丁子臭
    (4VG)などの香りがありますが、いい香りでないので、
    表現が難しいところです。
 

このように香りを特定したとしても、それを香りのもとになる化合物名のような専門的な言葉で説明するのではなく、表現の一例に示したように8つに分類した香りが分かるような表現をするのが基本のようです。そのほか、香りのの強弱、濃淡などの状態・印象を表現するのが良いようです。そのパターンもある程度決まっていますのでその例を示します。 

1.香りが強い場 :
  
しっかりとした、濃厚な、凝縮感のある、複雑な 

2.香りがやや強い場合:
  はっきりとした、ふくよかな、深みのある、
 

3、香りが中程度の場合:
  適度な、程よい 心地よい
 

4.香りがやや弱い場合:
  ほんのりとした、落ち着いた、優しい、やさしい
 

5.香りが弱い場合:
  控えめな、淡い、軽やかな、穏やかな、シンプルな
 

それでは香りの表現をまとめてみますと
①香りの具体例を出す
②香りの強弱を出す
③香の状態や印象を示す

と良いようです。

ではカプロン酸エチルの香りがあって、1回火入れで、まだアセトアルデヒドの香りがするお酒の場合の表現の例を下に示します。

リンゴののようなフルーティな香りに加え、メンソールのようなさわやかな香りが混在する」といった表現になります。もっといろいろな香りがあったとしても、印象の強い2点ぐらいを取り上げるのがポイントだそうです。 

<味について> 

味わいを書く場合は、口に含んですぐ感じるアッタク(1stステップ)、中程で感じる味(中域2ndステップ)、最後に感じるアフター(3rdステップ)に分けて考えます。例えば下記の表のように甘みは最初に強く感じたけど後は少なくなり、うま味はあるけど全体に薄い、酸は後半にしっかり感じるけど苦みは少ないが、滑らかさは抜群なお酒の場合を例にとると、下記の表のように示すことができます。  
 

Photo

このような時の表現は「しっかりとした甘みのボリューム感があり、舌触りがなめらかで上品な印象がある。そして徐々に酸味がしっかり広がり後口に苦みがほんのりと残る」といった表現になります。 

ポイントはこの表のようにはっきりと3つのステップに分けてチェックできるかどうかですが、これは簡単なようで難しいです。線の太さで表すことが難しい場合は、どんな味わいがどのステップで感じたかを認識できれば同じような表現ができることになります。 

以上のようなお酒の表現の仕方は、一般のお客様にお酒の特徴をわかり易く説明するときに使うので、蔵の専門家とお話しする場合は専門的な化学名を使ったほうが的確に情報交換ができるかもしれません。でもここでの表現の仕方は単なる印象ではなく、あくまでも科学的根拠に基づいての表現であることは忘れてはいけないところだと思います。

<試飲したお酒での例の紹介> 

それでは実際に2種類のお酒を試飲しましたのでそれについて、表現仕方を紹介します。

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1.八海山大吟醸 山田錦40%精米 

  Alc度15.5、日本酒度+5、酸度1.0、AA度0.9、酵母協会1001、

2.あざくら 純米吟醸中取り 美山錦50%精米 
  Alc度15-17、日本酒度+2、酸度1.4、AA度1.1、酵母秋田15号

色を見てみましょう。あざくらは明らかに色がついています

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それでは順番にテースティングしていきます。 

1.八海山 大吟醸

香はあまり強くなく、カプかイソかもなかなか判定しにくい程度である。そのために本当ならあまり感じない乳酸の香りも少し感じるので、これを表現すると、下記のようになりました。
「わずかにフルーツの香りがあるが、全体的にはシンプルで軽やかな印象です」

味については下記の表のようにまとめました

Photo
前述の例にちょっと似たバランスになってしまいましたが、表現としては下記のようにまとめました。
優しい甘みが広がり、滑らかな舌触りが心地いい。徐々に軽やかな酸味が爽快感をもたらし、後味に少しを苦みが残る
前述の例とはかなり印象が違うことが分かりますね。

2,あざくら 純米吟醸中取り

香りについては熟成によりできたフラノンの香りが少し出て、酵母が出すフルーティな香りが抑えられています。アセトアルデヒドが残っているので、さわやかな清涼感を少し感じさせる印象があるが、これはなかなか表現が難しい。

味を見ていくと最初に感じるのが酸であり、甘さは感じるけどシンプルなイメージで、うま味は多少支えているが弱い。滑らかさは酸が強いのであまり感じない。細かいコメントが難しいお酒ですが、次のような表現となります。
優しい甘みと酸味がしっかりとささえているのですっきりとした印象です

以上で紹介は終わりますが、コメントには正解はありませんが、まとめるのがいかに難しいかがよくわかりました。奥が深いですね・・・・・・ 

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2016年12月17日 (土)

インフィニット日本酒中級コース第11回(他のお酒との違い)

インフィニット日本酒中級コースも11回となりあと2回となってしまいました。今回はちょっと趣向を変えて、日本酒を他のお酒とどう違うのかを考えてみることにしました。対象とするのは焼酎、ウイスキー、ワインです。

<焼酎について>

まずは焼酎を調べてみました。焼酎とはでんぷんを含む原料を麹で糖化し発酵させたもろみを蒸留して作ったお酒を言います。その原料としては、芋が有名ですが、米、麦、そば、ごま、黒糖などが使用されますが、原料によってその作り方は微妙に変わるようです。代表的な作り方を芋の場合で説明します。

原料のサツマイモを洗浄し、蒸した後冷却して粉砕します。それに麹菌をかけて芋麹を作るのかと思ったら、違っていました。最初は芋ではなく、お米を使います。まず洗米、浸漬したあと蒸し器で蒸した蒸米に麹菌をかけて米麹を作り、その麹と水と酵母を入れて25度から30度くらいで、1週間くらい発酵させた一次もろみを作ります。日本酒でいう酒母に相当します。

そのあとこの一次もろみに主原料の粉砕した蒸し芋と水を投入してさらに、10日から15日くらい発酵させた二次もろみを作ります。そしてその二次もろみを蒸留して焼酎を作ります。わかり易い図を見つけましたので、下記に添付します。ナツメ社の「うまい酒を科学する事典」を引用させてもらいました

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本には説明はなかったので理論的なことはわかりませんが、粉砕した芋に麹菌をかけてもお米のような麹はできないのだと思います。その証拠に麦の場合は麦麹を作る工程があるようです。そばの場合は昔はそば麹を作るのは難しかったのですが、最近は技術が進歩しそば麹を作るようになったようです。

では麹菌には何を使っているのでしょうか。焼酎に使われる麹菌は黒麹菌、白麹菌、黄麹菌の3種類です。日本において最も馴染み深いのは黄麹菌で日本酒や味噌や醤油などに多く使われています。しかし、冬でも温暖な南九州ではお酒のもろみを作る最中に腐敗することが多く、酒造りは難しかったので、江戸時代の島津藩では日本酒の作りを禁止するおふれを出すほどでした。

しかし、九州より暖かい沖縄では泡盛が昔から普通に作られていました。鹿児島県の監督局の河内源一郎技師が、このことに疑問を持ち泡盛菌を取り寄せて、その中から黒麹菌の採取に成功します。この黒麹菌は飛散しやすいので蔵人の服を黒く汚してしまう欠点はありましたが、麹の中に大量のクエンを作るので、この酸のおかげでもろみの腐敗を防ぐ力が強かったのです。その後、九州ではこの黒麹を使った焼酎造りが定着しました。どうして黒麹が日本酒では使われないのかというと酸味が強いもろみができるので、お酒が酸っぱくなるのに対して、焼酎の場合は酸は蒸留されないので、お酒が酸っぱくならないからです。

その後河内さんは麹菌の研究を続けて黒麹菌からの突然異変によって白麹菌を発見します。黒麹菌は力強くどっしりした味わいになるのに対して、白麹菌はまろやかな香りの優しい味わいになるのと、飛散しにくいので服が汚れないという長所があったので、九州で広く使われるようになったようです。黄麹菌は華やかでフルーティな味わいになりますが、酸を出さないので、九州では焼酎用としては使われなくなっているようです。空調設備が整った現在では技術的には可能だと思いますが、設備費がかかりますからね

焼酎の蒸留には単式蒸留と連続式蒸留があります。この方法は下記の図のようにもろみをタンクに入れて下から加熱して蒸発したものを冷却する単純な蒸留方法で、もろみの中の成分が取り込まれるので、いろいろな風味の焼酎ができ、これを本格焼酎とか乙類焼酎と呼ばれています。一方連続蒸留は何段にも蒸留を重ねるので、雑味の少ない純粋なアルコールに近い焼酎になり、甲類焼酎と呼ばれています。

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焼酎と日本酒ははもろみの作り方は共通の部分はありますが、日本酒のようなキメ細かい造りではなく、かなり大雑把な造りのもろみであっても、蒸留することにより安定したお酒ができるようであり、どうしても日本酒のような複雑な味わいにはなりません。これをウイススキーのように樽で熟成させれば、違ってくると思います。

<ウイスキーについて>

ウイスキーは大麦の麦芽やライ麦やとうもろこしなどを主原料とし、発酵させたもろみを蒸留して作る酒を樽に入れて熟成させたものをウイスキーといいます。この製造工程を下記にしましますが、これもナツメ社の「うまい酒を科学する事典」から引用させてもらいました。

Img004_2

まず、原料の大麦を水に浸して発芽させると、デンプンを分解する酵素を生成するので、ある程度酵素が増えてから発芽を止めるために乾燥させます。この工程を製麦といいますが、乾燥にピート(泥炭)を燃やした煙を使うとその煙臭がスコッチウイスキーを特徴づける香りの一つとなります。

 乾燥した麦芽はごみや小石を除去した後、粉砕され約63度の温水と混ぜられます。すると麦芽中のデンプンに酵素が作用し、デンプンが分解して糖分が温水中に溶け出す。こうして得られた液体を麦汁といい、この工程が仕込みと呼ばれます。 

麦汁を発酵槽に送り、酵母を加えてアルコール発酵させ、7%濃度のエタノールを含むもろみをつくります。ウイスキー適した酵母は数百種あると言われています。発酵の工程は48時間~70時間で、時間が長いほど乳酸菌が多くなり酸味が強くなるそうですが、この時間が味を変化させるようです。 

発酵で出来たもろみを単式蒸留器に送り、スチルの下部から加熱することにより、蒸発しやすいエタノールを優先的に蒸発させ、エタノールの濃度を増やしていきます。蒸留は通常2回行われ、最初に21%まで濃縮し、2回目に70%まで濃縮するそうです。そのほか連続蒸留でもっと高濃度にする方法もあります。この蒸留によって、エタノール以外の成分をどのくらい製品に含ませるかも味を決めていく大切な部分だそうです。 

