Googleカスタム検索

私の好きな日本酒ブログ

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想

Qchanpapa

  • 日本酒
無料ブログはココログ

« 2017年10月 | トップページ | 2017年12月 »

2017年11月29日 (水)

埼玉県には新しさを感じる若手の蔵があります

毎年10月の上旬に埼玉県酒造組合の主催による大試飲会が大宮のソニックシティでひらかれますが、今年は10月10日の火曜日に埼玉35蔵(登録されている全蔵数)が一同に会しての大試飲会が開かれましたので参加しました。 

Dsc07648

この会は1部と2部に分かれていて、前半は酒造関係者のための時間で、14時30分から1時間半、2部一般消費者向けでその会場で引き続いて16時から19時半まで行われます。今回は取材を目的として1部から参加し、試飲した酒はすべて吐きする形で頑張りました。でも、1時間半で35蔵全部の試飲はとても不可能だし、16時からは人が多くなりすぎて取材どころではなくなりました。 

今回参加して受けた印象は、埼玉の蔵の質が確実に上がっていると思ったことです。例えば川越のある鏡山ですが、昔はうまいけどパンチが強すぎて沢山は呑めない酒だなと思っていましたが、今回飲んでみると味はきちっと残しながら奇麗さが出たお酒に変身していました。柿沼杜氏にその理由をお聞きしたら、自分でもわからないけどお客様の要望を聞いているうちに変わってきたのですと言われたのが印象的でした。これはとても良いことだと思いますが、下手をするとみんな同じような酒になる恐れがあるので、気をつけてもらいたいですね。 

埼玉県の蔵のお酒は昔は印象が薄かったので、2008年と2014年にこの会に参加して自分なりに気に入った蔵ののお酒をブログにまとめたことがありましたので、それを下に載せておきます。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-f6ed.html 

http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2014/11/post-a1ea.html 

ここで紹介した蔵は合計で11蔵しかなく全体の約30%にしかなりませんので、今回はもっと紹介したかったのですが、今回は僕が飲んで面白いなと思った蔵の中で比較的若い人が酒を造っている蔵に良いものがあったので、その蔵の現状を含めて紹介することにしました。 

1.佐藤酒造店 越生梅林 

この蔵は越生梅林のある場所の近くにある蔵で、東武八高線の越生駅から北東に約1.5㎞程行ったところにあり、関東地方全体から見ると平野から秩父の山々の方にちょっと入ったところにあります。近くに越辺川が流れ、日本関東百選に選ばれている「黒山三滝」を源とする奇麗な水がでるところのようです。創業は1844年ですから江戸末期ですが、きっと梅の産地として有名な街のお酒として地元中心に酒造りを続けてきたのでしょう。 

ですから冬の時期に日本酒を造り、6月以降より梅酒を造ってきた蔵ですが、日本酒造りにはきちっとしたこだわりがありました。それは、麹歩合を23%として米本来の味を出すこと、低温長期醸造で喉越しの良い酒を造ること、人の目が届く少量生産をすることをモットーとしてきたようです。現在の社長は佐藤忠男さんで、「越生梅林「」という銘柄を立ち上げた人で、千葉県から来た杜氏と共に酒造りをしてきたそうです。 

でも、現在は20代を中心とした若手4名で生産量500石の酒造りをしているそうで、いつからそんな蔵になったのでしょうか。実はそれは2011年に「起きた東日本大震災と関係があるそうです。 

Dsc07637_2
この方が杜氏の佐藤麻里子さんです。女性のお年を聞いてはいけないけれども、まだ26歳の超若手杜氏です。麻里子さんはこの蔵の長女で昔から酒造りのお手伝いをしていたそうですが、蔵を継ぐつもりななく東京の大妻女子大に行ったそうです。そんな時に東北大震災が起こったのです。蔵の造りは古いので瓦や壁が落ち、まともな酒造りができないと判断し、社長は蔵をやめようと決意したそうですが、家族会議をした結果、子供たち(麻里子さんと弟)が廃業するのを反対し、2人が後を継ぐということで廃業をやめたそうです。 

麻里子さんは大学を卒業した後、蔵の杜氏に酒造りを教わり酒造りを始めたのですが、高校時代から酒造りが好きだったせいか、すぐの腕を上げてきたので、杜氏にすることを決めたそうです。ですから酒造りをして4年年目、杜氏になって3年目だと思います。杜氏としての経験はまだ浅いので、どんなお酒を造るのか興味がありました。 

