去年の12月の中頃に目白のイタリアンレストランのMAC’s CARRORTで日本酒をジャズで楽しむ会(SAKE&JAZZ)が開かれましたので、参加してきました。この会は日本酒マニアで、一般社団法人「日本の酒」の理事長をしている高橋さとみさん夫婦が開催している会で、今回が26回目だそうです。さとみさんはジャズを聴くことが好きで、よく旦那様とお二人でジャスをジャズを聴きにいかれたそうで、特にピアニストの福田重男さんのフアンだったそうです。福田さんと交流をされているうちに福田さんが日本酒がお好きなことがわかり、生バンドのジャズを聴きながら日本酒を楽しむ会を開いてくださいとお願いされ開催したのが始まりだったようです。
新橋のお店で開いたのが最初だったそうですが、開催の要領もわからないまま始めただけでなく、お店の場所代も高かったせいもあって、大赤字のスタートだたそうです。でもその後色々な人からのサポートもあり、赤字を出さない程度にはなってきているそうですが、26回も続けるのは凄いことです。こんな企画は他にはほとんど聞いたことはありません。ジャズと日本酒が好きな方は是非来ていただきたいそうです。
今回のMAC’s CARRORTはJR目白駅から歩いてくらい2分くらいのところにあるお店で詳しいことは僕の下記のブログを見てください。このブログは第25回の時に初めて僕が参加した時の様子を描いたものです。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2017/10/post-225a.html
今回は暮れの忘年会と重なっているためか人数は少なめでゆったりと楽しめることができました。
今回参加された蔵元はまんさくの花を醸造している秋田県の日の丸醸造の社長の佐藤譲治さんと美濃紅梅を醸している岐阜県の武内合資会社の社長の武内昌史さんのお二人です。出品していただいたお酒は下記のとおりです。
1.日の丸醸造
・ まんさくの花 H29年3冠受賞酒 大吟醸 28BY
・ まんさくの花 純米大吟醸 亀GOLD 生詰原酒 28BY
・ まんさくの花 純米吟醸 ダイヤモンドドロップ28BY
2.武内合資会社
・ 一滴千山 純米直詰め荒走り生原酒 29BY
・ 美濃紅梅 特別純米酒 28BY
・ 兄花金紋 28BY
・ 美濃紅梅 純米吟醸酒 28BY
蔵とお酒の紹介は後で行うとして、まず演奏者の紹介をします.。誰をお呼びするかはすべてピアノの福田さんがアレンジしているそうですが、基本はお酒の好きな人に声をかけているようです。 今回のメンバーは以下の通りです。
・ ピアノ 福田重男
・ ベース 藍沢栄治
・ ボーカル Mamiko Bird
この方たちの詳しい情報は良く知りませんが、会の途中で福田さんとはちょっとお話したので、そこでお聞きしたことを少しだけ紹介します。
福田さんは群馬県前橋出身で、お父様は全く音楽教育を受けていない人ですが、クラッシックが大好きで、非常に高価なレコードを購入したり、FM放送が出始めた時にはそのためのアンテナを自分で立てたりするほどの凝り性だったそうです。ですから重男さんは小さい時からをクラシックを聴かされ、父は息子を指揮者にするのが夢だったので、好きでもないピアノを習わされたそうです。ジャスに出会ったのは中学の時だったそうですが、大学に入った時に良い師匠と出会ってジャズにのめり込んだとのことです。でも小さい時からピアノに慣れ親しんだのが今のベースになっているのは間違いないですね。指揮者にはならなかったけど有名なジャズピアニストになったのですから、大したものです。
福田さんはワインが大好きでしたが、沢山飲みたいので高級なワインではなく安いワイン買うのが常だったそうです。今では日本酒も好きになったけど、やはり沢山飲まないと気が済まないそうです。要はお酒が好きなのですね。でもお酒が好きでないと、このような企画をサポートすることはできませんよね。この会が発足した原点が判ったような気がしました。
会の終わりに演奏された軽快なジャス(名前はわかりません)を聞いてください。
「171216_003.MP3」をダウンロード
それでは蔵とお酒の紹介に入ります。
<まんさくの花、日の丸醸造>
この蔵は秋田県の横手市増田町にある蔵で、創業は江戸時代のはじめの1689年ですからとても古い歴史のある蔵です。この地は江戸時代は物資の集散地として、明治に入っては商業活動の地として、そして大正時代には吉野鉱山の増産などがあり、流通の中心の町として県内随一に繁栄したところで、大正時代が最盛期だったようです。しかも豪雪で有名な土地なので、蔵を建屋の中に造った内蔵(うちくら)が有名な街です。
内蔵とは母屋の背後に土蔵を立てて、これを鞘とする上屋で建物で覆い、母屋と連結した構造になっています。この土蔵を増田町では内蔵と呼んでいて、外からはその存在もわからない構造をした建物で、雪国ならではものです。内蔵は雪国にはよく見られるようですが、増田町は内蔵がある地区に集中しているのと、今でも沢山の内蔵が現存していて、内部が豪華なことから注目されています。そして、平成13年より公開されるようになっています。