蒸留により出来た無職透明な蒸留液(原酒)は加水して60%ぐらいしてから樽詰めされて、貯蔵庫で貯蔵ます。この濃度にするのは、樽に含まれる高分子成分を分解するのにそのアルコール濃度が適しているからだそうです。ウイスキー樽は気温の変化により呼吸するようであり、その呼吸により樽の外へ揮発成分が抜けながら熟成が進むようです。 

ウイスキーの味はどこで決まるのでしょうか。一番重要なのは樽の中での熟成期間のようです。行程的には焼酎と似ているところがありますが、樽での熟成期間が長いところが大きく変わります。ウイスキーの世界では数多くの種類のものが造られていますが、味わいの深さを比較するとワインや日本酒の方が味わい深いと思います。

<ワイン

ワインは原料となるブドウにアルコールの原料となる糖が十分に含まれているために、葡萄だけで発酵してアルコールを作ることができます。

ワインの製造工程については白ワインと赤ワインでは若干工程が違いますが、それについてもナツメ社の「うまい酒を科学する事典」から引用させてもらいました。

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白ワインの場合は白ワイン用のブドウを使い、赤ワインの場合は赤ワイン用の黒色のブドウを使いますが、両方とも最初に余分な苦みが出ないように茎の部分を取り除く除梗を行います。そのあと果汁を取りやすくするために破砕を行います。

白ワインの場合はそれを圧搾し果汁を搾り取り、タンクに入れて酵母を加えて15度から20度で約2週間発酵さしますが、発酵を途中で止めれば糖分が残るために甘口になり、最後まで発酵させれば、辛口のワインになります。

赤ワインの場合は除梗・破砕の後、果汁、果皮、種子を一緒にタンクに入れて、酵母を加えて28度から30度で約1週間発酵させます。発酵が終わったワインはタンクの底から引き抜きを行った後、残った果皮と種子の粕を取り出し、それを圧搾してワインを取り出し、それをさらに発酵させます。

こうしてできたワインを入れたタンクの底には澱が溜まるので、澱引きをしてから樽に入れて1~2年熟成させ、それをに詰めてからさらに2年から5年熟成させますが、高級ワインは10年以上熟成させます。

以上がワインの製造方法ですが、日本酒と大きく違うのは日本酒はお米を麹菌で発酵させて糖を作るのに対してワインはブドウから直接作るのと、ワインは必ず熟成させること2つだと思います。これが味の差となるだけでなく、作り方の重点の置き方が大きく変わるもととなっています。

ワインの発酵はシンプルでその発酵のさせ方にあまり細かい管理は必要ありませんので、いかに良いブドウを作るかが大きな決め手となります。それに対して日本酒はお米の選択も重要ですが、お米違いを引き出すためには麹による発酵にきめ細かい管理が必要ですし、もろみの発酵も並行複発酵という高級な発酵をさせるので、もろみの状態を科学的分析をしながら管理していく必要があります。具体的にはもろみの比重、酸度、アルコール濃度、アミノ酸濃度、グルコース濃度などを測定しながら細かい管理をしていきます。日本酒の醸造は世界中のお酒の中で最も科学的な数値をもとに管理している方法です。

一方ワインの味を決めるのは熟成にあります。熟成は通常15度くらいの温度で熟成させますが、日本酒で同じことをすると熟成が進んで、色は茶褐色になり、香りも紹興酒のような香りとなり、ワインのようなきれいな熟成はできません。その原因は日本酒は酸度がワインの1/3以下と少ないので、熟成が進みやすくワインは熟成が遅いからだと思われます。日本酒の場合も温度を下げて熟成させれば、そのスピードは遅くなることはわかったいますが、まだまだ熟成に関する研究が浅く、ワインのような実績がないといえます。

以上いろいろなお酒の比較をしてみましたが、それを総括的にまとめると、以下のようになると思います。

香りや味の複雑さを順番に並べると、甲種焼酎<ウイスキー<乙種焼酎<日本酒<ワインの順になると考えます。ウイスキーが乙種焼酎より下というのは異論があるかもしれませんね。

蒸留酒であるウイスキーは樽での熟成に依存しているので、複雑といえども限界があるのに対して醸造酒は酵母が造り出す色々な成分がそのまま含まれているので、もともと複雑な要素を持っています。日本酒の場合は酵母の数が多く、焼酎よりずっと複雑です。ワインはブドウの種類が多いこと、樽による熟成が加わっていること、長期熟成により複雑な変化が起こることで一番複雑性が高いと思われます。

菅田先生の言葉によりますと、本当に良いワイン(1本30万円くらい)を飲みますと、複雑な香りと味が体を取り込み、とても幸せになるそうです。これは飲んだことのない人にはわからないそうです。日本酒では高級なお酒でも、なかなかそこまでいかないですが、科学的な研究に裏打ちされた技術があるので、世界のワイン業界からその製法については注目されていて、勉強のために日本来るワイン製造者が増えているそうです。日本酒でも「幸せになれるようなお酒」ができることを期待したいと思います。

ワインの酵母は日本酒のようにたくさんあるわけではなく、ボルドーの酵が一般的だそうです。ワインの世界でも野生酵母と呼ばれている自然酵母があり、土、ブドウの木、昆虫などから採取してるそうです。最近ではニュージーランドで、同じ果汁でも酵母によって全く違うワインができることが研究されていますので、これからもっと色々な酵母が使われるようになるかもしれません。日本の酵母は古い蔵で採取したものが協会酵母として普及しましたが、最近では各県の研究所で開発されたものがどんどん出てきているので、日本酒の酵母はワインの世界を凌駕しているものと思われます。

以上で日本酒以外のお酒との違いの説明を終わります。例によって試飲したお酒の違いをご紹介します。今回は下記の4種類のお酒でした。

1.黒龍38号 純米吟醸 山田錦50-55%精米 
  Alc度16、日本酒度+3.5、酸度1.2、AA度-、酵母自社酵母、

2.醸し人九平次 純米吟醸 山田錦50%精米 
  Alc度15、日本酒度+1、酸度1.4、AA度-、酵母協会1401
 

3.一念不動 特別純米 ひやおろし 夢山水60%精米  
  Alc度17、日本酒度-、酸度-、AA度-、酵母-
 

4.誠鏡 純米たけはら、山県産米65%精米 
  Alc度15.5、日本酒度-1、酸度1.3、AA度-、酵母小川酵母
 

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1.黒龍38号 純米吟醸 山田錦50-55%精米 

色はあまりついていないので、墨ろ過をしてるかもしれない。香りはイソ系をベースにしながら少しカプ系の香りがある。カプロン酸エチルの前駆体であるカプロン酸は少しミルクの香りがするのでわかるそうです。黒龍は熟成をさせてもフラノンの香りを出さない技術があるそうです。

味を見てみると甘うまい感じがぱっと感じるけど、テクスチャーがなめらかなのでそれを強く感じさせません。酸をうまくなじませて、アフターにコハク酸の苦みを少し出してバランスさせています。大人のバランスのお酒でした。 

2.醸し人九平次 純米吟醸 山田錦50%精米 

少し穀物系の香りがするのは熟成によるフランのから来ているものと思われます。14号系のイソ系の香りがベースとなっています

アタックに甘みがあり、過ぐに酸が出てほんのりうまみも感じてきます。その中盤から酸が強くなりとそのあとに苦みが混じって出てきます。1番のお酒はまとまった味がするのに対して、いろいろな味が飛び出してくるお酒でした。お燗を目的としているお酒かもしれません。  

3.一念不動 特別純米 ひやおろし 夢山水60%精米

カプ系の香りがベースで、イソの系の香りもします。酵母はたぶん7号酵母だとおもわれます。アルコールが高いので乳酸の香りとアセトアルデヒドの香りがあるので、若々しい印象です。

味を見てみると爽快感が強くてさわやかな味わいですが、酒質が荒く感じてちょっと刺激的な感じがします。   

4.誠鏡 純米たけはら、山県産米65%精米 

カプの香りがポンと来ますが、フラノンの香りと熟成香でマスキングされれカプロン酸の香りは見つけにくいし、イソ系の香りも見つけにくいです。

香りからは酸が強いのでは思いましたが、飲んでみると、思ったほど酸味はなく、トロットとしたうまみがあるので、アミノ酸が少し多いのかもしれない。最後の苦みはコハク酸からくると思われます。
  

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2016年11月19日 (土)

インフィニット日本酒中級コース第10回(味の表現)

インフィニットの日本酒中級コースもあと3回(実際にはこのブログを書いている時期ではあと1回)となってしまいました。この中級コースを卒業して何か資格が得られるのでしょうか。そんなことはないそうです。このコースの上には上級コース、さらにその上にはプロコースがあるそうですが、プロコースの最後には厳しい卒業試験があるだけで、それまでは試験はなく、自己判断で進級できるようです。でも最初からプロコースに進む人はいないようで、今プロコースを卒業した人はまだ9人しかいないそうです。 

プロコースを卒業しても公的に認められる資格ができるわけではないけど、杜氏の補佐ができる営業になれる、酒販店の営業を指導できる、デパートの酒販売の営業指導ができるというレベルの実力をもち、日本酒の正しい情報を世の中に伝える仕事ができるような人を育てることが目的のようです。そして、今年、プロコースの人が中心になって酒研究会が発足したので、これからこの会がどのような活動していくかが見えてくるようになるものと思われます。楽しみですね。 

それでは中級コース(初級コースもあります)、上級コース、プロコースでどのような教育をやり、どのようなレベルになるのでしょうか。具体的な説明はなかったので正確なことはわかりませんが、インフィニットの今までの活動や今まで教わった中身から考えると、中級コースは、お酒の香りや味を構成しているものは何か、それが酒造りのどのプロセスで出来上がるか、そしてその香りと味の違いを体で感じ取れるようになるレベルだと思います。プロコースでは試飲するだけで、お酒のスペック(精米度、アルコール濃度、火入れの回数、熟成度、さらには酸度、日本酒度、アミノ酸度、酵母の種類)をある程度正確に推定できるレベルだと思います。もちろんお料理との相性の説明もできるし、造りの良さや悪さもわかるでしょうね。造りの部分まで考えるところがワインのソムリエとは違うところだと思います。上級コースは中級とプロの間ということになります。 

今回は中級コースの仕上げの段階でですので、お酒のスペックからどんな香で、どんな味がするのかを想像して、そのうえで試飲したお酒をどのように表現するかの説明を受けました。お酒の瓶のラベルにはお酒のスペックが書かれていますが、最近はそれをあまり書かない蔵も多くなっています。しかし、特定名称酒で必ず書いてあるのは、米の精米度、アルコール濃度、醸造アルコール添加の有無で、これが判れば、酒質の70%はわかるそうで、その上に酵母の種類、火入れ、熟成度が判ればからさらに正確に推定できるようです。 