杜氏になって最初に作ったのが純米吟醸「まりこのさけ」です。 

17493939_143090702883626_51162570_3
この酒は女性にも気楽に飲んでもらえるように瓶の容量も500mlと小さくして、デザインの梅のもようを前面に出した女性らしいお酒でしたが、大変評判が良かったけど、今年からは女性らしさを前面には出さない新しいブランドの「中田屋」を立ち上げています。これはどんなお酒なのでしょうか。下に写真をお見せします。
 

21435414_2023307694565395_292328651
中田屋は特約の酒屋だけに卸すブランドなので、この会にはそのお酒はありませんでしたが、それと同質なお酒が用意されていました。このお酒は「中田屋」と同様に、ラベルの色で原料米がわかるようにされていて、赤は美山錦、青が五百万石、桃色が五百万石と美山錦のブレンド、銀色(?)が山田錦です。僕は飲んだ中で赤の五百万石が気に入りましたので、それを持ってもらいました。 

飲んでみますと香りはあまりたたずに、口に含むと優しい甘みが静かに広がり、後味がぱっと切れるのではなく、静かに辛みを伴わないでフェードアウトするお酒でした。一言でいえば女性ら良いお酒と言えます。他のお酒はまだちょっと完成度が低い気がしましたが、酒造りへの彼女のセンスが感じられるお酒と言えます。 

子供たちが蔵の後を継ぐことが決まってから、社長は蔵の全面改築をはじめ2年前に最新鋭の蔵が完成し、娘が杜氏としてスタートするという華々しい立ち上がりをしましたが、なんといってもまだまだ立ち上がったばかりの蔵なのですから、暖かく見守っていきたいと思っております。これからどんな変化をしていくのか楽しみです。 

気づいた方のおられると思いますが、佐藤麻里子さんの名前は幻舞の杜氏の千野麻里子さんと同じ漢字ですから、良い杜氏になると思いますよ。 

2.石井酒造 初緑、豊明

石井酒造は久喜市の近くにある東武日光線の幸手市にあります。ここは日光街道と御成街道の分岐手にあたる、宿場町として栄えたところです。この日光街道沿いの大地主であった石井家が造り酒屋を開業したのが始まりで、創業は1840年ですから、180年近い歴史を持つ老舗の蔵です。昔はお酒を飲む風習が定着していたので、全盛期には5000石という大規模な生産量があったそうですが、昭和の終わりになって次第に生産量がへり、平成のはじめには3000石とになっていたようです。 

石井家の当主は歴代才覚があった人が多いようで、5代目は酒類卸業を、6代目が幸手ガス事業を起こし、7代目の前社長の石井明さんは所有する土地を利用してゴルフ練習場G-FIVEを立ち上げるだけでなく、酒事業も生産縮小を見込んで2000年には蔵の改築をしたようです。面白い写真を見つけました。下のURLをクリックしてください。 

https://www.google.co.jp/maps/place/%E7%9F%B3%E4%BA%95%E9%85%92%E9%80%A0%EF%BC%88%E6%A0%AA%EF%BC%89/@36.0689756,139.7100067,3a,75y,90t/data=!3m8!1e2!3m6!1sAF1QipOhH9jjq1q6EPDhT-Md917xZwGFWlSq1oZ_ZGj3!2e10!3e12!6shttps:%2F%2Flh5.googleusercontent.com%2Fp%2FAF1QipOhH9jjq1q6EPDhT-Md917xZwGFWlSq1oZ_ZGj3%3Dw128-h86-k-no!7i1616!8i1080!4m5!3m4!1s0x0:0xc9832d448850a095!8m2!3d36.0689756!4d139.7100067 

この石井酒造の写真を見ると、ゴルフ場の写真とスーパーマーケトBELCの写真と石井酒造の写真が一緒に載っています。これから想像すると、蔵の敷地の大部分をBELCに売ったか貸した後に残った蔵を改築して新しい蔵にしたのではないかと想像できます。いやーお金持の蔵のようですね。 

でもこの蔵が大きく変わったのは息子さんの石井誠さんが蔵に戻ってからです。誠さんは1987年生まれで、蔵を継ぐことは大学に行く時から決めていたので、経営を学ぶために早稲田大学の商学部に入学されて、卒業後は東京の醸造研究所で3か月研修を受けた後、東京の小山酒造で酒造りを学び、父の助言でガス会社で2年勉強した後、2013年に蔵に戻ってきます。そしてその年11月には8代目の社長に就任することになります。下の写真が石井誠さんで現在30歳です。 