それを模式的に描いたのが下の図で、右の写真はある旧金物店の内蔵で、内部はとても豪華な蔵になっています。
その蔵の母屋の写真がありましたので、載せておきます。中の様子が全く分からないですね。現在は観光物産センターの「蔵の駅」として使われています。
この内蔵は増田町の繁栄の象徴と言えそうです。日の丸醸造の建物も内蔵構造をしており、文庫蔵として国登録有形文化財となっています。内蔵は大別して物を仕舞っておく文書蔵と座敷として使っている座敷蔵があるそうですが、もともと文書蔵が多かったのが、明治以降座敷蔵が増えたそうです。この文庫蔵は増田町の数多い内蔵の中でも、その意匠や豪華で繊細な装飾がひと際際立った内蔵となっているそうです。醸造用に使っている蔵もあり、日の丸醸造もその一つだと思いますが、文化財としては文書庫の分類に入っているようです。日の丸醸造の内蔵の写真を下に載せておきます。
日の丸醸造は大正時代は生産量が5000石もあったそうで、東北を代表する蔵として栄えたそうです。しかし、戦時下の企業整備令によって廃業に追い込まれることになったそうで、戦後先代の佐藤光男さんが買い取って蔵の歴史を継承したようです。静岡県出身の先代は仕事も全く場違い酒造りは大変だったと思いますが、努力も実って一時は1万石近くにまでなったそうですが、現在は特定名称酒を重視した造りで1400石位の生産量を維持しています。
日の丸醸造という名前は蔵の名前としては珍しい名前ですが、この名前は秋田藩主佐竹公の紋所が扇に日の丸だったことから付けられています。この名前の商標登録は明治40年だそうで、それ以来「日の丸」を主要銘柄として酒造りをしてきました。しかし、戦後日の丸のイメージが国粋主義に感じる人が多かったので、他の銘柄を考えていた時に、NHKの朝の連続ドラマで秋田県横田市を舞台に「まんさくの花」が放映されたのを機に新たな銘柄として「まんさくの花」が誕生したそうです。
「まんさくの花」はそれまでの主力製品の「日の丸」の重みのある酒質とは異なり、奇麗で優しい酒質のお酒を目指し、今では日の丸醸造の代表銘柄となっています。この蔵の酒造りの特徴は何といっても仕込み水の良さです。栗駒山系の伏流水を蔵内の4本の井戸からくみ上げて使っていますが、硬度5の軟水で柔らかくて優しい水だそうです。もう一つの特徴は出来たお酒は全量瓶貯蔵で保管できる低温貯蔵庫を持っていて、火入れに関しても酒質が変わりにくいパストライザーなどの専用設備を使うなど、お酒の酒質を変化させない努力をしていることです。
もう一つの特徴はこの蔵には秋田県が生んだ3人の名杜氏の一人である高橋良治さん(70才)がおられることです。他の二人は阿桜の照井俊男さんと雪の茅舎の高橋藤一さんです。この3人は山内杜氏で仲が良いそうで、雪の茅舎の高橋杜氏の息子さんは阿櫻で酒造りをしていて、照井さんの後を継ぐと言われているのは有名な話です。この蔵の高橋杜氏が大切にしているのは蔵の清潔さと仲間との一体感で、楽しく、明るく、前向きに酒造りをすることだそうです。初めて知ったのですが、「まんさくの花」は熟成を楽しめるお酒を目指しているそうなので、今後はまんさくの花を熟成して飲んでみたいと思っています。
最後に社長の佐藤譲治さんをご紹介します。譲治さんはこの蔵で育った後、東京の大手銀行に就職され、120人の部下を持つ支店長にまでになった方ですが、47才になった時に、蔵に戻る決意をされたそうです。平成10年に蔵に戻ったそうですから現在66歳ではないかと思います。まんさくの花に2011年に訪問したことがあるのですが、蔵の中にJBLのスピーカーを見つけて驚いた記憶があります。
JBLスピーカーはジャズを聴くのに良いスピーカーと言われていますので、譲治さんはきっとジャズがお好きなのだと思います。譲治さんは蔵の人らしからぬ風貌がおありなのは、東京で育った上級ビジネスマンの経歴とジャスのセンスから来ているものと感じました。蔵を訪問した時のJBLの写真を下に載せておきます。なかなかのスピーカーだと思いますよ。
次に飲んだお酒を紹介します。
<まんさくの花 H29年3冠受賞酒 大吟醸 28BY>
このお酒は平成29年度の全国新酒鑑評会で金賞を、東北清酒鑑評会で優秀賞を、秋田県清酒品評会で県知事賞を受賞した3冠受賞酒の大吟醸です。お米は兵庫県の山田錦38%精米で、M310酵母を使った大吟醸の原酒です。
酒質は日本酒度が+3.0、酸度1.1、アルコール度数16%でしたが、約1年間蔵の5度の冷蔵庫で熟成したお酒でしたが。
飲んでみると香りは、全く熟成香はなく、熟成によって吟醸香は抑えられていましたとてもきれいなふくらみがふわっと広がった後にスウット消えていくお酒でしたが、後味に奇麗な余韻を感じるお酒に仕上がっていました。これはうまい!