<精米について> 

お米を精米すると蛋白質は少なくなり、デンプンの比率が多くなります。すなわち精米が進むと蛋白質からできるアミノ酸や高級アルコールが少なくなり、デンプンからできる糖や酸が主体となるお酒になります。精米度の高いお酒は糖を主体とした甘みを感じるシンプルで綺麗なお酒になります。精米度が悪いと油っぽい香りのする高級アルコールや旨みや苦みの素となるアミノ酸が多くなりコクのある複雑な味になりなります。中間の精米度は50-55%と思われます。 

<アルコール濃度について> 

アルコールには甘みを感じるグリセロールと苦みを感じるチロソールが含まれているので、アルコール濃度が高くなると、甘みと苦みが増えてきます。逆にアルコールが少なくなると甘さも苦みも減ってきます。したがってアルコール度数の高い17%以上の原酒はしっかりとした甘みとコクの元になる苦みがあるので、濃い味のおになります。 

アルコール度数が減ると甘みも苦みもなくなるので、軽い淡泊なお酒になります、。中間のアルコール濃度は15-16%といえます。通常は原酒を作って加水してアルコール濃度を下げることが多いので、加水すると酸度以上に酸を感じやすくなるそうです。 

<アルコール添加について> 

アルコール添加するアルコールは糖蜜から作られる蒸留アルコール(96%濃度)を薄めて30%濃度のアルコールを添加します。アルコール添加するとアルコール濃度は上がりますが、全体としては水が増えているので、味は薄くなります。加水してアルコール濃度を下げればなおさら薄くなります。アルコール濃度だけでは味の予測は難しくなってきますが、アルコール添加すると薄くなると考えるべきだそうです。 

<火入れについて> 

味そのものよりも香りに影響が出やすいそうです。入れすると香りが穏やかになり、丸みを帯びて穏やかになります。火入れをしないと多少角が立つけど清涼感やフレッシュ感が出てきます。火入れをすると丸みを帯びるのは、温度を上げることにより水分子が動き易くなり、冷やして動きが小さくなったとしても前の状態より変わりマイルドになるようです。また温度を上げることによりアルデヒドは飛散して清涼感はなくなりますが、少しポテッとした感じが出ます。また、メーラード反応によりフラノン類の生成も起こることもありますので、その時は老香のような香りが出てくることもあります。 

<熟成について> 

熟成は温度の影響が大きく、温度が低くなれば長い間熟成しても香りは多少減るけれども、熟成香は少なく、色もあまりつきませんが、温度が高いと短い時間でも熟成香が出ると同時に苦みも出てきます。ですから非常に複雑なので、色と香りで熟成の度合いを判断するしかありません。お酒の苦みを出すのは3つあるそうです。アタックから中域で感じる苦みはアルコールの苦みで、中域からアフターに感じる苦みはフラノンやアミノ酸の苦みで、アフターの最後に感じる苦みはコハク酸と考えるといいそうです。 

<味の表現の仕方> 

代表的な日本酒のスペックの味を考えてみます。 

アルコール度15-16%、日本酒度+5、酸度1.3、アミノ酸1.3という平均的なお酒を考えてみます。お酒を口に含んだ時に最初に感じるのがアタック、中ほどが中域、最後に感じるのがアフターです。冷たいお酒を口に含むと、口の中のお酒の温度もアタックからアフターにかけて温度が上がっていくので燗上がりのようにうまみを感じやすくなります。 

Dsc_0112

この表を見てください。上記のお酒の味のイメージを書いてみました。矢印の太さが強さを表しています。アルコールや糖の甘さは最初のアタックで強く感じますが、アミノ酸が多いので、うまみ成分が中盤から強くなり、アフターの余韻が強いお酒になります。酸は最初から最後まで同じように感じます。苦みはうまみと同等の動きをします。一般的に酸があってアフターでバランスするお酒がお燗に合うと思われます。それはアフターが一番温度が上がるのでお燗に近くなるからだそうです。 

一般的に飲みやすいお酒は中域でバランスが取れています。もし新政のお酒のように日本酒度0、酸度1.8、アミノ酸0.6のお酒でしたらば、味のイメージはだいぶ変わってくると思います。甘さが強いのでアタックがドンと出ます。でも酸はしっかり感じますが、アミノ酸が少ないのでうまみはあまり感じないで、酸によってアフターですうと消えるお酒になります。 

このようにお酒のスペックに合わせて、口の中でのアタック、中域、アフターで感じるイメージを持つと飲んだお酒をうまく表現ができるようになるそうです。そのポイントを教えてもらいました。 

<アタックのコメント> 

・ アタックは甘みを一番感じるとき場所なので、その甘さ感を表
  
現をする 

・ 舌触りが良いかどうかテクスチャーとして表現する

<中域のコメント> 

・ 膨らむ場合:甘みやアミノ酸が多いとアマ旨さが膨らんでくるの
  でそれを表現します
 

・ 膨らまない場合:甘みや旨みがないので、膨らまないと表現する 

・ 酸との全体のバランスも表現する  

<アフターのコメント> 

・ まず酸が顔を出てくるので、それを表現する 

・ 旨みと苦みの強さと余韻を表現する 

このように絞り込んで味の表現するといいコメントができるようになるそうです。 

<具体的の試飲したお酒をどう表現するか考えてみましょう> 

Dsc_0069

 

1.司牡丹 槽掛け 純米大吟醸 山田錦35%精米 
  Alc度16-17、日本酒度+4、酸度1.3、AA度1.0 酵母1801、
    熊本酵母
 

2.鶴齢 純米吟醸 越淡麗55%精米 
  Alc度15.5、日本酒度+2.5、酸度1.5、AA度-、酵母-
 

3.黒龍 吟醸 ひやおろし 五百万石55%精米  
  Alc度18、日本酒度+6、酸度1.2、AA度1.3、酵母自社
 

4.杣の天狗 純米吟醸 山田錦59%精米 生原酒
  Alc度17-18、日本酒度+4、酸度1.7、AA度-、酵母協会10号
 

まず色を見てみましょう 

Dsc_0066

一番色がついているのが1番と4番で一番薄いのが3番です。1番と4番は少し熟成しているかもしれません。また4番は多少濁りがあるので、滓が入っていることが判ります。

それでは先生のコメントを紹介します

1.司牡丹 槽掛け 純米大吟醸 

香りはカプロン酸の香りが強いのは酵母が協会酵母1801を使っているからです。精米度が35%なので、高級アルコールの香りは全くしないし、甘旨みが減るはずなのですが、アルコールが16-17%あるので、アタックでそれなりに甘みと苦みは感じます。中域での旨みの味はほとんどなく、酸も強く感じないまま、アフターでスッと消えるお酒です。舌触りの滑らかさはそれなりにあり、アルコールのピリピリ感はなく上手く仕上げています。 

一般的に35%も磨いたお酒でアルコール度数を15%にすると、どうしてもペラペラなお酒になるので、アルコール濃度を上げて造ることが多いそうです。 

2.鶴齢 純米吟醸 

1番とは違って香りが少ないので高級アルコールの油っぽい香りを感じます。この場合、香りが高い酵母を使えばこの高級アルコールの香りはマスキングされるそうです。飲んでみるとアタックに甘さはほんのりの感じ、中域から旨みをそこそこ感じます。中域に感じなかった酸をアフターで強く感じます。酸度1.5だと、甘さと旨みが抑えてあるので、どうしても酸度を感じてしまうのは仕方がないそうです。 きっと夏酒を狙ったバランスのお酒を造ったものと思われます。

アフターに少し苦みを感じますが、アルコール度数も少ないし、アミノ酸も少ないようなので、これはコハク酸からくる苦みと思われるそうです。そうなるとイソアミル系の香りを出す酵母を使ったのではないかと想像されるそうです。 

3.黒龍 吟醸 

香りはまさにイソアミル系の香りでしたが、アルコール度数が同じくらいであっても、4番のお酒に比べると少し淡い感じでしたが、それはアルコール添加しているからだと思われるそうです。イソアミル系の香りの奥にカプ系の香りがあることから88号のお酒と同じ系統の酵母が使われたのではないかと想像できるそうです。なぜ、アルコール添加をしたかははっきりはわかりませんが、綺麗さを保ちつつボリューム感を持たせるのが目的ではないかと思われます。 

飲んでみますと、アタックにほんのり甘みを感じた後中盤でうまみが広がり、アフターにはコハク酸の苦みを感じるお酒ですが、その苦みはそれほど強くはないお酒でした。原酒でありながらアルコールのピリピリ感はなく、アルコール添加で酸味を引き立てているので、酸度は1.2に抑え、日本酒度も+6と甘みを抑えるけど、アミノ酸1.3でうまみとバランスさせるよく考えられたお酒だと言われました。これが黒龍の腕のすごいところだそうです。 

4.杣の天狗 純米吟醸 

香りはイソアミル系の香りが強いけれど、カプ系の香りも感じる少し複雑な香りですが、香りの強さは3番の黒龍より強く感じます。それはアルコール度数が高く、原酒だからだそうです。酵母が協会10号なので両方の香気成分を出すのは当然で、これだけ香りが強いと、精米度が60%近くても高級アルコールの香りはマスキングされるようです。酵母由来の香りの他にお米の香りがするのは無濾過生原酒だからで、よく嗅いでみるとアセトアルデヒドの青臭い香りも感じられます。また、色から見ると熟成が進んでいるので、フラノンの苦みも感じるそうです。 

飲んでみるとアタックで甘みと舌触りの良い滑らかさを感じるけど、べったり来なくて、中域で甘み旨みと酸とのバランスが良く、アフターで酸がすっきり切ってくれるお酒でした。後味で苦みが残るはコハク酸だそうです。原酒としてのパワーを感じるけど全体的には旨く収める表現しています。上原酒造のお酒は初めてだったそうで、またお飲んでみたいお酒だったそうです。

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2016年10月 5日 (水)

インフィニット日本酒中級コース第9回(化学的根拠)

多く世界中の醸造酒の中で日本酒ほど化学的根拠に基づいて醸造している酒は無いということを知っている人はどの位いるのでしょうか。醸造酒で最も有名なお酒は何と言ってもワインですね。ワインは化学的根拠に基づいて造られていないのでょうか。決してそうではありませんが、日本酒ほどではないことは事実のようです。それはワインは日本酒と違って醸造プロセスが簡単であまり化学的な検討をする必要がないからだそうです。でも最近はそれが見直されるようになってきており、例えば美味しいワインを造るためには、適度なアミノ酸を含ませることが良いことが解ってきていますが、元々ブドウにはアミノ酸はほとんど含まれていません。それではどうやるのでしょうか。 

ブドウの場合アミノ酸は土壌の栄養分から取るしかありません。それでは土壌にアミノ酸の元になる窒素成分を増やせば良いのでしょうか。そんなに単純ではありません。ぶどう畑は肥えた土地は不向きで、むしろ石などが一杯ある痩せた土地が向いているそうです。それは栄養分が多いとぶどうの実に養分が行かずに茎に行って良いブドウができないからだそうです。ですから、ただ 窒素肥料をあげれば良いわけではありません。窒素を入れすぎると香りも悪くなるそうです。これを解決するには農業化学に関した専門知識が必要なようです。 最近はそれを専門にやっているプロ集団がいるようです。

