豊酒造(華燭)は一味も2味も違うお酒を目指しています
今年も3月の21日の行われた福井県酒造組合が主催する春の新酒まつりに参加することにしましたので、その前日にどこか蔵見学をしたいと思い、いろいろお願いした結果、鯖江市にある豊酒造・華燭を訪問することになりました。この蔵には18年前に訪問したことのある蔵で、去年の春の新酒まつりで久しぶりに社長のお逢いして、飲ましてもらった20年古酒が素晴らしかったので、ぜひ訪問したいと思っていました。
<蔵の歴史と現状>
この蔵は鯖江駅から西に2-3㎞程行ったところにある小さな蔵で、創業は1753年と古い蔵ですが、9代目の佐々木惣吉さんが明治時代にj国立醸造試験所の一期生として醸造学を学び近代的な造りを取り入れて、蔵元が酒造りに深くかかわるようになったそうです。その後清酒鑑評会に入賞するためにYK35といわれた山田錦と協会9号酵母を使った酒造りを行うなど一定の成果を上げてきましたが、それを大きく変えたのが現在の社長で11代目の蔵元の佐々木宗利さんです。下の写真の左の方です。
この蔵には以前には杜氏がおられて、古くは丹波杜氏、次が新潟杜氏、そして最近は能登杜氏と変わってこられて、宗利さんはこの3流派の杜氏の杜氏のもとで修業をし、数々の技術を習得し、全国新酒鑑評会や金沢国税局酒類鑑評会で金賞を取るまでになり、酒の生産高も頑張って1000石を達成するまでになったそうです。それで、販路を広げようと東京の酒販店に交渉すると、東京で売るためにはこういう味の酒にしろとかいろいろ言われているうちに、知らず知らずのうちに当社の当蔵の個性が失われてきたことに気が付いたそうです。特に最近は金賞を取るためのレシピが出来上がっていて、誰でも同じようなお酒が造れる時代になり、ある意味では蔵の個性が失われる傾向があることに危機感を感じたそうです。
そこで平成14年(2002年)からは自らが杜氏になり、自分の造りたいお酒だけを造るようにしたそうです。僕が蔵を初めて訪れたすぐ後のことだったのですね。具体的には福井県の気候風土が生み出す地酒に徹して、基本的には山田錦はやめて福井県産の五百万石に特化して、協会9号酵母もやめて福井県で開発した酵母とM310酵母だけを使った、昔からの伝統ある淡麗なお酒造りを徹底するようにしたそうです。家族+αだけで酒造りをするので、お米の洗米、蒸し、麹造り、酒母、醪造りを見直し、必要最低限の作業に抑える努力をしてきたそうです。ですから蔵元杜氏だけで自分のやりたい酒を造るのであればどんなに頑張っても500石どまりだそうで、現在は約300石の生産量で少しずつ二したいそうです。
宗利さんが杜氏になって酒造りを初めて16年目になり、今年で62才になるそうですが、6年前に息子の佐々木克宗さんが茨木大学の農学部を卒業して、蔵に戻ってきて酒造りを始めたので、いずれ息子に引き継いでもらいたいと思い、自分が持つ技術を全て教えてきました。その結果、昨年度に息子が造った精米度50%の五百万石の純米大吟醸が全国新酒鑑評会で入賞する実績を上げたので、今年の造りから商売のための酒造りはすべて息子に任せるようにしたそうです。宗利さんはこれからどうするのですかとお聞きすると、やりたいことは一杯あり、今までやりたくてもやれなかったことや商売の幅を広げる新しいことをやるそうです。
その具体的なものの一つに昨年から販売し始めた「20年古酒の1997酒造り宗利」や、今年初めて造った酒で、これから販売する「華燭 無吟香吟醸酒」があります。前者は常温のタンクで20年熟成した古酒ですが、普通の古酒のよりずっと色が薄く熟成香が弱いけどテクスチャーが素晴らしく、柔らかくスウットと飲めるお酒です。後者は吟醸造りだけれでも吟醸香が全くないお酒を造ったそうで、お燗にすると最高にその実力を発揮する酒でした。いずれも宗利さんが造った逸品だと思います。詳しい内容は後で紹介します。そのほか発酵食品の開発に凝っていて、すでに食べる甘酒、塩麹より優しい醴塩、造り酒屋のこだわりの味噌を造って販売していますが、これからもっといろいろな発酵商品を増やしていくそうです。
克宗さんも負けてはいません。売りを目的としたお酒造りは宗利さんの酒造り技術を踏襲するだけでなく、その中に自分の技をきらりと埋め込んで一層完成させると同時に、新しいチェレンジもしているそうです。新しいチャレンジを行うと言っても今風なものではなく、オリジナリティの高い新しい酒造りのようです。一つだけ見せてもらった物のは4-5%の微炭酸低アルコール酒で、飲ませてもらったけど僕には飲みやすいけどアルコールが低すぎる気がしましたが、さらに改良して何とか商品化したいそうです。
こうやって見ると、今年から新しい弥次喜多コンビの親子による新しい酒造りがスタートする元年になりような予感がします。業界をあっと言わせるお酒を発信してもらいたいけど、お話を聞いてみると、これで儲けてやろうというような気合は感じない、とても自然体の取り組んでいる姿勢が良いなと思いました。とても息の合ったお二人のように思えました。
