初めてのウイスキー蒸留所の見学
11月はじめのことですが、僕の日本酒仲間のUさんのお誘いで、ニッカウイスキーの宮城峡蒸留所を見学するバスツアーに参加しました。僕はウイスキーについては全くの素人なので、どんなバスツアーなのか、全く知らないで参加したのですが、このバスツアーはウイスキー,、特にモルトウイスキーをこよなく愛する仲間たちが企画したもので、普通のバスツアーとは違った専門性の高い異次元のツアーでした。
ウイスキーの話を日本酒ブログに書くのはどうかと思いましたが、日本酒との違いを考えてみるために取りまとめることにしました。
日本橋三越の前に6時40分集合で行ってみたら、TMCと楽しい仲間たちと書いてあるベンツ製のかっこいいバスが停まっていました。TMCとは東京モルツクラブのようです。
バスの中にはトイレもあり、後ろがサロン形式になっており、ここに座ると飲み続けることになりますので、危険地帯です。僕らは中ほどに陣取りましたが、乗ったらすぐモルツで乾杯という状況でした。
1時過ぎに仙台の牛タンレストラン「一福」で仙台の牛タンの味を楽しみました。
それからニッカウイスキーの宮城峡蒸留所に向かいましたが、この蒸留所は仙台駅から西に25kmほど行った作並温泉の手前にあります。まずこの蒸留所のある地形を見てください。
この蒸留所は広瀬川と新川(にいかわ)の合流地点にあります。ニッカウイスキーの創始者の竹鶴正孝さんが北海道余市に最初の蒸留所をつくって約30年後、第2の蒸留所の地を求めて探してこの地を見つけたそうです。竹鶴さんが蒸留所の選定する時の信念があります。それは下記の4つのことです。
① 冷涼な土地 ② 湿潤な気候 ③ 綺麗な空気 ④ 豊かで美味しい水
竹鶴さんは新しい蒸留所の選定で、東京に近くて寒い場所として東北地方を探してもなかなか良いところが見つからなかったそうですが、最後にこの地を見つけました。この地は仙台より3℃~5℃寒く、冬は雪が多い場所で空気は綺麗、、新川と広瀬川の合流地点なので靄が立ち込めやすい場所、つまり湿潤な場所だったのです。この新川の清流の水でハイニッカを割って飲んで味わいを確認して、この場所を選んだと言われています。
日本酒でも水は大切にしますが、湿潤な気候やきれいな空気が必要なのは、樽の中で何年も熟成させるからで、樽は木製ですから外気の影響を受けやすいためだと思います。
それでは早速宮城峡蒸留所を紹介しますが、初めにこの蒸留所の理解を深めるために、ウィスキーの製造工程について説明します。
1.製麦:
原料の大麦を水に浸して発芽させる(モルトと呼ぶ)と、デンプンを分解する酵素を生成するので、ある程度酵素が増えてから発芽を止めるために乾燥させます。その時に乾燥にピート(泥炭)を燃やした煙を使うとその煙臭がスコッチウイスキーを特徴づける香りの一つとなるようです。
2.仕込み:
乾燥した麦芽はごみや小石を除去した後、粉砕されマッシュタンと呼ばれる容器の中で温水と混ぜられます。すると麦芽中のデンプンに酵素が作用し、デンプンが分解して糖分が温水中に溶け出す。この時の温度は63度~64度で、こうして得られた液体を麦汁といいます。
3.発酵:
仕込みで得られた麦汁を発酵槽に送り、酵母を加えてアルコール発酵させ、7%濃度のエタノールを含むもろみ(ウオッシュ)をつくります。ウイスキー適した酵母は数百種あると言われていますが、発酵の工程は48時間~70時間で、時間が長いほど乳酸菌が多くなり酸味が強くなるそうです。この工程の後半は酵母はほとんど死滅するようですが、この時間が味を変化させるようです。
4.蒸留:
発酵で出来たもろみをポットスチルと呼ばれている単式蒸留器に送り、スチルの下部から加熱することにより、蒸発しやすいエタノールを優先的に蒸発させ、エタノールの濃度を増やしていきます。その加熱方法には石炭やガスの直火炊きと蒸気をパイプに通して加熱する方法があります。蒸留は通常2回行われ、最初に21%まで濃縮し、2回目に70%まで濃縮するそうです。そのほか連続蒸留でもっと高濃度にする方法もあります。この蒸留によって、エタノール以外の成分をどのくらい製品に含ませるかも味を決めていく大切な部分だそうです。