日本酒が化学的根拠に基づいてお酒が造られているというのはどういうことでしょうか。それかこれまでにこの教室で学んできたそのものです。これを復習するために前回示した図をもう1回お見せします。

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お米にはデンプンと蛋白質と脂質が含まれていて、酒造好適米の周りには蛋白質や脂質 が多く、心白には蛋白質や脂質が少ないので、お米を精米していくと蛋白質や脂質は少なくなり、デンプンが多くなります。このデンプンが麹菌の酵素活性によりブドウ糖になり、それが酵母の酵素活性により、ピルビン酸、アセトアルデヒドを経てアルコールと炭酸ガスになります。それと同時にピルビン酸から色々な有機酸(乳酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸など)を作るとともにお酒の香りの成分のカプロン酸エチルをつくりますが、その出来かたは酵母の種類や醪の温度管理によって変化してきます。 

一方蛋白質は麹菌の酵素力によりアミノ酸になり、このアミノ酸が酵母の酵素力により、イソアミルアルコールのような高級(炭素数の多い)アルコールを作るので、油っぽい香りが出てくると同時にアミノ酸によるうまみや苦がでるので、コクのあるお酒になります。精米度が高いほど蛋白質は減ってくるので、高級アルコールの香りが減りアミノ酸も減ってくるのでうまみ成分より甘み成分が目立ってきます。また酵母によっては高級アルコールから酢酸イソアミルなどの香り成分を出すので、カプロン酸エチルとは違った香りがするお酒になるようです。酵母によりどんな香りの成分ができ易いかは下の図を見てください。

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脂質はもともとお米の中には少ないので、50%以上精米するとほとんどゼロになりますが、精米度が悪いと麹菌の酵素力により脂肪酸になり、醪の中で酵母の酵素力により各種脂肪酸エステルにあります。これは高級アルコールに近い香りを持つので、なかなか見分けにくいそうですし、一般的には精米度が80-90%の場合だけ考えればいいようです。 

以上のように化学的成分が味や香りを決めているようで、その大きな要素はアルコール濃度、加水量、アセトアルデヒドの濃度、酸の種類と濃度、香り成分の濃度、アミノ酸の種類と濃度、高級アルコールの種類と濃度などが挙げられますので、この化学的成分をどのようにコントロールするかで目的の味のお酒を造ることができます。これが日本酒が化学的根拠に基づいて作られるという理由です。 

実際にこれをどのようにして実現するかは、そう簡単なものではありません。例えば麹を作る過程では麹の温度、湿度、破精具合によって変わるので、麹がもつ酵素のアミラーゼ、グル子アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼの酵素力をどのように引き出すかは、蔵人の経験に頼るしかありません。また醪の発酵も麹が持つ酵素力と酵母の持つ酵素力を同時に使いながら発酵させる平行複発酵という複雑なプロセスを使うので、それをコントロールするには微妙な温度管理が必要となるようです。 

そのほか火入れとか活性炭ろ過などをすることがあり、それによっても味が変わります。火入れをしない生酒はアセトアルデヒドが残っているので麹の甘さと清涼感のある香りを楽しめますが、火入れするアセトアルデヒドは揮発し、アミノカルボニル反応でフラノンが発生するので、味は落ち着いてきますが、老香のような香りが出てきます。 

活性炭ろ過はフラノン類は取り除きますが、高級アルコールは取り除けません。また乳酸はとれませんが、他の酸はかなり取れます。香りは一部捕れますが、カプやイソの香りは取れません。ですから活性炭は使う量によ取り除く量をコントロールできるので、使用する側の技術力が問われます。  

そのほか醸造用アルコールの添加、熟成の仕方によっても変わってきますが、これについての化学的研究はまだ十分解析されたとは言えないようです。味や香りを決めている成分がわかってもそれをどのようにコントルールしてお酒を造るのでしょうか

黒龍酒造の畑山杜氏のお話では、お酒を造る場合まずお酒のイメージを考えどのようなお酒にするかをきめます(例えば軽やかに飲みやすいけど、味わいはそこそこあって後味が切れるなど)。その次にそれに合うためにはどの化学的成分どのくらいのにするかを考えます。そのあとに醸造プロセスの各工程をどうしていくかを経験に基づいて決めていくそうですす。ここが蔵の技術であり、ノウハウとなっているところでしょう。このように醸造している蔵が多くなってきている一方、まだそうしていない(そうできない)蔵が多いことも事実のようです。 

最近外国のワインメーカーの人が日本の化学的根拠に基づいたお酒造りを学びたい人が多くなってきているそうで、僕の日本酒の先生である菅田先生はもともとワインのソムリエで、日本酒を勉強してるうちに、日本酒がいかに化学的根拠に基づいて醸造されているかを知るようになって、ワインに対しても深く考えられるようになったそうです。 

先生にはちょっと心配があるそうで、日本酒が化学的根拠に基づいて作られるだけに、外国での日本酒造りも飛躍的に伸びる可能性を持っていることだそうです。何年先のことかどうかはわかりませんが、日本の本家が真に化学的根拠をもって酒造りをしていかないと外国の人たちに日本のお酒を見下される時が来ることを危惧しているそうです。化学的根拠に基づいて酒造りをしているといっても、まだまだ未知の部分が多く残されています。だからこそ、今からもっと努力してもっと良いお酒造りを研究して日本の酒造りの立場を確固たるものにする必要があると言っておられました。 

もう一つ言っておられたことは、日本酒メーカーと日本酒の飲み手が同じ土俵で意見交換ができるようにするためには、お酒の味わいに対して共通の表現ができるようにする必要があり、それは化学低根拠に基づいている表現をすることで可能ということでした。その表現の仕方の例を少し述べておきます。 

・ アセトアルデヒドが多い → 清涼感がある、青々しい 

・ カプロン酸エチルの香り → メロン、リンゴのフルーティ香り 

・ 酢酸イソアミルの香り → バナナ、洋ナシのような華やかな香り 

・ 酢酸エチルの香り → セメダインの香り 

・ 乳酸の香りが強い → ヨーグルト、バターの香り 

・ 高級アルコールが多い → 厚みがあってふくよか 油脂臭あり 

・ アミノ酸どが高い → 甘み、旨み、苦みがありコクがある 

・ フラノンが多い → ナッツ、カラメル、醤油、紹興酒の香り 

・ アルコール濃度が上がる →甘みと苦みが増える

といった感じでしょうか。専門的すぎるけど僕なんかは化学的用語の方が判りやすい気がしますが、一般的ではないのでしょうね 

おまけ:旨みと甘さの違いはどうすれば判るのでしょうか 

甘さと酸はお酒を口に含んだ時からすぐに感じますが、旨みはワンクッション遅れて中ほどから感じると同時に苦みも感じはじめますこの旨みと苦みが味の厚みを造るのでボディのあるお酒になるのです。簡単に言えば甘みは最初に感じ、旨みは中ほどから感じるということでよさそうでが連続で来ますので、単純な甘みは甘さで、複雑な甘みで苦みを感じれば旨さということのようです。 

また、酸はアフターまで続くことが多いので、お酒の切れとつながります。でも切れは酸味だけでは出てこないで、苦みの存在が必要なようです。苦みが多すぎるとはアフターの余韻として残ってしまいます。この辺のバランスが重要なようです。

それではいつものように試飲をして化学的根拠を理解していきます

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1.越乃寒梅 超特選大吟醸 山田錦30%精米 
  Alc度16.6、日本酒度+5、酸度-、AA度- 酵母-
 

2.醴泉 純米吟醸 山田錦50%精米 
  Alc度15-16、日本酒度+2、酸度1.5、AA度1.2、酵母熊本9号
 

3.想天坊 純米吟醸 高嶺錦58%精米  
  Alc度15.5、日本酒度±0、酸度1.4、AA度-、酵母-
 

4.加茂金秀 特別純米 雄町、八反錦50-60%精米 原酒
  Alc度13、日本酒度-、酸度-、AA度-、酵母-

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それでは早速菅田先生がコメントしていただいた見解をご紹介します

外観で透明感を見ると1.3.2.4の順で、2は精米が58%でも透明なので、明らかに炭素ろ過をしています。1は精米度が30%なので炭素ろ過しないでも透明なことがありえます。

1.越乃寒梅 超特選大吟醸 山田錦30%精米  

香りがとてもシンプル。エタノール香と乳酸香がメイン。これは30%も精米しているからだと思われます。カプロン酸の香りも少ないので、少し熟成しているかもしれないと思われます。でもフラノンの香りがほとんどしないので活性炭ろ過しているかもしれません。 

味を見てみます。少し熟成の香りがします。甘みが少しあるけどこれはフラノンからの甘みもふくまれます。またピリピリしたアルコール感があるけどボリュウム感はありません。これはアルコール添加したためアルコール添加により味が薄まっているからと思われます。 

酵母はカプロン酸エチルの香りはしないけど、その前駆体のカプロン酸の樹脂香りがするのでカプ系の酵母であることがわかるそうです 

2.醴泉 純米吟醸 山田錦50%精米 

香りが1番より多いようです。これは高級アルコールからきていると思われます。酢酸イソアミルと酢酸エチルの香りとツンとした乳酸香も感じます。酵母は熊本酵母なのでイソ系の酵母です。 アルコール度が15.5なので加水もしているはずです。

飲んでみるとアフターが酸っぱい。軽やかな酸でした。アタックに程よい甘みと旨みが軽いながら広がってきますが、これは日本酒度+2とアミノ酸1.2のバランスからきていますが、加水していても酸度が1.5まであるので少し酸っぱく感じます。蔵としては夏酒として売りたかったのかもしれません。アルコール感アルコール度数が1度違うとずいぶん違うもので、このお酒のアルコール感は1番のお酒よりより弱いことはよくわかります。 

3.想天坊 純米吟醸 高嶺錦58%精米 

活性炭ろ過しているいるので、香りはシンプルですが、高級アルコールの香りだけが見だってきます。これが活性炭ろ過の特徴です。 高級アルコールは多少苦みがあるだけで味わいにはあまり影響しないそうです。

飲んでみると、アタックから中盤までアマ旨い苦いがずっと伸びてきます。ずっとアフターまで引っ張ているのがアミノ酸です。この伸びは 精米度が60%くらいにならないと出てこないし、60%精米はこんなバランスになることが多いようです。