<蔵見学>
それではどんな蔵で酒造りをしているのかを見学させていただきました。次に蔵の見学の様子をお見せしますが、2000年一度訪問したことがあるのですが、外観はほとんど変わっていない気がしました。
蔵の正面の建屋です。昔のままです。
書面玄関の入口の土間です。18年前とほとんど変わっていませんでした。
洗い場のようですが、奥に薮田の搾り機が見えます。床はコンクリートで今流行りのリノリウムではありませんでした。
次の写真には和釜と放冷機が見えますが、古いものを使っています。
麹室は石壁でしたが、内部は木製だそうです。室は1部屋しかないので、温度管理が大変だそうです。いずれ変えなければいけないと考えているようでした。中には天幕式の製麹機と中箱(10~15kg)の床があるだけだそうです。
仕込み部屋の2階が麹のさらしと酒母室になっているようです。
搾り機の隣に手製の袋搾り機のようなものがありました。組み立て型の槽搾り機のようなものらしいです。この写真ではどう使うかわからないでしょうね。良いお酒はこれで絞った後薮田を使うそうです。
貯蔵室は結構広くて沢山の密閉型のタンクが並んでしました。ここのどこかに20年古酒のタンクがあるようです。 空調設備はありません。
ご覧いただければわかるようにサーマルタンクが1本もありません。それはこの蔵のお酒は基本が火入れして常温貯蔵するのがベースなので、生原酒は冬場だけしているためにサーマルタンクがいらないそうです。
火入れの基準は瓶貯蔵するものは1回火入れ、タンク貯蔵するのは2回火入れだそうです。
以上で蔵の内部の紹介は終わりますが、特に蔵の設備には新しいものはなく、ごく普通の昔ながらの蔵をそのまま使用しているのようでした。でもあまり整理整頓されていないのがちょっと気になりました。蔵の中を奇麗にしないと奇麗なお酒にならないと思っているので、それだけは気になりました。
<試飲したお酒について>
最後に写真のようなお酒を試飲させていただきました。この写真はちょっとピンボケで拡大しても良くわからないと思いますので、左からその銘柄を示すことにします。この蔵が扱っている普通酒以外のほとんどすべての銘柄だと思います。蔵訪問でこんなに用意していただいたのは生まれて初めての経験です。
① 華燭大吟醸 滴 五百万石40%精米、ALC17度、日本酒度+5、酸度1.2 3年熟成酒
② 華燭大吟醸 五百万石40%精米、ALC15度、日本酒度+4.5、酸度1.3 10年熟成酒
③ 華燭純米大吟醸 五百万石40%精米、ALC16度、日本酒度+2、酸度1.2
④ 華燭純米大吟醸 五百万石50%精米、ALC16度、日本酒度+1、酸度1.2
⑤ 華燭純米大吟醸 五百万石50%精米、ALC16度、日本酒度+1、酸度1.2
⑥ 華燭純吟 山田錦55%精米、ALC15度、日本酒度+0、酸度1.3
⑦ 五穀豊穣 五百万石麹55%、掛60%精米、ALC15度、日本酒度+10、酸度1.2
⑧ 華燭純米酒 低温瓶内貯蔵酒 五百万石60%精米、ALC18度、日本酒度+1、酸度1.7
⑨ 越前国府 五百万石麹65%、掛60%精米、ALC155度、日本酒度+3月、酸度1.4
⑩ 華燭特別純米 土蔵育ち 五百万石60%精米、ALC16度、日本酒度+6、酸度1.3
⑪ 華燭本醸造 五百万石65%精米、ALC14.5度、日本酒度+0.5、酸度1.2
⑫ 華燭1997酒造り人宗利 酒質すべて非公開
⑬ 華燭 澄み透る吟醸酒 無吟香 五百万石55%精米、ALC15度 日本酒度+10、酸度1.2
これらのお酒をひとつづつは説明しませんが、この蔵のお酒は+0~+5ぐらいで、酸度は1.2~1.3を標準としているようで、たぶんアミノ酸もあまり出さないお酒なので、淡麗と言われていますが、熟成させることにより味を調えているのだと思います。どのくらい熟成させるかは銘柄によって違うようですが、表示がないので詳しいことはわかりません。低温で熟成しているのは②と⑧だけではないかと思います。
酵母は精米度50%以下の大吟醸クラスは福井県のF501酵母を使い、純米酒以下はM310(10号酵母)を使っているそうです。
⑥のお酒だけ山田錦を使っているのは、福井県産の山田錦を使ったお酒を町おこしのために造ったためで、来年も山田錦でと言われたら造らないそうです。
この中で興味があるのは④と⑫と⑬のお酒でしたので、それだけを紹介します。
④ 華燭 純米大吟醸
このお酒は息子さんの克宗さんが造った28BYの出品酒で、特別の農家に作ってもらった五百万石を50%精米したものを使た純米大吟醸で、酵母は福井県のF501です。このお酒が全国新酒鑑評会で入賞したお酒です。