Dsc07636
これは前社長が蔵を改築した時から思い描いていたことだと思います。その証拠に誠さんが蔵に戻る3年前に若き優秀な蔵人を採用しています。彼は和久田健吾さんといい、2010年に東京農大醸造学部の修士課程を修了した優秀な方ですが、研究より実践をしたいと思い、大学時代に石井酒造を紹介され、社長の明さんと面接をしています。その時、入社したらすぐに酒造りを任せるということを仰ったので、入社を決めたそうです。それは息子が蔵に戻る時までに杜氏として酒造りを習得してもらう狙いがあったからだと思います。そして、息子が戻ったら、酒造りはすべて息子に任せ、自分は社長を退くというシナリオがあったに違いありません。 

ですから、2013年の造りから、26才の石井誠社長、27才の和久田杜氏というコンビがスタートしたことになり、若い人たちによる新しい酒造りが始まりました。誠さんは良いお酒を造るだけではなく、埼玉県の酒をもっと世に知らしめることをやりたいと思っていましたので、すぐに2つの新しい企画を立ち上げました。 

第一の企画はクラウドファンディングのプロジェクトです。簡単に言うとお客様に資金を出してもらって、その資金で大吟醸「2歳の醸」を造って配布するというプロジェクトだそうです。これは見事に成功し約200万円を集めたそうです。下の写真がその時の「二歳の醸」と思われます。 

548901a702404d38910a271e0aa983e6
今でもこのシステムはオーナー制度として残っています。、現在は一人1万2千円で、定員100名でオーナーを募集して、色々な種類の720ml6本と酒粕を配布しています。また2歳の醸はこの名前の権利を宝酒造に渡して2016年には宝酒造から新しい「2歳の醸」のお酒が出たようです。色々なことをする蔵ですね。 

次に打ち出した企画は「埼玉SAKUダービー」です。これは埼玉県にある二つの蔵が、水、米、精米歩合、種麹、酵母を同じの酒を造って、どちらのお酒が旨いかをお客様に決めてもらうものです。自分お蔵のほかには和久田さんの先輩の鈴木隆広さんが杜氏をしている久喜市の寒梅酒造が選ばれました。これはどちらが人気があったかが大切ではなく、これにより、2つの蔵の酒の知名度を上げるの目的のようです。でも酒の銘柄を石井酒造の酒を「彩の原石 幸」とよび、寒梅酒造の酒を「彩の原石 喜」としたのは、埼玉県には良い酒があるよと叫んでいる感じがします。 

この蔵は新しい体制ができてからまだ3造りしかしていませんので、お酒の酒質を問うのは少し厳しいかもしれませんが、今年の全国新酒鑑評会で初めて金賞を取っていますのでとても楽しみです。どんなお酒を造っているのでしょうか。 

この会場では豊明と初緑のお酒を飲みました。初緑はアルコール添加した吟醸酒で、山田錦や美山錦を使った原則9号酵母のお酒ですが、豊明は純米酒で埼玉県産のさけ武蔵を使い埼玉酵母を使っています。埼玉酵母はAからHまで色々あるそうで、目的に合わせて、使い分けているそうです。ここでは豊明の純米吟醸の花火を飲みましたが、甘みがあって香りはイソアミル系のさわやかな香りのあるお酒でした。 

ここのお酒のイメージはまだはっきりしないところがあるので、どんなお酒を狙っていますかとお聞きしたら、色々なタイプのお酒を造りながら色々と試している時期ですと言われたように、酒としてはこれから変化しながら定着していくものと思われます。蔵の生産量はまだ200石だそうですから、これからじっくりと立ち上げていくのでしょうね。 

3.滝澤酒造 菊泉

この蔵は深谷市の旧中山道沿いの、JR深谷駅から数百mのところにあります。ここは古くから宿場町として栄えたところですので、多くの酒蔵があったものと思われます。この蔵の創業は1863年に小川町で行い、明治33年にここに移転してきたそうですから、ここで他の蔵と競い合って生き残った蔵だと思います。 

ですから今でも昔の風情を残した蔵で、インターネットで見ると蔵の母屋の写真のような、昔の趣のある姿をしていますが、蔵そのものは赤レンガ造りだそうです。その後どのように成長したかはわかりませんが、現社長の滝澤常昭さんは、地域のロータリークラブや深谷商工会議所の役員をされている方のようです。
 