東武デパートで売っているのを聞きすぐ購入しました。
<まんさくの花 純米大吟醸 亀GOLD 生詰原酒 28BY>
このお酒は亀の尾を使っている純米大吟醸です。亀の尾は昔は東日本の食料米として一大勢力のあったおお米ですが、近年は他のお米にとってかわられ、1970年代にはほとんど作られなかったお米です。その後1980年に入ると新潟の久須美酒造と山形の鯉川酒造が相次いで酒米として復活させて、現在では秋田県を中心に酒米として栽培されるようになっています。
このお米は溶けにくいけど硬いので精米しやすい特徴があるので吟醸用として使われることが多いけど、味の出しにくいお米と言われていますが、この蔵ではあえてこのお米のお酒を10年前から使うようになったそうです。このお酒のラベルはかわいいでしょう。社長が書いたそうです。
精米度は45%で、酵母が自社酵母(9号系と他の酵母のブレンド)の純米大吟醸で、酒質は日本酒度が+1、酸度が1.3、アルコール度数は15%で、1回火入れの半年熟成のお酒です。
飲んでみるとしっかりした味わいのあるお酒で、後味に少し辛みを感じるけどとてもバランスの良いお酒でした。亀の尾でこれだけしっかり味を出せるのは大したものだと思います。
<まんさくの花 純米吟醸 ダイヤモンドドロップ28BY>
このお酒は麹米を50%精米の山田錦、掛米を50%精米の美山錦を使った純米吟醸酒の1回火入れで半年熟成の原酒です。
酒質は日本酒度や酸度は書いてありませんが、アルコール度数は16度です。ラベルは日本酒がドリップしている習慣をとらえたもので、金環食のように輝いているので、ダイヤモンドドリップと呼んでいるようですが、袋搾りではなく普通の槽搾りのお酒です。
飲んでみるとさわやかな飲み口ですが、ラベルがイメージするような透明感はない比較的普通のお酒のように感じました。ちょっとラベルのイメージが強すぎるので、このレベルのお酒でも袋搾りをした新しさがほしかったように思えました。
<美濃紅梅 武内合資会社>
この蔵は岐阜県大垣市の伝馬町にあり、この地は濃尾平野の西の根っこにある江戸から京都に行く東西の交通の要所として栄えたところです。また、昔から大垣は水の都と言われたほど豊富で清廉な湧水に恵まれていて、その水はとても柔らかい軟水なので酒造りに適した水と言われています。しかも冬は西にそびえる伊吹山から吹き下ろす伊吹おろしの寒風が吹き、一面雪になるほどの寒い土地なので酒造りの向いていた土地なのです。ですから昔から酒造りが盛んで、今でも酒造りの蔵が3蔵もあります。
創業は江戸時代の中期の1744年に大垣城の近くに居を構え、清酒「兄花’(このはな)」を造り始めました。その後一時味噌、醤油、お酢なども手がけましたが、6代目の当主が酒業を専業とすることを決意して、現代に至っています。兄花とは寒梅に中でも一番先に咲く花のことを言うそうですが、「このはな」とは呼びにくいので、先代が特定名称酒を「美濃紅梅」という名にして発売することになったそうです。
この蔵の杜氏は長年新潟杜氏の岡住一昭さんが勤めてきておられてきましたが、最近高齢になったのでやめられたので、今は社員の若手杜氏に変わっています。蔵の生産量は約150石と小さいですが、国内外の鑑評会でも様々な賞を取るほどのレベルのお酒を造っています。
武内昌史は地元の高校を出られた後、大阪学院大学にすすまれ、卒業後蔵に戻ってきました。父は東京農大を出ていましたが、蔵の仕事にあまり首を出さないようにしていたそうです。前杜氏の後釜が心配なので蔵の仕事をしようとすると、お前は造りには首を出すなと言われたので、仕方がなく杜氏に任せていたそうです。その父も5年前に亡くなり、現在は9代目の蔵元となっていますが、亡くなる前は体調が悪くなっていたので、10年前くらいから実質的に社長の代役をしてきたそうです。でも、酒の酒質のコンセプトは自分で決めて、杜氏と相談して造りをしてきたそうです。
