寒菊銘醸はこれからがますます楽しみな蔵です
去年の暮れのことですが、八芳園内の日本酒料理店の槐樹で蔵元と日本酒を楽しむ会が開かれましたので、参加してきました。今回は千葉県の寒菊銘醸の社長の佐瀬建一さんをお呼びしての会でした。寒菊銘醸の大吟醸の「夢のまた夢」がモンドセレクションの最高金賞を取ったことのある蔵だとは知っていましたが、今まで飲む機会がなかったので、この蔵がどんなお酒を造ってるかを勉強するつもりで参加しました。
寒菊銘醸は九十九里浜のちょうど中央部分の浜に向かって広がる穀倉地帯の中心にある山武市(さむし)にある蔵で、明治16年に佐瀬源作がこの地に湧き出す水と、米処に目を付けて酒造りを始めたようです。小粒ながら一徹さを持つ冬菊になぞらえて、寒菊(かんきく)と命名したそうです。、最初はこの地の人たちのためだけの酒造りだったようで、生産量も100石足らずの小さな蔵だったようです。
この蔵の庭には樹齢200年を超える大きな柿の木があり、この柿の木の根元から湧き出る清水を使って酒造りをしていますが、この水はミネラル分の多い硬水なので発酵力が強く、味のあるお酒になるそうです。杜氏は以前は越後杜氏でしたが、1995年より岩手県から来ている南部杜氏の高橋正芳さんが酒造りをしていました。高橋さんは腕の立つ杜氏で、2009年にはモンドセレクションjで最高金賞を取った名誉大吟醸「夢の又夢」を造っただけでなく、全国新酒鑑評会で10年連続金賞を取っています。
その高橋さんを見つけて杜氏として育てたのが建一さんの父の4代目当主の佐瀬光久さんです。この蔵には昔から南部杜氏の仲間が来ていましたが、この中でこの蔵の杜氏として定着した人がいないことを問題としてとらえ、、杜氏補佐をしていた高橋さんに目を付け、まずこの蔵で修業させ、さらに他の蔵にまでいかせて教育して、ついにこの蔵専属の杜氏としたそうです。
また、光久さんはビジネスにたけた人で、夏はお酒が造れないので夏に売れるビールの製造を思いつき、1億円を投じて製造設備を建設し、97年に「九十九里オーシャンビール」の発売を開始して、今では年間20万本も製造している立派な事業になっています。地ビール事業を酒蔵がやるのは獺祭の桜井さんもやって失敗したほど誰もが思いつくのですが、それを成功させることは難しく、成功させるには大変な努力があったと思われます。始めたころは蔵内部から猛反発を受けたと聞いています。光久さんの時代にお酒の生産量が一時1000石にまでになったようですが、現在は600石位の生産量のようです。
下の写真は九十九里オーシャンビールの製造工場の写真です。
久光さんを引き継いで5代目当主になったのが今回参加していただいた佐瀬建一さんです。建一さんは地元の高校を卒業後、千葉工業大学の化学科に入学されましたが、家業を継ぐつもりはなかったので就職して営業をするつもりで入ったら、なんと経理の仕事をさせられたそうです。そこで3年たった時に蔵に戻るように父に言われて戻ったのが15年前だったそうです。
下の写真は5代目社長の佐瀬建一さんです。
ですから酒造りのことは何も知らなくて蔵に戻ったのですが、戻った理由は父が造った純米吟醸酒がとても良くできていらからだそうで、戻ってきてからは特に外に修業に行くこともなく、蔵の杜氏から勉強したのと、父が廃業した蔵に連れ行ってくれて、酒事業もうまくやらないと失敗することを教えてくれたことくらいだそうです。お父さんは息子をよく見ていて、うまくコントロールしていたことが判りました。
その健一さんも5年前に父の後を継いで5代目の社長になってからは、酒造りはすべて任されていて、父は町の仕事だけをやり、酒造りには全くタッチしないそうです。このあたりも父の計画通りなのだと思います。高橋杜氏は高齢のため平成28年に退職されたので、28BYより30歳の社員杜氏に切り替わったそうです。この杜氏は元々成田飛行場の整備士をしていて、この蔵に入って酒造りの勉強した人だそうですが、感覚が繊細で、綺麗好きできちっと仕事をするこだわりの人なので、安心して任されるそうです。建一さんとはいつも酒造りの熱い議論を交わしているので、建一さんは自分のやりたいことをやっていけるそうです。
自分が社長になってまずやったことは、酒は造った時の状態をできるだけそのまま維持したいので、200石の氷温冷蔵庫と200石の低温冷蔵庫を造ったそうです。現在は純米酒は全部無濾過にしたり、直汲みができる瓶詰め装置を使い生の直汲みの酒造りに力を入れているのと、来年度は火入れのレベルを上げるためにパスとライザーを導入すつもりだそうです。酒造りには高橋杜氏が築いたしっかりした技術があるので、後処理に力を入れているのはさすがですね。
寒菊銘醸と槐樹さんとの関係は昔からあったようで、槐樹オリジナルな大吟醸「槐樹」は寒菊銘醸が造っているそうです。だからこの会ができたのですね。
蔵の紹介はこのくらいにして、飲んだお酒を紹介します。お酒は5種類でした。
1.寒菊 スパークリング
夏の日本酒の会でも日本酒で乾杯することが多いので、自分はビールで乾杯したかったことがよくあったそうです。それで、蔵が持っているビール会社で発泡酒を造ってみようと思い立って出来たのがこのお酒だそうです。日本酒は地元産のきたにしき(地元産の山田錦の別名らしい)とリンゴ酸が良く出る酵母77号を使った4段仕込みのお酒をビール工場のタンクに入れて、ビール工場のラインで炭酸ガスを吹き込んで作ったそうです。