4.加茂金秀 特別純米 雄町、八反錦50-60%精米 原酒 

13%のアルコールということは水の量が多いということなので、酸が出てきやすい。原酒なので甘みが少し残っているはずなので、甘酸っぱい感じが予想されます。 

香りは淡くて乳酸香を感じます。アルデヒドの青臭さがあるので、その強さから1回火入れと思われます。これがあるとカプ系かイソ系かはわかりにくいが、酢酸エチルの香りが少し残っているのでイソ系の酵母と思われます。 

飲んでみると甘さを感じて酸度は1.3くらいあるように思われます。軽くて淡いけどアフターに伸びがあるので、夏酒としてはいいのかもしれません。酸とのバランスから日本酒度は-5くらいと思われます。でもアルコール度数が低いと評価が難しくなります。

以上が菅田先生が試飲したお酒の印象ですが、試飲することによりここまでわかるのですね。僕にはとても無理です。少しでもそのレベルに近づきたいものですね。 

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2016年9月12日 (月)

インフィニット日本酒中級コース第8回(ラベルの読み方)

インフィニット日本酒中級コースもすでに8回目になり、日本酒の味や香りを決める成分が何にで、何から生成するかを学んできました。でもお酒を飲む前にお酒のラベルからそのお酒の香りや味わいをどのくらい想像できるでしょうか 

日本酒のラベルには原料米の精米度アルコール濃度生酒かどうかは必ず記載されていますが、最近は原料米の種類を書かない場合が多くなっているのと生酒や生詰めや生貯蔵の表示はあっても火入れの回数はふつう書かれていません。お酒の味わいを推定できる指標としては日本酒度酸度アミノ酸度がありますが、これを書かない蔵が多くなっています。また香りを決める酵母の種類や熟成時間は書いてあることはほとんどなく、書いてある方が稀といえます。 

どうしてこのようなことになってるかは、どうも日本の法律に規制によるものと思われます。法律で定める必要記載事項の主なものは以下の通りです。 

① 原料名 使用した原料名を使用量の多い順で記載し、お米の精米歩合を併記します。原料米の種類を記載する必要はありませんが、醸造用アルコールを添加したかどうかは原料となるので記載する必要があります。原料が国産かどうかも記入します 

② 製造年月日 瓶詰めをして出荷できる状態になった年月日なのでお酒を上槽した日ではありません。瓶詰めをして貯蔵しているときはまだ出荷できないのであれば、出荷するときに書くことになります。ですから熟成期間はわかりません。 

③ アルコール濃度 小数点以下は不要。 

④ 容器の容量
⑤ 製造者の氏名か会社名と所在地
⑥ 保存または飲用上の注意事項
 

これらの基準を見ると消費者の安全と国税局の知りたい情報だけが掲載されているだけで、消費者が飲むときに参照になる酒質の表示は義務付けされていません。 

任意記載事項(書いても書かなくてもよい)の主なものには次の項目があります。 

①原料米の品種名 原料使用割合が50%超えている場合 

②清酒の産地名 全量がその地で醸造されている場合 

③貯蔵年数 1年以上貯蔵した場合 

④原酒 生成後加水しない場合(1%未満の加水はOK) 

⑤生酒 生成後一切加熱処理をしない場合 

⑥生貯蔵 加熱処理をしないで貯蔵し出荷時に加熱処理をした場合 

⑦生一本 単一の製造所だけ手製造した純米酒の場合 

⑧樽酒 木製の樽で貯蔵した清酒の場合 

ですから酵母の種類や日本酒度や酸度やアミノ酸度は記入する必要はありません。書くかどうかはあくまでも蔵の意思で決まるようです。最近は酒質を意識しないで飲んだ感覚で自分に合うかどうかを決めてくださいという蔵も多くなっていますが、飲む前からそのお酒の味を想像したい僕には書いてほしい情報です。 

以上のような実態のラベルの記述からどんな日本酒なのかを想像することはできるのでしょうか。菅田先生に言わせると、この情報からだけでも日本酒の味の骨格はわかるそうです。今回はそれを勉強することとなりました。 

1.原料の精米度からわかること 

お米に含まれる成分は心白の大きい酒造好適米でも、心白のない飯米でもその成分割合はほとんど変わらないそうです。 

  デンプン  75%
  蛋白質   7-8%
  脂質    2%
  灰分    1%
  水分    15%
 

ですから心白のない飯米は精米してもあまり成分は変わらないのに対して心白の大きいお米の心白はデンプンが多く含まれているので、精米するとその外側多く含まれる蛋白質や脂質が減るのです。だから精米度が60%以上の精米度が悪い場合は蛋白質や脂質が多くなるので、アミノ酸や高級アルコールが増えます。高級アルコールが増えるとマジックインクとか油ぽい香りが出てくるのと同時にアミノ酸が増えるのでうまみと苦みが増えてコクのあるお酒になります。 

精米度を40%以下に磨くと脂質はほとんどなくなり、蛋白質も半分以下になるので、高級アルコールの香りはなくなり、アミノ酸も減るので、軽やかですっきりした味わいになります。40-60%の場合はその中間ということになるようです。 

2.アルコール濃度からわかること 

アルコール濃度は15度~16度は中央値で、16~18度が高濃度、13度~15度が低濃度とすると、高濃度になるとアルコールによる甘みと同時に苦みを感じるので、力強い飲み応えのあるボリュウム感のあるお酒になります。一方アルコール濃度が低くなると軽くなり、飲みやすいお酒になりますが、相対的に水の量が増えるので酸味を酸度以上に強く感じるようです。 

3.火入れのお酒や生酒でわかること 

生酒は滓の香りや独特の甘みを感じますが、その後ろにアセトアルデヒドの青臭い清涼感のある香りを感じます。それを火入れするとアセトアルデヒドが揮発し減ると同時に加熱によるアミノカルボニル反応でわずかにフラノン類が出ますので飴のようなぽったりとした味わいが出ています。この変化の具合で1回火入れか2回火入れかが判るようです。1回火入れではまだ清涼感は残っていますが、2回火入れではほとんどなくなりますが、フラノン系の別の香りが出てきます。 

4.熟成の効果 

以上の3点がお酒の骨格を表すもので、それを熟成することにより、味わいに丸みが出てテクスチャーがぐっと良くなると同時にフラノン類が増加するので、どうしても熟成香が出てきます。でもこの変化の程度はお酒の酒質(アミノ酸が少ない方が熟成度が遅い)や貯蔵温度や時間で変わるので飲む前に判断することは不可能です。でも飲むとどのくらい熟成させたかがわかるようになるようです。 

酵母の違いについて

このほかには最も影響を与えるのが酵母の違いです。酵母にはカプロン酸エチルを多く出す酵母と酢酸イソアミルや酢酸エチルを多く出す酵母、両方を出す酵母の大きく分けて3分類できますが、これは飲んでみないとわかりません。この香りについては中級クラスの6回のブログを見てください。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/post-8eef.html 

米の種類やアルコール添加について 

お米の種類のよって確かに味わいは変わりますが、味は造りによっても大きく変わるのものなので、飲んでお米の種類を判定するのは難しいです。それからアルコール添加の有り無しの差はアルコール添加をするとアルコールの刺激があるのでわかるという人もいますが、これも上手く作るとなかなか飲んで判別できるものではないようです(非常に技術の高い蔵のアルコール添加は飲んだだけではわかりません)。 

活性炭ろ過について 

活性炭ろ過の表示はされていませんので、活性炭を使っているかどうかは外観の色で判断するのが良いようです。活性炭ろ過はフラノン類は取り除きますが、高級アルコールは取り除けません。また乳酸はとれませんが、他の酸はかなり取れます。香りは一部捕れますが、カプやイソの香りは取れません。ですから活性炭は使う量によ取り除く量をコントロールできるので、使用する側の技術力が問われるところです。 

以上でラベルから判断できる酒質についてのまとめは終わります。ラベルに書かれた3つの情報だけでもある程度お酒の酒質を想像することができますが、日本酒の販売店の売り子さんでこの論理の基づいて初心者に方に説明できる人はほとんど見かけないですね。菅田先生の理論をもっと定着させるべきだと思いました。 

いつものように、次に今回の試飲したお酒をチェックいたします。まず飲んだお酒の写真をお見せします。 

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1.獺祭 純米大吟醸 山田錦39%精米 2回火入れ
  Alc度16、日本酒度+6、酸度1.1、AA度- 酵母9号
 

2.東洋美人 純米吟醸 山田錦50%精米 1回火入れ
  Alc度15.6、日本酒度-5、酸度1.6、AA度-、酵母自社
 

3.蓬莱泉あ 純米吟醸 夢山水55%精米 生酒 
  Alc度12、日本酒度-、酸度-、AA度-、酵母-
 

4.浦霞 純米生酒 まな娘65%精米 生酒
  Alc度17、日本酒度+0、酸度1.3、AA度1.6、酵母自社

それでは一つ一つを解説していきます。 

1.獺祭 純米大吟醸 山田錦39%精米 

香りはカプロン酸エチルの香りですが、少しだけアセトアルデヒドの香りが残っているので清涼感があります。少しだけ飴のような香りがあるのは2回火入れによるフラノンの香りと思われます。そのほかの香りはほとんどなく、高級アルコールは全く感じないシンプルな香りなでした。飲んでみるとほんのりとした甘みと酸のバランスが良く、飲み込んだ後が軽く苦みが全くない。いかにも磨きの良い典型のお酒で、お魚料理に合うと思われます。

2.東洋美人 純米吟醸 山田錦50%精米

香りは酢酸イソアミルの香りで、でも奥に少しだけ油っぽい香りがあるのは高級アルコールのせいであり、50%磨きではこれくらいは普通のようです。アセトアルデヒドの香りは少しするのは1回火入れだからだと思われます。獺祭に比べると、うまみ成分が多く、苦みもあってそれが口の中でじわーと伸びてきます。これはアミノ酸の旨みと思われます。酵母が造るコハク酸の苦みがうまく旨みを引き出しているので、コクのあるお料理にあうお酒だと思います。 

3.蓬莱泉あ 純米吟醸 夢山水55%精米

お米の香り(酒粕の香り)がして、カプロン酸エチルの香りがあるが、その強さから考えると9号系酵母だと思われます。アセトアルデヒドがしっかり感じられ、青臭い清涼感が感じられます。飲んでみると、アルコール濃度が薄いので飲みやすいけど薄い感じがしました。水分が多いので、酸味を感じるはずだけど、それほど強く感じなかったのは旨く甘さを残しているからだと思われます。さっぱり感を出している夏酒として上手く仕上がっているので、さっぱりとしたお料理に合うと思われます。 

4.浦霞 純米生酒 まな娘65%精米

お米の香りとともにマジックインクのような油ぽい香りがするのは高級アルコールが多いからです。65%精米ならこの位は普通であるようです。生酒にもかかわらず青臭さを感じないのは高級アルコールによりマスキングされているからだと思われます。でも注意深く嗅ぐと少し感じられるようです。飲んでみると甘さ・旨さを感じるボリュウム感のあるお酒で、これはアルコール度数が高く、アミノ酸が多いからだと思われます。でもアフターに苦みがなくゆっくりと消えていき、飲みやすかったです。一言でいうとどっしりしている割にはさっと切れていき、お料理に合わせ易いお酒といえます。