5.熟成:
蒸留により出来た無職透明な蒸留液は加水して60%ぐらいしてから樽詰めされて、貯蔵庫で貯蔵ます。この濃度にするのは、樽に含まれる高分子成分を分解するのにそのアルコール濃度が適しているからだそうです。ウイスキー樽は気温の変化により呼吸するようであり、その呼吸により樽の外へ揮発成分が抜けながら熟成が進むようです。
それでは蒸留所の紹介をします。
まずは全体図を見てください。全体に森に囲われた中にあり、自然の傾斜をそのままに森林に溶け込むように設置されています。景観には大変留意されていて、電線はすべて地中埋設、建物はすべてレンガ造りですから、驚きです。この蒸留所が出来たのは昭和44年ですから結構新しいのですね。
入口を入るとまず左側に池があります。これは高さ520mの鎌倉山を借景にした日本庭園になっていました。池の奥には芝生が見えます。天気が良かったらもっときれいだと思います。
最初の大きな建物がグレーンウイスキー用のグレーン蒸留塔です。この蒸留所の特徴は余市蒸留所と違ってグレーンウイスキーを造っていることです。グレーンウイスキーは大麦の代わりに主原料をトウモロコシを使って連続蒸留器で蒸留したウイスキーのことを言います。グレーンウイスキーは味が軽いこと、生産量が大きいことから、モルトウイスキーとのブレンド用に使われるものです。
このグレーン蒸留塔はカフェ式連続蒸留器という箱を積み上げた古いタイプの蒸留器で、24個の箱を積み上げた塔と42個の箱を積み上げた塔の2塔からできているそうですが、安全を考え、通常は非公開なので見学できませんでした。
次に現れたのはキルン塔です。ここは発芽した麦芽を乾燥させるところですが、今は使用していないそうです。でもこの蒸留所ができてからの6年間は使用していたそうです。
この工程は日本産の大麦が少ないことから、現在は大量に大麦を使用するビール工場の麦芽製造部門、具体的には関連会社のアサヒビールモルト工場に委託しているそうです。
次は乾燥した麦芽を奥の建物の地下に貯蔵されコンベア(奥の建物の縦の黒いもの)で白いサイロの上部に送られます。サイロに入った麦芽はごみや鉄分を除去した後、皮と実に分別され、皮は仕込み槽の濾材として使用され、実は適度な粒度になるように粉砕されるそうです。 手前の横に走っているラックは麦芽を仕込み槽に送るベルトコンベアです。
粉砕された麦芽は次の仕込槽に送られます。ここが仕込槽(マッシュタン)です。直径4m高さ5.5mのステンレスタンクです。
この槽で麦芽の糖化と濾過を行い糖度が13%ぐらいの麦汁を造ります。通常は2回の仕込みで1回目の仕込みで糖度5%に、2回目の仕込みで糖度13%にします。
次に麦汁は発酵槽に送られます。発酵槽ではニッカウイスキー独自の酵母を投入して約7%のアルコールと香気成分を含んだもろみを造りますが、日本酒の酒母の考え方に近い理屈で、最初に麦汁で酵母を増殖させたものをどんと入れるようです。その時乳酸菌も増殖しています。これによって雑菌の増殖を抑えているようです。この考えは日本酒とおなじですね。発酵過程中に酵母はアルコールにより死滅して底に沈むそうですが、これはろ過しないで、そのまま蒸留器に送るようです。
今回説明をしていただいた岡島さんですが、普段は経理の仕事をしている特別の説明員の方です。
発酵槽を出たもろみは固形分を含んだまま次の単式蒸留器(ポットスチル)に送られて蒸留され、アルコール濃度70度まで濃縮されます。この時ポットスチルの形状によってアルコール以外の成分の混じり方が変わるそうです。ここのポットスチルは余市蒸留所と異なり、ポットスチル上部の管(ラインアーム)が上向きで、釜の形状がこぶのようなバジル型になっているので、華やかで柔らかなモルトになるそうです。
