万齢と福祝の蔵元の会はとても楽しかったよ
先月錦糸町のある居酒屋の「だれやめ」で、万齢を醸している小松酒造の社長小松大祐さんと福祝を醸している藤平酒造の常務取締役の藤平淳三さんをお呼びしての会が開かれましたので、参加してきました。
この会は僕の酒飲み友達のお誘いで行ってきたのですが、「だれやめ」というお店は知らなかったけど、こじんまりとしたお店と聞いていましたが、2蔵もお呼びするのはなかなかできないことで、どんなお店なのか興味津々でお邪魔しました。お店は錦糸町の南口から南へ歩いて3分の所にありました。
お邪魔して驚きました。本当に小さなお店でカウンタと奥の小さな部屋でたった10人程度しか入らないこじっまりの店ですが、大変こだわりうを感じるお店でした。店長は福永健太さんで、大学を卒業後、宮内庁御用達の料理師会とかよろずや料理師会などの修業をされ、現在のお店「小さな蔵だれやめ」を持ったそうです。だれやめとは鹿児島弁で晩酌をするという意味だそうです。「小さな蔵」と銘打つだけあって、色々な蔵とのつながりがあるようで、この会も10回目を迎えたそうです。凄いところに来たな・・・
この方が店長の福永さんです。にこやかのお顔の中に何かこだわりを感じますよね。
福永さんのこだわりに後で凄いものをお見せしますが、カウンターの前にある骨付きの豚のハムですが、2年がかりで作るそうですが、こんなものがお店のカウンターに置いてあるだけでも驚きです。
本日のお刺身はひがしものマグロの赤身の塊です。大間の本マグロの半額で買えるそうですがそれでも8000円/kgするそうです。
マグロの塊をガスバーナーで表面を炙っていました。今度僕もやってみようかな。
今回は万齢の小松社長と福祝の淳三常務さんおお二人をお迎えしましたが、このお二人に対してお客様がたった6人という超こじんまりの会でした。
<仕込み水に違いによるご飯と出汁の差>
福永店長が特別なものを出していただきました。それは小松酒造の仕込み水と藤平酒造の仕込み水を使ったご飯と昆布だし汁でした。お米はひとめぼれで、水加減をまったく同じで炊いたものと昆布の量とお塩も量を同じにした出汁だそうです。白米おにぎりは下の写真ですが、お吸い物の写真を撮り忘れました。
小松酒造の仕込み水は敷地内の130mの井戸から出た軟水で、福祝の仕込み水は敷地内の600mの井戸からとった中硬水だそうです。驚いたことに仕込み水だけで味が変わるのです。
・ 昆布だし: 小松酒造より福祝の方が昆布の味が良く出ていました。福永さんのコメントではかつおだしは小松酒造の方があっているかもとの話でした。
・ 白米ご飯 : 福祝の方が全体に柔らかく、小松酒造の方が表面が硬い感じがしました。味の差はわかりませんでした。
いずれにしても仕込み水によって酒の味が変わるということはよく聞きますが、ご飯や出汁までも変わるとは驚きでした。
では蔵の紹介と飲んだお酒の紹介に入ります。
<福祝 藤平酒造(とうへいしゅぞう)>
この蔵は千葉県の久留里市内にあり、久留里線の久留里駅から歩いて数分の所にあります。もともと城下町として栄えたところで、平成の名水100選に選ばれるほどの名水が出るので、この小さな町に昔は多くの蔵があったというほど酒造りが盛んなところです。
創業は享保元年ですから1716年ですからいまから約300年も前のことです。もともと藤久盛(とうきゅうさかり)というブランドのお酒を造っていましたが、淳三さんのお父さんがおめでたい行事には必ず清酒が飲まれていたので、七福神の福とお祝いを重ねた福祝という銘柄にしたそうです。その父は昭和55年に亡くなったそうで、その後母の恵子さんが社長となっています。この蔵には南部杜氏がおられましたが、15年前から息子3兄弟だけで酒造りをしています。
長男の和也さんが経営を担当、次男の典久さんが醸造を担当、3男の淳三さんが営業を担当していますが、酒造りの方針は3人が議論をして決め、仕込みの時には3人が力を合わせて酒つくりをするそうです。今年は一人蔵人が増えて4人で行っているそうですが、蔵の生産量はまだ320石だそうです。 酒造りは蔵におられた高橋杜氏に指導を受けただけで、特別な修業はしていないそうです。
<万齢 小松酒造>
小松社長とは3年前の八芳園の槐樹で日本酒の会をやって、その時のブログに小松さんの蔵と小松さんの経歴について詳しく紹介していますので、下記のURLをクリックしてご覧ください。万齢は長生きをしてもらいたいという意味だそうです
槐樹:http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-5858.html