以上試飲したお酒の説明は終わりますが、精米度やアルコール濃度はお酒の骨格を占めることがよくわかりました。それを生で出すとアセトアルデヒドの効果で清涼感がでるし、火入れすると清涼感はなくなるけど、ぽってりとしてくることが判りました。

以上で今回のまとめを終わります。

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2016年8月15日 (月)

インフィニット日本酒中級コース第7回 (香り)

このスクールも7回目となり、もう一度香りの確認をすることになりました。日本酒の香りには元となる成分があることを勉強してきましたのでそれを再整理します。 

① 原料由来の成分 (蒸米や麹の香り・ミネラルの味わい) 

② エチルアルコールと炭酸ガス (糖の代謝で出来るエチルアルコールと炭酸ガスでアルコールの刺激と香りの元となっている) 

③  有機酸 (糖が代謝する過程で出てくる酸で、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸など、酸味の元となっている) 

④ アセトアルデヒド (糖の代謝過程で出来るピルビン酸から生成され、青々しい香りがするが揮発性が高く、時間とともに減少する) 

⑤ カプロン酸エチル (糖のアルコール分解経路でピルビン酸からアセチルCoAを介してカプロン酸を形成し、その後エステル化してカプロン酸エチルになる。リンゴやメロンの香りと言われている) 

⑥ 高級アルコール (米の中の蛋白質がアミノ酸となり、このアミノ酸がイソアミルアルコールやイソプロピルアルコールやイソブチルアルコールなどの高級アルコールとなる。マジックインクのような香りで、炭素数が多くなると蝋のような香りとなる) 

⑦ 酢酸イソアミル・酢酸エチル (アミノ酸の分解経路でイソアミルアルコールのエステル化により、酢酸と結合して酢酸イソアミルと酢酸エチルを生成する。酢酸イソアミルはバナナや洋ナシの香りで、酢酸エチルはセメダインの香りがする) 

⑧ 各種脂肪酸エステル (米の中の脂質が脂肪酸となり、各種アルコールと結合して脂肪酸エステルを生成する。香りはサラダ油や樹脂のような香りだが、高級アルコールと香りと区別がしにくい) 

⑨ フラノン (温度を上げる火入れや貯蔵、熟成では必ずフラノン類が生成する。フラノンが多くなるとカラメルや醤油の香りがするが、その量が少ないと老香(ひねか)と言われることもある。) 

日本酒の香り成分にはそのほか、オフフレーバーと言われる4ビニルグアヤコール(4VG)やジアセチルイソバレルアルデヒドなどが醸造過程で発生することがあるようですが、菅田先生のお話では、正常な醸造工程で出来る香りは上述した9つの成分だけを考えればいいそうです。 

①や⑥や⑧は原料中に元となる成分がどのくらいあるかによって変わってくる。精米度が高くなれば蛋白質や脂質は減少するので、それに関連した香りも減少してきます。 

③や⑤や⑦は酵母の特質によって出やすい成分が決まってくるので、どんな酵母を使っているかによりその香りが想像できますが、発酵のやり方によっても変化するので注意が必要です。またリンゴ酸やコハク酸、クエン酸も酵母の特性と非常に関係が深いようです。 

④のアセトアルデヒドはお酒ができたての時に多く含まれますので、生酒や搾りだてには多く含まれますが、揮発性が高いので時間の経過や火入れで減少します。1回火入れか2回火入れ化はアセトアルデヒドの量の違いとフラノン類の量の違いで見分けることができるそうです。また熟成するとアセトアルデヒドは減少しフラノンが増大しますが、特に生酒は熟成速度が速いので熟成温度には注意が必要です。生酒の熟成を抑えるためにはー5℃以下で貯蔵する必要があります。 

以上で日本酒の香りの成分の説明を終わりますが、実際にどんな香なのかを嗅いでみないと実感できませんね。日本酒中の香りはいろいろな成分が混じっているので、なかなか特定できません。菅田先生は独自のルートで香り成分のサンプルを集めて持っておられます。今回はそのサンプルを実際に嗅いで見て、本に記述されている香りとの違いを勉強することになりました。 

最初のサンプルを見てください。 

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1.メターノール:ほとんど香りはしません。実際には日本酒の中にはほとんど含まれていません。 

2.エタノール:消毒用のアルコールそのもので、シンプルな清涼感のある香りです。 

3.-プロパノール:ツンとした香りでそんなに油ぽくありません

4.イソアミルアルコール:まさにマジックインクの香り です。

5.n-ヘキサノール:油っぽい重たい香りがしました。炭素数が6のアルコールでこれ以上炭素数が増えると蝋の香りのようになるようです。 

次はいわゆる日本酒の香気成分です 

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1.カプロン酸エチル:メロンやリンゴの香りと言われますが、濃度が高くなるとツンとした香りになります。 

2.酢酸イソアミル:確かにバナナや洋ナシの香りですが、スッとした香りです。日本酒の場合酢酸エチルが同時に出ることが多いので、それで判断するとわかりやすいです 

3.酢酸エチル:まさしくセメダインの香りでした 

次はフラノンと原料由来の香りです 

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1.フラノン類:確かにカラメルの香りや醤油の香りと言えますが、紹興酒や豆の香りとも言えますが。濃度によって違うので、表現が難しいです。 

2.白米:お米の香りとか乾いた粉の香りがします。 

3.麹(酸化):麹の香りですが蝋の香りがしました。麹が酸化すると蝋臭が出るそうです。デンプン、蛋白質、脂質は酸化すると蝋臭が出るからです。 

以上がサンプルの香りですが、医薬品のアセトアルデヒドと乳酸を嗅いでみました。 

アセトアルデヒド:とても強い香りでふたを開けただけで、部屋中に香りが充満するほどです。でもいやな香りでなく清涼感のある青々しい香りでした。アセトアルデヒドはアルコールが酸化した場合も発生するので熟成してもアセトアルデヒドが出るけど、フラノンに邪魔されてあまり感じないそうです。 

乳酸:乳酸の香りは濃い場合はヨーグルトの香りがするそうですが、薄い場合は僕にかあまりはっきりわかりませんでした

イソ吉草酸:少し青臭い熟成の香りであるけどいわゆる老香には感じませんでした。生ひね香だそうです。 

それではいつものように試飲をいたしましたので、紹介します 

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 1.福祝 夏の純吟 山田錦・五百万石50-60%精米 
  Alc度16、日本酒度-、酸度-、AA度- 酵母-
 

2.越乃寒梅 純米大吟醸 山田錦50%精米 火入れ
  Alc度16-17、日本酒度+4、酸度-、酵母-
 

3.悦凱陣 手造り純米酒 オオセト60%精米  
  Alc度15-16、日本酒度+8、酸度1.6、酵母熊本9号
 

4.写楽 純米酒 夢の香60%精米 1回火入れ
  Alc度16、日本酒度+2、酸度1.4、酵母 F7-01
 

まず 例によって外観を見てみます

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外観を見ると2番だけが透明なので、活性炭ろ過していると思われます。3番は少し色がついてるので熟成がかかっているようです。2-4-1-3の順番で色が濃くなっていました。

1.福祝 夏の純吟 山田錦・五百万石50-60%精米 

さわやかな香りのアセトアルデヒドがあるので、生ではないかと思われます。カプの香りもイソエチの香りもあって、カプもイソエチも強く出ているのでブレンドと思われます。味わってみると後味にコハク酸の苦みがあるので、イソエチ系の酵母を使ったことが確認されます。アセトアルデヒドと乳酸と高級アルコールを同時に感じる複雑な味があるようなので、夏吟にするなら酵母はシングルにしたほうがいいと先生は言われました。 

2.越乃寒梅 純米大吟醸 山田錦50%精米

アセトアルデヒドの香りがなく、ポテッとした香りがあり、2回火入れであることが判ります。香りがふわーとしていて、ツンとした香りでないので、18号ではなく9号酵母だと思われます。熟成のフラノンが出たので活性炭ろ過していて除去していますが、高級アルコールはとれていないので、その高級アルコールの香りが気になります。味を見ると、アタックは柔らかく良いのですが、中盤からアルコールの辛さと刺激が強く出てくるのが気になります。 

3.悦凱陣 手造り純米酒 オオセト60%精米 

ツンとした香りと穀物的な香りがあるのはお米からくるものと思われます。オオセトは一般米なので蛋白質が多く含まれます。したがって、高級アルコールが多くなるのは仕方がないと思われます。アタックのボリュウム感が少なく、すぐ酸が上がってきて、渋い感じするのは加水量が少ないからと思われます。甘みと旨みをもう少しあったほうがいいように思えました。 

4.写楽 純米酒 夢の香60%精米 1回火入れ 

酢酸エチルの香りが強すぎ感じがします。うまみはよく出しているが、剥ぎだした後アルコール感が強く、口の中でピリピリ感が感じます。そして後味にコハク酸の苦みが残るけどそんなに強くはありません。このピリピリ感を抑えることができれば、もっと素晴らしいお酒になると思われます。

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2016年7月 2日 (土)

インフィニット日本酒中級コース第6回 (酵母)

この講座もすでに第6回目を迎えることになりました。この講座は似たような内容を繰り返すことにより、体で理解していくやり方なので、毎回内容が重複することがあります。それは講座としては意味のあることですが、このブログのように講座の内容をまとめるときには、できるだけ整理したいと思っています。今回の講義は酵母によるお酒の違をまとめてみました。 

酵母の種類によってお酒の味や香りが変わること、最近の吟醸酒ではカプロン酸エチルの香りが好まれて、その香りを一番出しやすい酵母が協会18号酵母であることはよく耳にしますが、それでは清酒酵母がどのくらい種類があって、どんな働きをするかを知っている人は少ないと思います。 

インターネットで清酒酵母と検索してみると、一番詳しく出ているのがフリー百科事典「ウイキペディア」の清酒酵母のようですが、それを読んでもどんなお酒ができるのかを理解するのはなかなか難しいようです。また、素人の僕などが手に入れやすい日本酒の教科書である、日本酒サービス研究会が出している「日本酒の基」では簡単にわかりやすく記述されているものの、協会14号以降の新しい酵母の紹介がされていないなど、なかなか酵母の情報を集めるのが難しい状況にあります。 

今回菅田先生が日本醸造協会から配布している協会酵母と地方自治体の試験研究機関で開発された各県の酵母をまとめて整理した表を作っていただきました。こんなにきちっと纏まった表は他にないと思います。この表は菅田先生が時間をかけて作った表ですから、この表を皆さんにお見せするわけにはいきませんが、どんな性質の酵母であるかを理解するために、母にどんな働きがあるかという点だけ抜粋して紹介します。この内容は酵母の配布元で発表しているものですので、菅田先生が研究されてまとめたものではありませんので、そのつもりで見てください。 