ポットスチルは下記の図のように初留釜と再留釜から成り立ち、初留で3倍濃縮し(量は1/3)、再留でさらに3倍濃縮して(量は最初の1/9)70度のアルコールが取れます。このアルコールは無色透明です。加熱方法は余市の石炭炊きと違って、130度の水蒸気を使っています。また初留はもろみ中に固形分を含んでいるために、突沸を起こしやすいので、覗き窓が付いていてそれを見ながら加熱調節をするそうです。
ここで得られたアルコールは加水してアルコール度数を約60度にしてから樽に詰めて熟成させます。熟成中に樽の木材に含まれるいろいろな成分が熟成を進めるようですが、樽は気温の変化による呼吸をするので、1年に2~4%樽の外に揮発成分が抜けるようです。この蒸発量を天使の分け前(エンジェルズ・シェア)と呼ぶようです。これは天使に分け前を与える代わりに天使にウイスキーを育ててもらっているという意味だそうです。随分ロマンティックな呼名ですね・・・・・
貯蔵樽の見学はしませんでしたが、見学後試飲を兼ねたセミナーが行われましたので、それについては興味深かったところだけ紹介します。
セミナーの説明をしていただいた三輪さんです。見学の案内をしていただいた岡島さんの同期だそうです。
クリックして拡大してみてください。一番左上が余市のNewfillingでポットスチルを出たばかりにアルコール度数70%のウイスキーの元、次がシングルモルト余市12年、次がシングルモルト宮城峡12年、左下がニッカカフェグレーン、次がシングルモルトとカフェグレーンを調合したザ・ニッカです。
Newfillingは無色透明でほとんどアルコール臭です。余市モルト12年はピートの香りが強く余韻が長い、宮城峡モルト12年はやや軽めで華やか、カフェグレーンはスーッと消えていく余韻でした。ザ・ニッカは一番バランスがいいように思えました。
ニッカではブレンドのことを花束に例えるそうです。モルトウイスキーは薔薇、百合などメインになる花で、グレンウイスキーはかすみ草で全体をきれいな花束に仕上げたのがブレンドウイスキーだそうです。
ウイスキーの香りについて面白いことを聞きました。ウイスキーの香りは強烈で、飲み終わった瓶に付着した香りを嗅ぐとウイスキー本来の香りがわかるそうで、ウイスキー通はに飲み終わったグラスはそばに置いてその香りを楽しむそうです。
日本酒でやってみましたが、飲み終わったグラスにはほとんど香りは残っていません。日本酒の場合は含み香が強く、酒自身の香りは少ないのかもしれません。香水はアルコールに香料を溶かして作るようで、強い香りはアルコール濃度が高いようです。ですからウイスキーは香りが高いのですね。
下の写真は創業者の竹鶴さんが香りを嗅いでいる姿ですが、鼻の片方で嗅いでいますね。それはウイスキーはアルコール濃度が高いので、これを強く吸うと鼻の嗅覚が麻痺するので、左右の鼻ので交互に嗅ぐことで、麻痺を抑えているそうです。なるほどね・・・・
以上で宮城譲見学の紹介は終わりますが、最後にニッカの自慢のお酒を見てください。
竹鶴12年、17年、21年のピュアモルトウイスキーです。アマゾンで調べたら21年物で15000円程度、17年物で7500円で売っていました。でも普通のお店では売りきれていて買えないようです。
最後に皆と一緒に飲んだウイスキーの中で美味しかったものを上げておきますが、僕にはどんなものかわかりませんので、説明できませんが良いものであることは確かです。参考にしてください。
僕の感想ですが、ウイスキーと日本酒は造りが全く違うけど、自然を大切にしているところには共通感があるような気がしました。飲み方としては日本酒は食中酒、ウイスキーは食後酒ですね。ウイスキーは嫌いではないけど、これにはまるとお金がなくなるし、日本酒はやめられないので、結果的に飲む量が増えて体に良くない気がしました。
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