65d64e_8bf5b9f2f90c49c8ac029878d410

現在は息子さんの滝澤英之さんが専務取締役・杜氏として酒造りを一手に引き受けてやられているようです。 英之さんは蔵元の長男として生まれましたが、若い頃は酒造りをするつもりはなかったそうです。でも親からはお前は後を継ぐもんだと言われていたので、最後はそうなるのかなとは思ったそうですが、大学に行くときはそのつもりは全くなく、早稲田大学の教育学部に入ったそうです。大学3年生の時に漫画の「夏子の酒」を読んだ時に、昔の蔵の光景が思い出され、酒造りは面白そうだと思ったのが酒造りをする切っ掛けになったようです。 

大学卒業後は福生市にある石川酒造に3年間お世話になり酒造りを勉強し、その後広島の醸造研究所で1年間研修を積んで、1994年に蔵に戻ってきました。蔵には南部杜氏がおられて、その方にみっちり酒造りの指導を受けたそうですが、石川酒造の杜氏は越後杜氏で、南部杜氏とは細かいところでだいぶ違ったので、最初は大変戸惑ったそうです。それでも南部流の酒造りを勉強していくうちに、その違いの良いところが判ってきましたが、基礎となっているのは南部流の方法だそうです 

結局9年間南部杜氏の下で勉強した、1996年から杜氏になって、全ての酒造りを任せられたそうです。でも最初の1-2年は思った酒だできず、それまで4年間全国新酒鑑評会で金賞を取ってきたのに、自分が杜氏になってからは3年間金賞は取れなかったそうです。でも4年目になってやっと安定した酒が造れるようになって、その後は連続して全国新酒鑑評会で金賞が取れただけでなく、、IWCの鑑評会でも金メダルを取れるようになって、現在に至っています。 

前述した2つの蔵では若い人が簡単に杜氏になったかと思うと、英之さんのように12年の下済みを経てやっと杜氏になった人がいますので、単に杜氏と言ってもその実力を測ることは難しいように思えます。でも長年の経験によって身につくことはいっぱいあると思うので、英之さんがどんな酒を造っているのかは大変楽しみでした。 

Dsc07634
この方が滝澤英之さんで、現在46才ですから決して若手ではありませんが、敢えて選ばせていただきました。この蔵はどんなお酒を造っているのでしょうか。 

この蔵の酒たるブランドは菊泉で、菊のように香り高く、泉のように清らかな酒という意味だそうです。その主力製品は「菊泉 さけ武蔵吟醸生原酒」でした。この酒はさけ武蔵60%精米で、アルコール度18%、日本酒度1.5、酸度1.2のアルコール添加の吟醸酒です。飲んでみると口当たりがとても良くてさわやかな香りがあるけど、アルコールの強さを感じない驚きのお酒でした。これは技術のなせる業だと思いました。英之さんはさすが、腕のいい杜氏になっておられましたね。 

もう一つ見つけたお酒が「菊泉 ひとすじ」です。このお酒は今年発足したAWA協会が認定するスパークリング酒で、2016年に発売を開始したお酒です。このAWA協会の認定基準は大変難しく、この協会に参加しているのは生産高が2000石を超える蔵ばかりで、生産高500石の滝澤酒造が参加することは凄いことです。でもこれができたのは偶然ではありません。2010年にはこれの基になる瓶内二次発酵の発泡酒「彩の淡雪」を発売していたので、これを改良して完成させたそうです。 

原料米はさけ武蔵60%精米、アルコール度12%、日本酒度ー26、酸度4.3というお酒ですが、僕が飲んだことのある水芭蕉や七賢に決して劣らない素晴らしいお酒だと思いました。この技術も簡単にできるものではないのにちゃんと完成させているのはただものではないですね。これからどんな酒が飛び出してくるのか楽しみです。 

4.権田酒造 直実

Dsc07633この蔵は熊谷市にある老舗の蔵で創業は1850年です。この地は平安時代に武将・僧侶として活躍した熊谷次郎直実が有名ですが、その名前を取ったお酒「直実」を主要銘柄としています。 

いつもは社長の権田清志さんがおられるのですが、今年は息子さんの権田直仁さんがおられました。直仁さんは東京農大の醸造学部を卒業後スーパーで働いていたのですが、4年ほど働いたのち、親が帰って来いというものですから、今年から蔵に戻ったばかりで、まだ造りはやっていないそうです。 

