高温山廃もとの木戸泉酒造はどんな蔵?
僕たち大学の仲間は毎年5月と11月に大原・御宿ゴルフクラブでプレーをすることにしていますが、今年はゴルフの前日に、大原駅の近くにある木戸泉酒造の蔵見学をしてきました。木戸泉酒造は昔から古酒や高温山廃もと造りで有名な蔵ですが、僕自身はあまり飲んでいないお酒でしたので、楽しみにしてきました。
蔵はJR外房線の大原駅のすぐそばにあり、海からも約1kmしか離れていない場所にあります。蔵のご案内は5代目蔵元で専務取締役兼杜氏をされている荘司勇人(しょうじ はやと)さんにしていただきました。荘司さんは東京農大を卒業され、現在40歳で伯楽星の新澤さんの同期だそうです。2001年に蔵に戻ってきて、3年前から杜氏として頑張っておられます。
蔵見学のご紹介の前に蔵の歴史をご紹介します。創業は明治12年で酒造業を始める前は、味噌醤油の卸業や漁業をいとなんでいたようです。3代目の昭和14年に、漁業権を大原漁業組合に譲渡して酒造業に専念することになったそうです。 元大
この3代目の荘司勇さんは酒つくりの研究に熱心で、元大蔵省技官の古川薫さんを技術顧問として迎い入れて、その古川さんが中心になって開発した方法が高温山廃酛です。この高温山廃酛とは酒母を作る方法ですが、どんな方法なんでしょうか
酒母とは日本酒のアルコール発酵をスムーズに進めるために最初に作るもので、乳酸の多い環境で大量に酵母を増殖させたものを言います。アルコール濃度はあまり高くないけど、とても甘酸っぱい濃厚なものです。これを作る方法は昔からいろいろな方法が開発されてきているので、まず、それを紹介します。
室町時代に奈良のお寺で菩提酛が開発されました。これは酒母の仕込みを行う前に生米と蒸米を水に浸け乳酸菌を繁殖させた水「そやし水」を作り、この乳酸を大量に含んだ「そやし水」を仕込水とし、一緒に浸けていた生米を蒸して蒸米にして麹と共に仕込むという方法です。乳酸を大量に含んだみずをつかうということで水酛とも呼ばれています。
気温の高い時期の向いた菩提酛に対して、冬季に品質の高い酛つくりとして開発されたのが生酛つくりです。酒母の仕込みの段階から、半切り桶で丹念に蒸米と米麹をすりつぶす山卸しや、酛の温度をじんわり高める暖気樽などを使って25日間もの長い時間をかけて酵母を低温からゆっくりと育ててて、乳酸と酵母の豊富な酒母を作る生酛が完成したのは江戸時代です。この方法はその後酒つくりの主流となり明治時代まで広く使われました。
その後明治42年に、国立醸造試験所が、米の精米度が上がった現代では、麹の中の酵素で米を十分に溶かせるので、生酛つくりの作業の中で重労働となる山卸作業は必要がないことを発表しました。それ以降このやり方の山卸廃止酛を略して山廃酛と呼ぶようになったそうです。
その後明治43年に国立醸造研究所は自然界の乳酸菌を取り込んでそれを育成する方法ではなく、醸造用の乳酸を添加して、乳酸の多い環境を作る方法が開発されました。乳酸菌を育成しないで良いので、早くしかも安定して酒母を作ることができるので速醸酛と呼ばれています。現在では日本酒醸造の9割が速醸酛を使うようになっています。
昭和15年ごろ広島で速醸酛の半分の時間で酒母を作る高温糖化酛という方法が開発されました。それは56度前後の高温で酒母の仕込みを開始すると約6時間で糖化が完了するので、その後40度まで急冷した時に乳酸を添加し、さらに冷やして25度近辺で酵母を添加する方法です。この方法は酒母を作る時間が短くなる長所がある反面設備が不十分だと雑菌が淘汰されずに変なお酒ができる恐れもあるので、現在ではあまり使われていないようです。