協会6号:「K6号酵母」、「新政酵母」
 ① 発酵力が強く、香りはやや低く穏やか
 ② 端麗にしてソフトな酒質に適し味は深みが出る
 

協会7号:「K7号酵母」、「真澄酵母」
 ① 発酵力が強く、オレンジのような華やかな香りを出す
 ② 呼吸能が比較的弱く発酵能が強い
 

協会9号:「K9号酵母」、「熊本酵母」、「香露酵母」
 ① 酸は少なく吟醸香が高い
 ② 低温で良く発酵し吟醸酒向き
 

協会10号:「K10号酵母」、「小川酵母」、「明利小川酵母」
 ① 酸が少ない(特にリンゴ酸)
 ② 高い吟醸香をだすこことが特徴
 

協会12号:「K12号酵母」、「浦霞酵母」、「初代宮城酵母」
 ① 山廃にも適し芳香の高い吟醸酒向き
 ② 特有の吟醸香をだすが、極度に水と造りを選ぶ

協会14号:「K14号酵母」、「金沢酵母」
 ① 生産される酸が少ないため綺麗な味の仕上がりとなる
 ② 吟醸酒本来の香りを生むのに適する

協会16号:「K16号酵母」、「小酸性酵母」、「旧No86酵母」
 ① 7号酵母より酸が少ない。
 ② カプロン酸エチル高生産性である

協会18号:「K18号酵母」
 ① 酸が少ない(16号並み)
 ② カプロン酸エチル高生産性(16号の40-50%増)

以上が代表的な協会酵母です。各県の酵母は非常にたくさん出ていますので、代表的なものの一部だけ紹介します

秋田酵母:「AK-1酵母」、「協会15号酵母」 
 ①アルプス応募などと同様に上立香の華やかな酒になる
 ②カプロン酸エチル高生産性で酸の生成が少ない

山形酵母:「山形YK-0107」「山形YK-2911」
 ①YK-0107は高い吟醸香を有する
 ②
YK-2911は酸味が多く香りが高い

福島酵母:「F'7-01酵母」、「うつくしま夢酵母」 
 ①カプロン酸エチル高生産性(協会7号の4倍)
 ②酸の生成が少なく、柔らかな味わい

福井酵母:「FK-501酵母」 
 ①バナナ香など熟したフルーツの香りが特徴
 ②香りは控えめだが味わいは繊細

静岡酵母:「HD-1酵母」
 ①酢酸イソアミル優勢の柔らかな果実香
 ②優しい味と香りで食中酒として最適

高知酵母:「CEL-19」、「CEL-24}
 ①CEL-19はカプロン酸エチルが多く9号酵母の約2倍
 ②CEL-24はカプロン酸エチルが多くCEL-19号酵母の約2倍

以上で代表的な酵母の特徴を示しましたが、これを読んでも、各酵母がどんな香をどのくらい出すかはよくわかりません。この表現は酵母が開発された時点での評価であり、時とともに香りの評価自身が相対的に変わってきているので、比較できるような表現ができていません。また、協会14号酵母は生産される酸が少ないと書いてありますが、実際に作られているお酒には酸度が1.8以上のお酒もあります。それは同じ酵母でも造りによって違ってくるということのようです。

そこで菅田先生は酵母が作り出す香をカプロン酸エチルと酢酸イソアミルだけに注目して、どちらの成分をどのくらい出しているかをイメージ的にまとめると下記のようになると説明されました。これはあくまでもイメージであって、実際には異なることも多くあることを頭においておけば、大変参考になる図だと思います。 これは先生が黒板に書いたものを僕がエクセルで作ったもので、先生のチェックを受けているものではないので、間違っている可能性があるかもしれないことをご承知おきください。

酵母が作り出す香の強さのイメージ図(この図をクリックすると大きくなります)

Photo

この図からわかることはカプロン酸エチルを一番作りやすい酵母は高知酵母のCEL酵母で、次が協会18号酵母、次に協会19号酵母、協会12号酵母、協会10号酵母となり、その下に協会9号酵母が来るようです。一方酢酸イソアミル系の香りを一番出すのが静岡酵母、次に福井酵母、協会14号酵母、協会6号酵母、福島酵母の順になるようです。 

ちょっと注目したいのは協会10号酵母で、造りによってはカプロン酸エチルと酢酸イソアミルの両方を同じくらい出せる能力があるようです。また協会12号酵母や山形酵母もカプロン酸エチルをベースにしながら酢酸イソアミルもある程度出すようです。

こんな表は今まで見たことがありません。これはあくまでも菅田先生の経験からくるイメージであることを頭においてください。 

問題はこれを実際に試飲してみてわかるかどうかです。カプロン酸エチルの香りはリンゴやメロンの香りと言われますが、これは濃度によって変わってきます。濃度が高くなると、パイナップルやミルクの香りのようになるそうです。一方酢酸イソアミルはバナナや洋ナシの香りと言われていますが、濃度が高かくなると桃の香りのようになるそうで、同時に発生する可能性の高い酢酸エチルはセメダインのような香りがします。 

問題は両方の香りが出ている場合で、注意深く嗅がないとよくわかりません。この場合、上記にのべた香りのほかに、もう一つのチェックポイントがあります。それは酢酸イソアミルを作る酵母はコハク酸を作る傾向があります。このコハク酸があるとお酒を飲んだ後の終わり方で貝の出汁のような苦みを感じるそうです。これは僕にとってまだ難しいチェックポイントですが、勉強中で、少し判りかけています。 

最後にお酒に苦みを感じるのは通常アルコール、フラノン、コハク酸の3種類で、飲んだ時に最初に感じる苦みはアルコール、中盤から後半にフラノン、最後のアフターでコハク酸の苦みを感じるようです。それ以外で感じるときによくある苦みは、脂質やアミノ酸が変質した場合に感じるそうです。これは変な苦みなので、わかるそうです。この苦みは精米度が悪い(60%以上)お酒に出る可能性が高いそうですが、高級アルコール等の他の味にマスキングされて見つけるのが難しいそうです。逆に精米度の高い(40%以下)お酒の場合は目立つので見つけ易いそうです。 

それから酵母は増量するためには培養する必要がありますが、酵母が増殖するときに少しずつ変化するようなので、同じ酵母でも全く同じということはないそうです。ですから、大きい蔵では自分で培養した性格のわかった酵母をいくつか持っていて使い分けているそうです。例えば、黒龍酒造では30種類以上の酵母を使い分けているそうです。

それでは早速酵母の違うお酒を試飲してみました。飲んだお酒は以下の4酒類です

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1.福祝 純米吟醸 山田錦50%精米 生原酒
  Alc度17-18、日本酒度-、酸度-、AA度:- 酵母 9号
 

2.スーパーくどき上手 純米大吟醸 改良信交35%精米
  Alc度17-18、日本酒度+1、酸度1.2、酵母 M310
 

3.十九 Trifoglio 五百万石50%精米 無濾過生原酒 
  Alc度16.3、日本酒度+7.5、酸度2.4、酵母 14号
 

4.朝日鷹  特別本醸造 美山錦、たつのおとしご60%精米 
  Alc度15-16、日本酒度+2、酸度1.4、酵母 山形酵母
 

まず例によって外観を見ます 

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どれも透明度は同じくらいで、フランンがあるようには思えないそうです。ただ3番のグラスには気泡がついていますので、炭酸ガスがあることがわかります。 

それでは飲んだ印象を先生が語ってくれたことを紹介します

1.福祝 純米吟醸 山田錦50%精米 生原酒

口に含むとすぐにカプの香りがぱっと広がります。そして後味に苦みがなく切れていきます。ツンとした香りはありません。このバランスが9号酵母の典型だそうです。その香りの強さで18号かどうかが判断できるそうです。最初の感じる苦みはアルコールの苦みだそうです。このお酒は滑らかさがあって全体のふくらみもあり、アルコール度数の割にはアルコールの辛みが少なく、うまく仕上がっているとのことでした。

2.スーパーくどき上手 純米大吟醸 改良信交30%精米

口に含むとぱっとカプの香りが膨らむけど、奥にツンとするイソアミル系の香りがあり、アフターにじわっと苦みを感じます。このバランスがM310や10号酵母の特徴だそうです。このお酒は適度の甘みもあり綺麗さがあり、余韻が軽やかです。30%磨いてもインパクトが強くあり、なおかつ綺麗さがあるのは酒つくりの技術が高い証拠だそうです。

3.十九 Trifoglio 五百万石50%精米 無濾過生原酒

口に含むと最初にツンとしたイソアミル系の香がきたあと、アフターにじわっと貝の出汁のような苦みを感じます。コップを良く振るとセメダインの香りも少し感じます。これが14号酵母の特徴です。このお酒はフレッシュ感満載ですが、炭酸ガスが残ってアルコールも16.3あるので、ピリピリ感が残ります。これくらいぴりぴり感があり、後味の苦みがある場合は、合わせるお料理が難しいそうです。

4.朝日鷹  特別本醸造 美山錦、たつのおとしご60%精米 

飲んでみると穏やかで薄い感じがするけど厚みを感じながらさらっと飲めます。アルコール添加しているので、エタノールの香りは少しするけど、アルコールの苦みはあまり感じません。このお酒は地元だけしか出していないお酒で食中酒としてうまくバランスさせてるそうです、東京に出ている本丸はうまみが多いけれどももっとアルコールのピリピリ感があるそうです。香りはカプ香りも、ツンとしたイソ系の香りもあるけど、乳酸香も感じます。これは加水したために起きるそうです。鼻にぬける香にモサットとした油ぽい香りがするのは高級アルコールが多いことからくるそうです。でも僕にはわかりませんでした。

以上で飲んだ印象の紹介を終わりますが、飲んだだけで精米度、アルコール度数、加水量、酵母の種類などがわかるようになるそうですが、これは訓練で身につけるしかないそうです。僕にはとてもできるようになるとは思えませんが、とりあえず勉強していくつもりです。

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2016年6月 4日 (土)

インフィニット日本酒中級コース第5回(オフフレーバー)

これまで4回の講義で日本酒の香が何から生まれてきたかを勉強して来ましたが、それはすべて日本酒が造られる過程において発生する物質が生み出すものであり、どの成分がどのくらいあるかはお酒によって違うけど、色々な香がまじりあって生みだされるものであることは確かです。 

香は一般的に強い香りが弱い香りをマスキングしてしまうので、何気なく香を嗅ぐとその強い香に引っ張られて弱い香りは気がつかないことが多いけれども、注意深く奥にある香を利きわけていくと、いろいろなことが判ってくるようです。そのわずかな香の違いから日本酒の製造工程で何が起きているかも想像できると先生は言われます。でも僕にはそれは大変難しくいつになったらそんなことができるか、全く自信はありません。 