持っていただいたのは特別純米さけ武蔵です。地元のさけ武蔵60%精米、9号酵母を使った純米酒で、アルコール度数15%、日本酒度+5、アミノ酸1.5、と言っていましたが、飲んでみると全く辛みを感じない、どっしり味のあるけど飲みやすい不思議なお酒でした。これをお燗をするとさらに旨みが出て楽しいお酒に変身しました。これは今どきのお酒ではない良いお酒です。 

お父さんの権田清志さんは熱血漢で酒造りの熱い思いを持った人なので、その血を引き継いだ直仁さんにはこれから大いに活躍してもらいたいと思います。 

以上で僕が推薦する4つの蔵の紹介を終えます。佐藤酒造店以外はすでに1回紹介した蔵ばかりですが、新しい情報がいっぱいあったので、少し詳しく紹介さていただきました。また、権田酒造の直仁さんはこれからの人なので、簡単な紹介に終わらせていただきました。

このほかにも注目すべき蔵として、寒梅の寒梅酒造、帝松の松岡醸造、天覧山の五十嵐酒造、力士の釜屋酒造などが良かったとおもいますが、こまた次の機会に紹介させていただきます。

最後にこの会に注文を付けるとしたら、1部の開始時間をもう少し早めて、2時間以上取っていただきたかったです。よろしくご検討をお願いいたします

にほんブログ村 酒ブログ 日本酒・地酒へ ←ご覧になったら、この日本酒マークをクリックしていただくとブログ村のページに戻ります。これでポイントが増えます。携帯やスマートフォーンでご覧の方はMobileModeではクリックしてもポイントは増えませんので、PC-Modeにしてからクリックしてください。よろしくお願いします。

2017年11月20日 (月)

蒼天伝はさわやかでも味のあるお酒でした。

10月1日の日本酒の日に南澤正昭さんが企画している今年15回目の「蔵と語る会」として、品川区旗の台にある小さな呑み屋・ぶちで蒼天伝(男山本店)の柏杜氏を囲むが開催されましたので、参加してきました。蒼天伝は宮城県のお酒だということは知っていましたが、今まであまり飲んだことがないけど、最近IWC酒部門で2年連続GOLDメダルを受賞したり、ワイングラスでおいしい日本酒アワード2016で最高金賞を取ったり、2016年にはANAの国際線のファーストクラスのお酒選ばれるなど、輝かしい結果を出している蔵だと知り、その秘密を少しでも知りたいと思い参加しました

Dsc_0229_2

呑み屋・ぶちさんは去年オープンしたばかりの新しいお店ですが、店長の岩渕英和(いわぶちひでかす)さんは石巻市出身で、東京でお酒を勉強しているときに蒼天伝を知り気に入って、お店では蒼天伝をメインに扱っているそうで、蒼天伝なしではお店が成り立たないほど重要なお酒だそうです。 

カウンターの後ろから覗いている方が岩渕さんで、手前の方が杜氏の柏大輔さんです。

Dsc_0239_2

このお酒を提供している酒屋さんは南小岩にある「なだや酒店」で、その3代目として活躍している渡部知佳さんがこられていて、この日もこのお店で囲っていたお酒を含めて色々提供していただきました。とても元気で明るい酒屋さんです。 

右から柏大輔さん、南澤正昭さん、渡部知佳さんです。 

Dsc_0236

では早速まず蔵の紹介をいたします。 

この蔵は宮城県の気仙沼にありますが、創業は大正元年ですから比較的新しい蔵です。気仙沼は東北屈指の漁港で、明治時代から港に出入りする漁船が増えて酒の需要も上がってきたのを機会に、創業者・菅原昭治が酒造免許を取り、京都伏見の岩清水八幡宮(別名・男山八幡宮)に大願成就の御礼祈願に行った時に、八幡宮宮司より拝受した名前が伏見男山です。ですから、気仙沼にありながら伏見男山が代表銘柄となっております。 

その後、気仙沼のカツオやサンマを食べながら飲むお酒として地元中心にお酒を造り続けてきましたが、伏見男山が京都のお酒と間違われたり、男山と名がつくお酒が全国に10件くらいあり、他のお酒と混同してしまうということがあったので、現在の4代目の社長の菅原明彦さんが、約15年前に気仙沼を表現する名前にかえることを思いつきました。 

名前だけでなく、気仙沼のお酒らしい味に変えることも行いましたが、まず行ったのが「蒼天伝」という名前つけでした。気仙沼の自然の素晴らしさをお酒にこめて表現しようと、気仙沼の青い空、青い海を表す「蒼天伝」としたそうです。 