小松酒造の現在の生産量は350石に増加していますが、400石以上にはしないそうです。それは小松さんが余裕をもって酒造りができる限界だからだそうです。この会の時にお話になったロマネコンティの夢についてお聞きしたら、今もそれを目指しているそうです。具体的には生産量は増やさず、価値の高い酒を造って多少高くてもお客様が納得して買っていただく酒造りを目指しているそうです。この考えの底辺にはこれからは日本酒の幅を広げていかないと日本酒業界全体が低下してしまう恐れがあると考えておられるからです。個性的なお酒を造りには、奇麗すぎる環境では作れないので、個性的なお酒を造れる環境整備も大切だと考えておられるようです。
小松さんを紹介するうえで外せないイベントがあります。それは小松さんが九州の清酒協議会の会長の時に開催した九州S1グランプリです。それは九州の清酒を東京の人にPRするために企画したもので、決められたお食事をしながら九州のお酒を飲みどの酒が一番人気かを参加者の投票できめるというとてもユニークな企画です。その仕組みはとてもよく考えられていて、少し複雑なので詳細については、僕が書いた下記のブログを読んでください。
S1グランプリ:http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/s-1-1979.html
このイベントにより確かに九州の地酒のPR度は高まりましたが、この企画の準備があまりにも大変なので2014年の第4回を最後に中止されたそうです。
もう一つ今年新しいイベントがありました。それは佐賀県酒造組合が日本酒ダンスを造りYOUTUBEに流したのですが、見たことはありますか?佐賀県のほとんどの蔵の社長が出演して踊っていますが、小松さんも2回登場しています。下記にそのURLを書いておきますので、ご覧になって小松さんを見つけてください。うさぎと帽子が目印です。
https://www.youtube.com/watch?v=5N4l_TklNlM
それでは飲んだお酒の紹介をします。
福祝が7種類
万齢が7種類でした
このお酒は福祝のお中でも一番売れ口のお酒で、日本酒度は+1、酸度1.4、アルコール度数15-16度で酵母は協会1501の1回火入れです。口に含むと旨みがふわっと広がりつつ消えていく、切れの良いお酒でした。
<万齢 純米吟醸 夏の生 薄にごり>
アルコール度数は16度で麹米が山田錦50%精米、掛米が雄町50%精米の純米吟醸です。夏酒として6月より販売しているお酒ですが、少しシュワシュワ感があって飲みやすいお酒でした。酵母は協会9号系の佐賀9号です。この蔵では基本的には、麹米に山田錦を使用するそうで、これはよりおいしいお酒を造る仕掛けの一つと思われます。
このお酒は原料に全量雄町60%精米を使た純米酒で、この蔵としては初めて熊本酵母を使ったそうです。熊本酵母は協会9号の基になった酵母で、協会9号より香りは少ないがしっかり味を出せるそうです。
飲んでみると確かに香りは少なめですが適度な旨みが出て、後味の余韻もあるので雄町の良さを引き出しているように思えました。
<万齢 純米大吟醸 灯>
このお酒は、お米は佐賀県の一般米の佐賀ひより45%精米の純米大吟醸です。酵母は協会9号と協会1801号のブレンドですから、ある程度フルーティな香りを出した純米大吟醸ですが、それほどカプの香りは強くないお酒でした。
彗星というのは北海道で生まれた酒造好適米で、飯沼酒造より紹介されて使ったものですが、今まで使っていた五百万石は新酒の時は良いけど秋口まで引っ張っても味が伸びないので、少し熟成してもおいしくなるお米として使用したそうです。
酵母は協会1801の前に開発された協会1601を使っているそうです。1601は1801に比べて発酵力が弱いけど奇麗な香りを出す酵母で、奇麗な味わいが出るそうです。飲んでみたら、軽い奇麗なカプロン酸と程よいうまみのバランスが良くなかなかいいお酒でした。
<万齢 純米全量雄町 生原酒>
この蔵では麹米を通常山田錦を使うのですが、このお酒は全量68%精米の雄町を使ったお酒で、酵母は佐賀9号を使った無濾過生原酒で、半年間生のまま熟成させたお酒です。
飲んでみると確かにうまみは出てきていますが、僕には生熟成の香りが気になりましたが、小松さんのお話では海外で人気だそうです。
このお酒は山田錦55%精米の特別純米で、最初のお酒の中組を絞ったまますぐ瓶に詰めた生原酒です。日本酒度は+1で酸度は+1.4、アルコール度数17度でした。
飲んでみると生の味とガス感が残っていて最初に香りと旨みがドンと膨らみすぐ消えるお酒でした。うまく生の良さを引き出していると思いました。
<万齢 特別純米 超辛口>