<一滴千山 純米直詰め荒走り生原酒 29BY>
一滴千山シリーズは2012年に首都圏向けのお酒として造ったお酒で、今までは炭素ろ過のお酒が多かったので、無濾過で生の原酒にチャレンジしたものです。その後このシリーズは低アルコール、超甘口のお酒のTAKE1を出すなどのお酒を出しているようです。これは武内社長の新しい狙いだと思います。
このお酒は岐阜県産のこだわりがあり、お米は岐阜県産のあさひの夢とはつしも(いずれも精米度65%)を、酵母は岐阜県が開発したG酵母を使っています。
一滴千山とは「一滴の水でさえ沢山になり、多くの山々をゆったりと潤す」の意味で、「飲んで頂いた方々の心を潤すような、そんなお酒でありたいとの想いを込めて名付けましたそうです。
酒質は日本酒度が+1.0、酸度1.6、アルコール度16~17度のお酒ですが、今年から新しい杜氏になった初めての酒のようです。
飲んでみるといかにも新酒の生酒らしい香りとフレッシュさがあり、その中に程よい甘みと旨みを感じるお酒でした。一般米でこれだけの味とバランスが出せればなかなかのものだと思います。
<美濃紅梅 特別純米酒 28BY>
このお酒は岐阜県産のひだほまれ60%精米で、10号系の岐阜県酵母を使った特別純米酒で、去年からフランスで始まった、フランス人によるフランス人のためのフランスで行う品評会の純米部門でプラチナ賞に選ばれたお酒です。
このお酒の酒質の表示はありませんが、飲んでみると香りが抑え気味で、いわゆる吟醸香が少なく、うま味が口に含んだ後半に感じるので、これは吟醸造りですかとかアミノ酸が少し多いのではとお聞きしてみました。
社長の話ではもろみの発酵温度がすこし高めで、アミノ酸は1.3くらいで、フランス料理にも合わせられる食中酒を狙ったものだそうです。
ラベルが少し古風的ですが、フランス人には喜ばれるかもしれませんね。
<兄花金紋 28BY>
このお酒はこの蔵が出している普通酒で、お米は岐阜県産のあさひの夢65%のアルコール添加のお酒です。まずお燗酒として出ましたが、常温と比較して飲んでみました。
飲んでみたら吟醸香はほとんどしなかったので、吟醸造りではないお酒であることはすぐわかりましたが、このお酒の気に入ったところはテクスチャーの柔らかさでした。アルコール添加のピリピリ感がなかったので、社長にお聞きしたら特別なことはしていないというのです。
もっといろいろ聞いてみると一番の理由は水の良さということになったのですが、このお酒は一度火入れしたのもをタンクで貯蔵して、瓶詰めの時にもう一度火入れするので、タンクを小分けにして貯蔵して、払い出した後の残ったお酒が酸化しないように管理していることと添加用のアルコールは少し寝かせてから使っていることぐらいだそうです。
<美濃紅梅 純米吟醸酒 28BY>
このお酒は雄町55%精米の純米吟醸で、この蔵としては初めて雄町を使ったお酒だそうですが、「インターナショナル・ワイン・チャレンジ2017」において、 【COMMENDED(コメンデッド)賞】を受賞したお酒です。
酒質については記述がないのでわかりませんが、飲んでみるとちょっと普通のお酒にはない変な香りがするので、社長にお聞きしたら、確かのこれはおかしい。最初のお酒にはなかった香なので、戻って調べてみるとのコメントをいただきました。
ですからこのお酒のコメントは控えさせていただきます。
以上で武内酒造のお酒の紹介は終わりますが、この蔵の特徴がいまいちよくわからない気がしましたが、お酒造りの腕は良いものを持っていると思いました。新しいブランドを出したばかりなので、まだ安定していないこともあるのかもしれませんが、水の良さとか腕の良さを生かしたこの蔵らしいお酒造りを目指してもらいたい気がしました。
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