「蒼天伝」とするからにはさわやかさがあり、香り控えめだけど味わいのあるお酒造りを目指しましたが、開発を初めて最初の5年はなかなか思うような味を造ることができなかったそうです。杜氏が南部杜氏の鎌田勝平さんに代わってやっと狙い通りのお酒になり始めたのが2007年だったそうです。それを切っ掛けに「蒼天伝」のPRをするために、カツオが水揚げされる父の日に「蒼天伝おいしんぼの会」を開催して、やっと名前が知られるようになった時に起きたのが東日本大震災でした。 

それは2011年の3月11日のことです。海沿いにあった国の登録有形文化財にもなっていた木造3階建ての本社は地震では壊れなかったのですが、後から来た津波で1、2階部分全壊流失する被害を受けたそうです。下の写真が被害前の本社の建物と震災後の建物です。 

Otokoyama4

木造には思えない風格のある建物ですが、一階が構造的に弱そうなので、つぶれてしまったのでしょうね。 

Img10

本社近くにあった資材置き場や瓶詰めラインが全部浸水したそうですが、幸い酒蔵の方は30mくらい離れたところにあったので、津波は門から数mまで迫ったけれど、直接的な被害は受けなかったそうです。蔵には出荷前のお酒が2タンク残っていたので、翌日から作業を開催しましたが、停電のため計測装置が動かない中、タンクの温度管理だけはしたそうです。 

その時のことを柏杜氏はよく覚えていて、社員の中には家族を亡くした人も大勢いるし、町はほとんど全壊状態で多くのお客さんを失っているので、これで酒造りは終わったなと感じたそうです。その中で社長が何としてでも残った酒をすぐにでも世に出したいと言われた時は、なんでこんな時に酒を出しても仕方がないと反発をしながら、しぶしぶ従ったそうです。でも、町が落ち着いてくると周りから酒を出してくれとの要望も出てきたので、周り町がまだ停電の中、瓶詰めするために発電機で電気を起こして使ったけれども、周りの人から何も文句を言われないので、ますますやらざるを得ない状況になったそうです。 

2つのタンクのお酒も夏にはすべて売り切ったものですから、お酒が無くなったたので初めて夏場の仕込みにチャレンジしたそうです。その時柏さんが副杜氏で鎌田さんが杜氏でしたが、二人とも全く経験のない夏仕込みを、いろいろ知恵を絞って(たとえは瓶貯蔵の冷蔵庫で酒米を冷却するなど)冬仕込みに近い環境で行い、思いのほかうまく成功したそうで、この経験がその後の酒造りの勉強になったそうです。 

鎌田杜氏は岩手県からくる季節対応の南部杜氏でしたが、2012年の冬の仕込みをした後で退社することになり、2013年からは副杜氏の柏さんが杜氏となり、酒造りの全責任を負うことになったそうです。柏さんのお父さんは気仙沼の遠洋漁業をするひとでしたが、蔵と密接な方だったようで、息子の大輔さんは大学を出られた後すぐに蔵で酒造りに従事したようです。特に蒼天伝の開発はすべてを任されたので、その思い入れは強く、蒼天伝の名前もラベルの文字もすべて柏さんの発案で、たまたま父が書道を勉強していたので、外部に頼むお金もなかったことから、父にラベルの字を書いてもらったとのことでした。 

Dsc_0241
柏さんとは初めてお会いしたのですが、名杜氏のような威厳のある雰囲気の方ではなく、とても謙虚で自分は何も知らない素人の杜氏ですと言いながら、好奇心旺盛で他の人の良いところは何でもすぐ取り入れる柔軟性のある方のように思えました。酒造りそのものは鎌田杜氏の技術をしっかり受け継いでいるだけでなく、酒造りのセンスがある方で、独自で常に改善させる努力をしているように思いました。 

その証拠に杜氏になった翌年の2014年には数々の賞をいただき、さらに前述した輝かしい賞を取るまでに至っているのは、単なる偶然ではないと思います。会の終わりに柏さんの今後の夢は何ですかとお聞きしたら、早く杜氏をやめることだと言われたのには驚きました。それはほとんど冗談だとは思いますが、杜氏への責任の重さをひしひしと感じてるからだと思います。柏さんのブログを見ますと自転車のロードレースがお好きなようで、趣味が色々あってそちらに時間を割きたいのかもしれませんね。そのためには後継者の育成が最大の課題ではないでしょうか。当分は頑張って良いお酒を造くるしかないですね。 