それに対して木戸泉酒造では高温糖化酛の工程の中で、乳酸を入れる代わりに乳酸菌を入れる新しい酛つくりを開発し、それを高温山廃酛と呼んでいます。この工程で難しいのは乳酸菌なら何でも良いわけではなく、それに適した乳酸菌の選定にあったようです。この方法が確立したのは昭和31年ごろだったそうで、それ以降この蔵では全量高温山廃酛で酒母をつくっているそうです。この方法は乳酸菌を育てながら乳酸を作るので、生酛系の作りのように、乳酸を添加する方法よりは味の幅や深みがあるお酒になるようです。生酛系は自然界の乳酸を取り込んでいて、乳酸菌を投入しないのではと思ったのですが、調べて見ると、自社で培養した乳酸菌を入れることもあるようです。ですから高温山廃酛といってもまちがいではなさそうです。
この蔵の歴史を調べてみると昭和31年から高温山廃酛導入した後、そのお酒の特徴を生かして、長期熟成酒の開発に取り組み昭和40年にそれを完成させたそうです。ですから蔵には40年以上熟成した古酒もあるようです。また昭和47年には1段仕込みでワインのように酸の多い日本酒の「アフス」を販売しています。また昭和52年には無農薬栽培のコメを利用した自然酒の販売を始めるなど米つくりにも力を入れているようです。
以上でこの蔵の歴史の紹介を終わります。では早速蔵見学した様子を紹介します。ここが蔵の入り口です。奥の建屋が酒つくりをしている蔵です。
ここは洗米浸漬をする装置がある場所ですが、これを使うのは掛米だけで、麹米はすべて手洗いだそうです。奥に和釜が見えますね
和釜は2つありますが、一つは蒸米用で、もう一つが洗浄用のお湯を作るためのようです。仕込み水は近くの山から流れ出る伏流水を井戸を掘って使っているそうです。今は2か所から取って使っているそうです。硬度7-9の中硬水だそうです。
和釜の上に載せる木製の甑です。今でもこの木製の甑を使っているそうで、使っていないときは定期的に水をかけて乾燥しないように管理しているそうです。この大きさで600kgから700kgのお米を蒸すそうです。
ここは酒母室です。今の生産高は500石だそうですが、結構広い場所を確保していますね。麹室は見せていただけませんでしたが、2部屋×2の広さがあるそうです。
ここは仕込み蔵で、すべて開放タンクでした。タンク数は約30個で年3回転の仕込みをしているそうです。全部のタンクを使っているわけではなく、絞ったお酒を入れるタンクとしても使っているそうです。冬季は冷却用のジャケットを巻いて使っているけど、夏場は取り外しているそうです。
サーマルタンクがありましたが、これは生酒貯蔵用のタンクだそうです。
大型の冷蔵庫がありましたが、これは生酒の便貯蔵用だそうです。
最後に7種類のお酒を試飲させていただきました。すべて精米度60%の特別純米で左からAFS,スパークリング、自然栽培の山田錦、普通の山田錦、五百万石、花吹雪、濁り酒です。一つ一つのお酒の味の説明は省略しますが、総じて酸が強く、味わいは濃潤ですが、僕には雑味が多く感じられ、ちょっと苦手かもしれません。酵母は全部7号酵母だそうです。
最後に二つのお酒を紹介します。AFSは1段仕込みのお酒で、白ワインのように酸味が強よいお酒で、日本酒度は-30、酸度が10もあります。この開発に携わった3人の名前(A:安達源右衛門、F:古川薫、S:荘司勇)の頭文字をとったものです。
二つ目は山廃無濾過原酒の白玉香というお酒です。兵庫県産の山田錦を用いた特別純米酒で、このお酒も酸度が2.4もありますが、うまみもあるので比較的良いバランスになっていました。僕はこのお酒を買ってしまいました。
この蔵のお酒は酸味が特徴で、山廃つくりのためか独特のうまみと香りが特徴のように思えました。でも欲を言うとこの酸味を生かしながら、もう少し綺麗な甘みや旨みを感じるお酒ができたらいいなとも感じました。杜氏の勇人さんはまだ杜氏になって3年だそうで、これからいろいろチャレンジされるそうなので、期待したいと思います。
最後にみんなで集合写真を撮りました。この日は雨でしたが、翌日のゴルフは天気がよく気持ちよくプレーできました。 スコアは滅茶苦茶でしたけど。
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