ですからビール瓶にスパークリング酒が入っている珍しい日本酒です。ラベルがとてもかわいらしいですが、これは蔵にある柿の木のイメージしたもので、建一さんがデザインしたそうです。
アルコール度数は13度で、日本酒度はー20、酸度が2.7もありますが、飲んでみるととても飲みやすく、甘みもそれほど強くなく、辛みもないさわやかな酸を感じるお酒でした。これなら乾杯酒として良いですね。
2.寒菊 純米酒 幻の花
このお酒は千葉県産の食料米のコシヒカリを60%精米して使った2回火入れの純米原酒です。この地域は米が豊富に取れるところで、コシヒカリが容易に手に入るそうです。
このお酒は9号酵母のお酒とM310のお酒を調合して瓶詰めたもので、アルコール度数は17-18度、日本酒度+1、酸度1.7だそうです。
飲んでみるとそれほど強くはないけど2回火入れ独特の香りが出ていたので、火入れの仕方をお聞きしたら、火入れは蛇管による火入れで、加熱後すぐ瓶詰め氏し、5℃の冷蔵庫で冷却したものだそうです。これだと冷えるのに時間がかかり香りがつくので、来年はパストライザーを購入するそうです。
味の方は口に含んだ時のテクスチャーが柔らかく、口に入れた少し後から旨みが広がり後味がスウット消えるバランスの良いお酒でした。ぜひパストライザーに変えるともっといいお酒になると思われます。
3.寒菊銘醸 純米大吟醸 雄町20
この蔵は兵庫産山田錦と地元産の五百万石をメインに扱ってきましたが、五百万石は熟成が早いし、山田錦は熟成が遅いので困っていましたが、3年ぐらい前から雄町を使うようになって判ったことは、雄町は春はさわやかだけど、秋になると味が乗って飲み頃になることだったそうです。
去年岡山の米問屋が量は少ないけど20%精米の米があるけどどうするかとの問い合わせがあり、思い切って購入することにしたのですが、量が19俵と少なかったので200kg仕込みで造ったのがこの純米大吟醸だそうです。販売価格は4合瓶で税なしで15000円だそうです。凄く高いけど思いの分が上乗せされるのかな。酵母はM310です。
飲んでみましたが、20%精米とは思えない爽やかだけど程よい味わいがあり、しかも雄町らしい余韻を感じるお酒でした。蔵には10年寝かせるために200本貯蔵しているそうです。火入れ回数は何と1回だそうです。このお酒がどのように変化するかは全くわからないし、自信もないけどチャレンジしますとのことでした。まずは5年後には飲んでみたいですね。
4.寒菊 純米大吟醸 無濾過山田錦50
このお酒は山田錦50%精米の無濾過の純米大吟醸生酒で、28BYの2月に絞ったお酒で12月まで熟成したものです。この蔵では山田錦に適した酵母を色々試してきたのですが、18号酵母とは全く相性が悪く、結局M310酵母に落ち着いたそうです。
今まで飲んだお酒の中では一番香りが高くて、カプロン酸エチルと酢酸イソアミルの両方の香りがして、今流行りのお酒に少し近づいているかなと思いました。
でも旨みが奇麗で香りが高いというお酒ではなく、香りはやや抑え気味にですが、味がしっかり乗ってきていてしかも後味を残しながら最後にすっと消えていくとてもバランスのお酒に仕上がっていました。
5.寒菊 純米吟醸50 限定品
寒菊銘醸は九十九里の近くにあるので、色々なお魚と合わせてお酒を飲む機会が多いのですが、このお酒はイワシのような足の速いお魚の料理、例えばイワシの胡麻付けの魚の臭みを取ってくれるようなお酒を目指したものだそうです。
お米の精米度は50%ですが、お米に何を使うかは年によって変えているそうで、敢えて純米大吟醸とは命名していないそうです。50%精米で1升3000円で販売しているので、とてもコストパフォーマンスの良いお酒です。
酵母は4番のお酒と同じM310だそうですが、香りの立ち方が違うのでたぶん醪の立て方が違うのでしょうね。飲んでみるとテクスチャーが柔らかく、うま味は少し抑え気味ですが奇麗な立ち上がりと切れの良さを感じる呑みやすいお酒でした。
以上で飲んだお酒の紹介を終わりますが、2月末に西武デパートの日本酒売り名で社長自らが来て試飲販売していたので、寒菊のお酒を飲ませてもらいました。ここで大吟醸「夢の又夢」と純米大吟醸「源作」を飲みましたが、前者は優等生的な奇麗な酒で、後者は奇麗でありながら、味に厚みがあり飲みごたえのあるお酒でしたので、「源作」を購入しました。左の写真がそれです。またそのほか新酒として直汲みの無濾過生原を多く出していましたが、とてもフレッシュなお酒で面白かったので、大吟醸の生酒を買いました。
ここで飲んだお酒から感じたことは、この蔵は杜氏が変わってまだ最初の年であること、社長が今出来るありとあらゆる酒造りにチャレンジしているところですから、これからがとても期待できると思います。生産高は600石と少ないですが、ビール会社も順調なようで、まだ基礎体力もあるので、今のうちにいろいろ試して、最終的には他の蔵とは違うオリジナルな立つ位置を明確にした造りをしていくと社長が語っていましたのが印象的でした。
これだけしっかりしていながらバランスの良いお酒を造っているのですから、これからどんなお酒に落ち着いてくるのかが非常に楽しみに感じました。
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