今は震災からもう6年が経過しましたが、蔵の生産量は以前と同じ600石位だそうです。良い話としては、全壊した本社が近いうちに震災前と同じ形で復興すると聞きました。いつできるのでしょうね。楽しみです。 

この会は下のような雰囲気で開催されました。こじんまりとしているけどいい雰囲気ですよね。 

Dsc_0252_3

では早速柏さんが造ったお酒を紹介しましょう。この会はお話を聞きやすいというメリットはあるのですが、僕のような飲んだお酒を1本1本写真に撮りたいと思う者にとってはなかなかそのチャンスがなかったので、一本一本の写真は「はせがわ酒店」のホームページからコピーさせていただきました。まず最後に取った全体写真をお見せします。 

Dsc_0253_2

右から下の順番に並んでいて、この順番で飲んでいきました。 

・ 純米大吟醸 蔵の華45%精米
・ 特別純米 蔵の華55%精米
・ 美禄 春 山田錦
・ 美禄 夏 山田錦
・ 美禄 秋 雄町50%精米
・ 純米吟醸 蔵の華50%精米
・ 特別純米 生 蔵の華55%精米
・ 美禄 冬 26BY 美山錦
 

1. 純米大吟醸 蔵の華45%精米 

Dsc_0242このお酒は宮城県産の蔵の華45%精米の純米大吟醸で、酵母は宮城県のB酵母だそうです。このお酒はこの蔵で最も高級なお酒で桐箱入りで1升税込みで5400円です。桐箱なしでも4500円もします。 

1月にタンク2本作って、2月に絞って瓶燗火入れを1回行たお酒です。 

飲んでみると香りは華やかですが、それほど強くはなく、柔らかで繊細な味わいが素敵なお酒でした。1回火入れのお酒でしたが、フレッシュ感があり、まるで生酒のようでした。どんな火入れをしているかは聞きませんでしたが、火入れの腕もしっかりしていると思われました。 

この蔵の仕込み水は超軟水で発酵力は弱いけれど、うまく作ると繊細な良いお酒になるそうです。確かにその通りのお酒でした。 

2. 特別純米 蔵の華55%精米 

32223115このお酒は蔵の華55%精米の特別純米で酵母は宮城マイ酵母です。 

この特別純米は15年まえに蒼天伝として初めて作った蔵の定番のお酒ですが、毎年少しずつ進化しているようです。 

飲んでみると香りは華やかではないけど落ち着いたさわやかな香りで、酸味があって甘みと酸味のバランスがいい食中酒と言ったお酒でした。 

酸度は2.0くらいで日本酒度は±0くらいにしているそうです。なかなかいいお酒です。価格は1升税込みで2808円ですから高くも安くもない手ごろな価格ですね。 

<美禄シリーズ> 

美禄シリーズは県外のお米を使ったお酒のシリーズで、「酒は天の美禄」ということわざがあるように、美禄には「すばらしい贈り物」という意味があるそうです。蒼天伝の美禄は春・夏・秋・冬の四季に合わせて4回だけ出荷するもので、季節ごとに味わいを変えて出す旬なお酒なので、まさに日本の風土からの「すばらしい贈り物」と感じてほしいそうです。美禄の具体例を下記にしまします。美禄を都内で取り扱っているのは「なだや」と「長谷川酒店」だけだそうです。 

・ 蒼天伝 美禄 春 山田錦 搾ってそのまま瓶詰めした生原酒 

・ 蒼天伝 美禄 夏 山田錦 夏まで熟成させた1回火入れの酒 

・ 蒼天伝 美禄 秋 雄町らしさを出すため秋まで熟成した酒 

・ 蒼天伝 美禄 冬 美山錦  冬の生貯蔵酒

3.蒼天伝 美禄 春 山田錦55%精米

Photo_6
山田錦55%精米、酵母は宮城マイ酵母を使った特別純米酒で、澱がらみのしぼりたての生原酒で価格は1升3132円だそうです。 

蔵の華の特別純米とと同じ酵母のお酒ですが、飲んでみると酸味は同じくらいですが少し甘みを出している感じでした。でも熟成したせいか、少し丸みを感じました。このお酒は半年以上熟成しているので、半年たった効果がどのくらいあるかは比較しないとわからないですね。 

美禄シリーズはラベルに色のついた十字線があります。春はその機構を表すのかピンク色ですね。 

4.蒼天伝 美禄 夏 山田錦55%精米

06111631_5579396936a52
このお酒は美禄の春と同じ時期に別のタンクで作った特別純米で、お米の精米度も酵母も同じですが、1回火入れをして、瓶詰めの状態で-2℃の冷蔵庫で熟成したお酒です 