精米度50%の純米酒で全国新酒鑑評会で入賞した例はほとんどないと思うので、凄いことだと思います。このお酒はラベルが2種類あって、写真の④のラベルは宗利さんが造ったもので、⑤のラベルが克宗さんが造ったラベルです。克宗さんのラベルは五百万石、50%精米、F501の5-5-5という意味をあらわしたものだそうです。少し漫画チックで、やっぱり若い人の感性は違うね。
味の方はというと、酢酸イソアミル系の爽やかな香りの中に、奇麗なふくらみを感じるお酒で、この蔵としてはちょっと今風かな。でもこのお酒が2000円で買えるのならコストパフォーマンスは良いと思います。
⑫ 華燭1997酒造り人宗利
このお酒が去年発売した20年古酒です。この蔵は昔からタンクにいろいろなお酒を寝かせていたようですが、このお酒だけは熟成がすごくうまくいって出来たようです。
酒質に関する情報は一切非公開で、想像してくださいとのことでした。精米度は60%と聞いたことがありますので、日本酒度や酸度はきっとここの定番の辛口系と同じだと思います。要はどのように熟成させるかだと思いますが、20年間タンクに放置していたわけではないそうです。ここに何かノウハウがあるのかもしれません。
飲んでみると20年の古酒とは言えない軽い熟成香がすれけどあまり気になりません。このお酒の良いのは何といっても口当たりの柔らかさで、甘いわけではないけど口の中に軽いうまみが残ります。これは精米度が60%なので熟成中で淡白質がアミノ酸に変化したのではないかと思いました。このお酒の良さを楽しむのであれば常温が良いと思います。
普通の古酒は色も香りも付いて紹興酒のようになるけど、それはむしろ積極的に古酒になるように甘みや旨みをのあるお酒を熟成しているからだと思います。僕のお酒の先生の菅田さんが自宅で大関のワンカップを部屋で熟成させた実験をしていますが、3-5年は色が濃くなってきましたが、それを過ぎるとほとんど色が変わらなかったそうです。きっと甘みや旨みが少ないお酒は熟成が遅いのだと思います。
しかもこのお酒の販売方法が変わっています。この蔵に来た人には問屋でも酒販店でも個人でも価格は同じで500mlが2000円で、購入した人がいくらで売ろうとかまわないそうです。
⑬ 華燭 澄み透る吟醸酒 無吟香
このお酒は今年4月から発売されつ吟醸酒ですが、摩訶不思議なお酒です。原料米は麹は五百万石55%ですが、掛米は不明です。アルコール度数は15度、日本酒度は+10、酸度は1.2とごく普通の辛口の吟醸酒のようですが、実は造りが違うようです。吟醸酒造りですが、吟醸香を一切出さないように作ったそうです。どうしてそんなお酒を造ったのでしょうか
飲んでみると確かに吟醸香はしないし、うま味は少ないので、ちょっと物足りないお酒でした。不思議なことに、これをお燗すると、全く姿を変えます。少し甘みが出てくるのですが、お燗独特の香りもなく後味に嫌みがなく、飲み飽きしないいくらでもおいしく飲めるお酒になりました。
吟醸香のない吟醸酒を造るとこんなお酒になることを、前もって予測していたとしたら、凄いことです。
価格は500mlで1000円ですが、相談すれば1升瓶でも売ってくれるようです。
以上でお酒の紹介は終わりますが、このほかにも色々な古酒がでてきました。30年ものもあり、飲んでみるとウイスキーのようなおさけもsりました。この蔵の古酒造りの技術は凄いものがあります。
<発酵食品について>
この蔵では醴塩、甘酒、味噌を扱っていますが、僕は醴塩(れいしお)が気に入りました。
塩は古代の甘酒(醴)を造る過程に天然塩を加え発酵することにより、塩糀の塩の使用量を1/3(当社比)で甘味と塩味が特徴の塩糀とは一味違う調味料になったそうです。タンパク質分解酵素・アミノ酸などの成分は塩糀と変わりませんので
塩分を控えたい方には最適だそうです。
ここではねぎを生のままで切ったものと醴塩を合わせたものを出していただきました。ねぎの香と感触を残しているものの、醴塩の塩分と旨みがバランスしているので、最高のつまみでした。これはそのまま冷凍しておくといつでも食べられるそうです。
写真をお見せしますが左はへしこの醴塩あえで、右がねぎと醴塩和えです。
社長から醴塩の絶品レシピを教えてもらったので、家に帰ってから造ってみました。妻にも褒められたのでご紹介します。それは豚肉の醴塩漬けです。豚肉のロース部分(バラでもいい)を醴塩と混ぜてチャック袋に入れ24時間冷蔵庫で保存します。それをお湯の中で約40分煮るだけです。豚肉の中に醴塩の旨みが入り、それだけで絶品のおつまみになります。しかもゆでた残り湯はスープとして使えます。僕はコンソメとわかめともやしを入れて食べました。騙されたと思って造ってみてください。
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