でも、そのわずかな香を利きわけるためには、日本酒の酒質からどんな成分があるだろうということを気にかけてイメージして利きわけていくうちに、これではないかと感じるようになると言われました。そのつもりで努力していますが僕にはなかなか難しいです。 

その僕にも判る香があります。それはオフフレーバーです。オフフレーバーとは食品成分自身の化学変化や,外部からの物質の混入によって食品の品質が劣化して二次的に生じる異臭,変質臭,悪変臭などをいいます。僕もそれを感じた経験があります。それはある蔵で日本酒を搾る時に使う薮田のフィルターから出る薬臭い香に悩まされたことがありました。僕はものすごく強く感じた異臭でしたので、その蔵の人にお聞きしましたが、自分はわかるけど一部の人にはあまり感じないとのことでした。感じるかどうかはその人の能力で違いますが、こんな異臭があるものを世に出すのは良くないので、その原因の特定し改善するする必要があります。でもTOPが理解してくれないとその対策はなかなか難しいと聞いています。 

今回の講義はそのオフフレーバーにはどんなものがあり、どこで生まれるかを勉強するとともに、それが含まれるお酒を試飲して体験することになりました。 

復習になりますが、先ずは正常な日本酒が醸しだす香りから簡単に説明していきます。 

1.原料系の香り:

   米由来の香りで、濁り酒、無ろ過生原酒で澱が残っていると多く感じますが、濾過をすると減少します。硬度の高い水を使った場合は鉱物的香がすることもあるようです。 

2.アルコール:

   アルコール添加したお酒を活性炭濾過をすると香りが消えるので、強く感じるそうです。 

3.乳酸系の香:

   酸度が高くなると乳酸の香りがします。ワインではバターのような香ということもあるそうです。 

4.アセトアルデヒド:

  青臭い香とかスウットした感じの香りとか、木香様臭(杉の木の香り)といわれます。少し枯れた感じなのにツンとする香ともいわれます。お酒を造った後、酸化すると出てくるので、熟成した時に出るフラノンの後ろに感じるそうです。火入れすると消えていくそうです。 

5.カプロン酸エチル:

 リンゴやメロンと言われますが、濃度が高くなるとパイナップル的になり、さらにミルク臭になるそうです。脂肪酸の香に近づくようです。 

6.酢酸エステル:

 酢酸イソアミルはバナナや洋ナシの香り、酢酸エチルはセメダインの香がします。 

7.高級アルコール

  高分子のアルコールなので油性マジックの香だそうですが、濃度が増えると蝋のような香になります。フェニルアラニンが分解すると花の香りが出ることもあるそうです(稀)。 

8.脂肪酸エステル:

  油の香りであり、高級アルコールとの差は見分けにくいそうです。 

9.フラノン:

  熱変化や貯蔵、熟成で出てくる香で濃くなるとカラメルのような香になります。さらに長期熟成すると梅酒にようになることもあるそうです。 

以上に示した香は日本酒ならば出てきても仕方がない香りですが、オフフレーバーは造りの途中で外から入ってきたり、生成して出来る香なので、その香りが心地よい香りならば良いのでしょうが、ほとんどが異臭と言われることが多いようです。 

<オフフレーバー> 

1.4VG 

4ビニルグアヤコールと言われる物質で、グローブ(丁子(チョウジ))とスモーク臭の香が混じった香がします。人によっては甘く、スパイシーな香とか蛸酸ウインナーの香りとも言われます。ビールの世界ではドイツのバイツエンのビールが4VGに由来するスモーキーな香がすることで有名です。泡盛の焼酎では原料中のフェルラ酸が蒸留中に4VGになると言われています。ですから4VGは異臭とはいえないとも考えられますが、ワインの世界や日本酒の世界ではオフフレーバーと認識されています。 

日本酒の場合は自家培養の酵母、特にイソアミル系の香りを出す酵母の中に、4VGを出してしまう酵母があるようです。また、麹から持ち込まれる細菌が4VGを出すという研究もあるようです。4VGの香は必ずしも嫌な香りとは言えないけれども、酸味と苦みが強く出るので、日本酒の本来の味にはないものとしてとらえられており、日本では県の醸造試験所が4VGは出さないように指導しているそうです。 

2.樹脂とロウ 

発酵が終わり切っていない時で、タンパク質が溶けきっていない時に火入れすると蛋白混濁が起こり、白く濁ってしまい、粒子が小さいので全く沈澱しない濁ったお酒になるそうで、ロウ臭がします。これは完全に管理ミスで起こるトラブルです。 

生酒で出てくることがあります。それは高級アルコールが含まれている時に温度を冷やすと、油が固形物になって混濁するそうで、凄いロウがするそうです。出荷した時に香を確認しないする必要があります。 

3.オイル 

ミシン油のような機械油のオイルの香がすることがあります。酸度が2以上で生の場合に出る可能性が多いようです。オフフレーバーかどうかはぎりぎりの香であるが、決して心地いいものではないそうです。 

4.硫黄 

磨きが60%以上で、アミノ酸が多い時に熟成するとチオールを多く造ってしまい硫黄の香がするそうです。酵母の代謝で造られるようです。 

5.TCA 

トリクロロアニソールという物質でカビ臭がします。これは塩素消毒した器具を使用した時に起こるそうです。残留塩素が少しでもある器具を使用するとか、濾過機のフィルターの濾紙に何らかの理由で塩素物質が付いた場合でも起こるそうです。空気中に飛散をした塩素化合物が付着する程度でも起こるようです。 

カビ臭というより湿った押入れの香といった方が良いかもしれません。ワインではコルク臭と言われるもので、コルクが消毒用の塩素物質で汚染された時にワインに移るようです。 

6.ジアセチル 

乳酸の香りとセメダイン臭が重なった香で、僕は一度この香のお酒を飲んだことがありますが、乳酸が腐ったような香のように思えました。 酸度が高くて甘みが多いお酒で、酵母が活性がまだある時に搾るとアセト乳酸ができるが、それがすぐ酸化してジアセチルとなるようです。搾ったお酒をすぐに瓶詰めするとその時にはジアセチルは出来ていないが、しばらく経つと出てくるようなので、要注意の物質です。搾ってすぐ火入れすれば出ないそうです。 

7.ムレ香 

殆どがイソバレルアルデヒドの香です。醪の温度を一気に上げる時に出やすいそうです。また、高温糖化酛でも出る可能性があります。ムレた香と同時にカプロン酸エチルも出ることが多いので、それを良しとしている蔵もあるようですが、基本的にはオフフレーバーとすべき香だそうです。 

以上でオフフレーバーの紹介を終わりますが、次にオフフレーバーがあるお酒の試飲をしました。 

<試飲したお酒>

試飲したお酒は下記の6種類ですが、この中には明らかにオフフレーバーがあるお酒と全くないお酒、オフフレーバーかどうかが難しい中間的なお酒も入っていました。 

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1.仙禽 雄町 純米大吟醸 雄町35、50%精米 生原酒
  Alc度15、日本酒度-2、酸度2.3、AA度:- 酵母 栃木酵母
 

2.仙禽クラシック 純米大吟醸 雄町50%精米 火入れ
  Alc度15、日本酒度-2、酸度2.3、酵母 栃木酵母
 

3.豊の秋 豊秋庵 純米吟醸 山田錦と五百万石55%精米 
  Alc度15-16、日本酒度+2、酸度1.5、酵母 9号系
 

4.ロ万  純米吟醸 五百万石と夢の香 60%精米 
  Alc度16、日本酒度+0、酸度2.0、酵母 F7-01号
 

5.白岳仙 純米吟醸 五百万石 55-58%
  Alc度15-16、日本酒度+5、酸度1.4、酵母 自社酵母14号系
 

6.吟の里 順子 純米酒 その他詳しいことは不明

以上の6種類のお酒ですが、まず色を見てみましょう。左から番号順に並べてありますが、色を見る限り大きな差はないようです。

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それでは順番に説明します。

1.仙禽 雄町無ろ過生原酒:

  香を嗅ぐと乳酸とセメダインが混じったような軽いジアセチルの香りがしました。生なのでアセトアルデヒドの青臭い香りもしていますが、ジアセチルの香以外は特にいやなものはありません。人によっては問題ないと言う人がいましたが、先生はアウトの判断でした。僕も気になりましたが、オフフレーバーにするかどうか微妙な所です。酸度が高く甘酸っぱいお酒によく起こるようです。今回たまたま出たのではと思われます。

2.仙禽 クラシック 1回火入れ:

  ジアセチルの香りは全くなく、栃木酵母らしいイソエチとカプが混じった綺麗な香りがして、心地よく飲めました。でも味的には1.の生の方がバランスが良いように思えたのは不思議です。スペック的には1とほぼ同じですが、火入れすることによりジアセチルが出なかったようです。

 

3.豊の秋 豊秋庵

  香を嗅ぐとカプの香りが少なく、穀物の香りがします。この香は精米度が65%以上ならよくあることですが、精米度55%で出ているので、何か原因があると考えるそうです。味を味わってみると、前半の9号酵母ではまず出ない後味に苦味を感じるので、先生は醪の段階か後処理の段階で温度が上がったのではないかと想像するそうです。でも後処理ではこんな苦味は出ないので、この苦みから考えると醪の段階で温度が上がったと想定するそうです。オフフレーバーとは言えないぎりぎりの香りのようです。

4.ロ万 純米吟醸:

  酵母はF701で、華やかだけどイソエチ系の酵母の割にはツンとしないで、ふわっと膨らむ香がするけど、良く嗅いでみるとわずかにムレ化のような香りがします。飲んでみるとアタックが甘くてとろっとしているので、後半まで甘みが残り、コハク酸は少なめに感じるのはもち米を使っているせいだと思うそうです。ちょっと変わったバランスのお酒ですが、酒質としてはこの蔵の特徴であり問題ないとのことでした。

5.白岳仙 五百万石:

  香は丁子とかスモーキーな香ですが、人によっては青魚の生臭さと言う人がいるそうです。僕にとっては嫌な香りと言うよりちょっと変わってるなという感じでした。でもこれが4VGの典型の香だそうです。このお酒はダンチュウにも取り上げられていていやなお酒とは言われていないようですが、4VGからくる酸と苦味が特徴のようです。4VGはどうして生まれるかというと、自社酵母からくるようで14号系に多いそうです。4VGを勉強したい人はこのお酒を購入してください。

6.吟の里 順子:

  このお酒は熊本地震を支援する寄付金付きのお酒として造られたお酒のようですが、TCAのオフフレーバーが出たので、販売をやめたお酒です。この香はTCAの典型の香だそうで、カビ臭いというより湿った押入れの香りの方が当たっているような気がしました。どうしてそうなったかは不明ですが、TCAを勉強するには貴重な幻の酒となってしまいました。TCAは昔36人衆で出たことがあったそうですが、滅多にないことのようです。 

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