春のようなフレッシュさはなくなっているけれども、熟成の良さが出ていて、口に含んだ時にぱっと横に膨らむような味わいと切れの良さがあって、とても良いバランスの酒になっていました。これはなかなかいいです。価格は春の同じ1升3132円です。 

ラベルは夏らしく白色をバックに青い色の十字線が入っています。

 

5.蒼天伝 美禄 秋 雄町50%精米 

Photo_5
このお酒は岡山県産の雄町50%精米の純米吟醸で酵母は9号酵母を使っているそうで、美禄シリーズではもっとの新しいお酒です。価格は1升3600円です。お米の値段が高いので割高になっています。 

飲んでみたら香りはそれほど華やかではないし、雄町にしてはふくらみが少ないし、切れがシャープで少し雄町らしくがないと感じました。ぜひこの蔵らしい奇麗さがあって、余韻が楽しめるようなお酒を造ってもらいたい気がしました。 

ラベルは秋らしく紅葉色の十字線が入っていました。 

6. 純米吟醸 蔵の華50%精米 

32222961_3このお酒は蔵の華50%精米の純米吟醸で、酵母は純米大吟醸と同じ宮城B酵母を使っています。造りは純米大吟醸とほぼ同じですが、純米大吟醸は600kg仕込みで、純米吟醸は900㎏仕込みです。でも当然造りの細かいところは違うそうです。 

でも価格は大幅に違っていて、純米大吟醸は木箱なしでも1升4500円しますが、この純米吟醸は1升3085円ととても割安です。 

飲んでみると香りは純米大吟醸と同じさわやかな香りがして、味は甘みと酸味のバランスが良くとても良いお酒でした。これほど価格が違うのなら純米吟醸でいい気がしました。 

特別純米と同じ色の文字ですが、瓶が緑から茶になっていました。 

7. 特別純米 生酒 

このお酒はNO.2の特別純米の生酒で「なだや酒店」オリジナルの限定200本のお酒です。お店で残っていた最後の1本です。ですから写真はありません。全体写真から見てください。 

飲んでみると火入れに比べると口に含んだ時の甘みが強く感じます。香りにフレッシュ感があるけれども、後味の感じは同じでした。火入れは全体に柔らかいけど、生酒は尖った感じがします。どちらが好き化は好みの問題ですね。 

8. 美禄 冬 26BY 美山錦55%精米 

Photo_7
このお酒は美禄に冬バージョンですから美山錦55%精米の特別純米のはずですが未確認です。26BYの酒でなだや酒店の2℃の冷蔵庫で年、その後5℃の冷蔵庫で1年熟成したもので、たまたま冷蔵庫の中で見つけた最後の1本だそうです。 

美禄の冬を飲んだことがないので、新酒との比較はできませんが、このお酒は凄いお酒でした。飲んでみると当たりがすごく柔らかくて含んだ時の味わいがフラットで天鵞絨のようにスルーっと入ってきます。こんなにうまく熟成しているのは、酒質が良いからだと思います。こんなお酒がいつも飲めたらうれしいですね。 

この酒のラベルは文字が鼠色で、十字の線薄い青色でした。 

以上で飲んだお酒の紹介を終わります。

<まとめ> 

今回初めて蒼天伝シリーズをいろいろ飲みましたが、この蔵のお酒の味は非常に安定していて、あたりが柔らかくて軽い感じですが、しっかりと味を乗せてくる飲みやすいお酒でした。 

造りの特徴はどこにあるのですかと柏杜氏にお聞きしたら、一番大切なのは原料処理で米の特徴に合わせて丁寧に吸水量を管理することで、やればやっただけの結果がついてくるとのことでした。

柏杜氏は謙遜していますが、とても前向きにチャレンジされているのでこれからが楽しみな蔵ですね。
 

最後にこの会の関係者がわっと騒いでいるお姿をも見せしましょう。なだやの渡部さんが一番乗っているみたいですね。

Dsc_0250

南澤さんありがとうございました。また面白い企画がありましたら、教えてください。

にほんブログ村 酒ブログ 日本酒・地酒へ ←ご覧になったら、この日本酒マークをクリックしていただくとブログ村のページに戻ります。これでポイントが増えます。携帯やスマートフォーンでご覧の方はMobileModeではクリックしてもポイントは増えませんので、PC-Modeにしてからクリックしてください。よろしくお願いします。

« 2017年10月 | トップページ | 2017年12月 »