このお酒は小松酒造で一番売れているお酒で、ラベルが5月人形で有名な鍾馗様がついているのが特徴で、平成17BYに初めて作った辛口のお酒だそうです。お米は西海55%精米で、酵母は佐賀9号で日本酒度+9、酸度1.6の辛口ですが、鍾馗様は守り神と言われているせいか、蔵一番の売り上げを達成しているそうです。飲んでみるとスルッと口に入る飲みやすいお酒でした。
小松酒造では現在辛口シリーズを出していて、春は通常の辛口、夏は後味が少し甘い辛口、秋は雄町を使った辛口、冬はお燗がおいしい辛口だそうです。
このお酒は秋に出している麹米が山田錦で、掛米が雄町55%精米の特別純米で日本酒度+9、酸度1.4のお酒です。秋まで熟成したお酒ですが、ひやおろしではないそうで、この蔵ではひやおろしは1回火入れ生詰め原酒を言い、このお酒は加水して15度のお酒だそうで、ひやおろしと呼んでいません。
このお酒もなかなかいいとおおもいましたが、この蔵のお酒はやはり辛口系の方があっているかもしれませんね。
福祝 山田錦 純米吟醸50 福祝 山田錦70 辛口純米
<福祝 山田錦 純米吟醸50>
山田錦50の純米吟醸は特別純米55の次に売れているお酒だそうです。酵母は協会1801号と金沢酵母(協会14号)とのブレンドだそうです。飲んでみるとカプロン酸の香りと酢酸イソアミル系の香りが混じって、さわやかな香りに仕上がっていて、口に含むと味わいがぱっと膨らんですぐにすっと消えていくお酒でした。
<福祝 山田錦70 辛口純米>
このお酒は山田錦70%精米の純米酒で、酵母は協会14号です。ですから飲んでみると酢酸イソアミル系のさわやかで穏やかな香りがします。精米度70%にしてはうまみも感じるし、とてもきれいに感じるお酒でした。
<福祝 燗酒純米酒>
このお酒が最後に飲んだ福祝のお酒で、お燗して香りを立てないように香りの少ない酵母を使った上に完全発酵させるために、少し高温で自由に発酵させ最後に温度を下げる方法を取っているそうです。具体的には秋田県で開発した花酵母の協会1501を使ったそうです。
飲んでみると昔流行ったお燗酒とは違った透明感がある上にふくらみも感じるお酒でした。なかなかのものでした
これで福祝のお酒の説明は終わりますが、福祝の共通の味わいは香りはあまり立てずに、じわっと味のふくらみを中ほどに持って行って、余韻を持たせるような造りをしているように思えました。
全国新酒鑑評会で連続金賞を取ったころのお酒は香りが高くあまり膨らみがないように思えましたが、最近の造りはだいぶ変わってきているように思えましたし、かなり野心的なお酒造りに挑戦しているようなのでこれからが楽しみです。
<万齢 純米吟醸 希(のぞみ)>
このお酒は3年前のS1グランプリに出品するために作ったお酒で、香りがあって甘口ですっきり飲めるお酒として造ったお酒です。それまでのS1グランプリで優勝したお酒はどれも甘口で、辛口のお酒はすぐに落選してきたのを見て、自分の蔵は辛口が主体でしたが、思い切って甘口にチャレンジしたそうです。
S1グランプリはおつまみを食べてまだ口の中におつまみがある時にお酒を飲んだ場合は辛口は合わないそうですが、おつまみを食べ終わって飲む場合は辛口でもいいことが判ったそうです。
お米は佐賀ひより50%精米で酵母は聞きませんでしたが、9号系と18号系のブレンドではないかと思います。日本酒度は-14もありますが、飲んでみるとそれほど甘さを感じませんでした。このお酒はS1グランプリで第4位になったそうですから成功したと言えますね。
<のみりんこ>
このお酒は飲むための味醂を目指して造たものだそうです。本来味醂は呑むためのお酒で室町時代に造られた和酒でしたが、江戸時代に砂糖の代わりにお料理に使われるようになって明治時代に料理用として定着してしまったそうです。
甘酒は日持ちしないで腐りやすいので、何とか腐らない甘酒を造るために焼酎の中で甘酒を造ることで出来たのが味醂です。飲む味醂と料理の味醂は何が違うかというと、料理の味醂は出来た味醂を一度火入れをして炭素ろ過したしたお酒を言って、飲む味醂は生のお酒だそうです。このお酒は平成25年から造っていますが、日本で初めてだそうです。
日本酒度は-180ありアルコール度は14%ですが、食後の味醂は消化を助ける働きがあるそうです。
以上で万齢のお酒の説明を終わります。最後に各蔵の今後目指している方向の説明がありましたので、これを紹介します。
福祝:来年度は秋田のあきたこまちを使った高温山廃にチャレンジするそうです。また特Aの山田錦をを使ったお酒を11月に発売するそうです。
万齢:日本酒は決して売れているわけではないので、今後一人でも多くの人を日本酒を飲む場に連れてきて日本酒のPRをしてもらいたい
最後に小松大さん、祐藤平淳三さん、福永健太さんにお礼を申し上げます。
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