小泉酒造(東魁盛)は良い酒を造っています
先月文京区の湯島にある居酒屋「極楽酒場いざこい」で千葉県の小泉酒造(東魁盛)の蔵元をお呼びしてお酒を飲む会がありましたので参加して来ました。この会は一般社団法人「酒類ビジネス推進協会」が企画した会で、「第1回応援しよう!知られていない蔵のおいしいお酒の会」というものです。
この社団法人は中小企業診断士の宮坂芳絵さんと酒の行政書士の石井慎太郎さんが代表理事をしている一般社団法人で、昨年立ち上げたばかりの協会のようです。業務内容は酒類業者に対するコンサルティングやマーケティング支援をする事業と酒類の関するセミナーや勉強会を企画する事業を通して酒類文化の伝承と地域活性化を図ろうということのようです。今回はおいしい日本酒を造る蔵の紹介する第1回目の企画でした。
右の方が宮坂芳絵さんで、左の方が小泉酒造の専務取締役小泉文章さんです。
僕が東魁盛のお酒を初めて飲んだのは2009年に千葉の京成ホテル・ミラマーレで行われた千葉の酒フェスティバルだったと思います。その会場で専務取締役の小泉文章とお会し、大吟醸の紫紺を飲んだことが思い出されます。紫紺は小泉酒造の社長兼杜氏の小泉平蔵さんが明治大学出身でその応援旗の紫紺から採ったと聞いています。その時の様子は下記のブログを見てください。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-8c01.html
それでは、最初に蔵の紹介をしましょう。蔵は富津市にありますが海辺ではなく、JR内房線の上総湊駅から東へ4kmほど入ったところにあり、山々に囲まれた盆地の入口にあります。そばには湊川が流れていて、田圃がありお米つくりやお酒造りに適したところのように思えます。
創業は1793年だそうですからもう200年以上経つ老舗の蔵ですが、初代の小泉平蔵が名字帯刀を許された時この地にきたそうで、明治の初期に後を継いだ源蔵が大きく発展させたと聞いています。古くから吟醸酒造りに情熱を上げていて、酒質の向上のために早くから冷蔵庫の導入などをしてきたそうです。このような田舎の蔵でそんなことができたのは多分父の杜氏が先進的な方だったからではないかと思います。
そして今では毎年のように全国新酒鑑評会で金賞を取っていることは意外に知られていません。ここ20年の中で、金賞を取得した回数は千葉県で第2位の実力のある蔵です。
現在の当主は小泉章さん改め小泉平蔵さんで、13代目にあたり、自ら杜氏として活躍されてきました。酒つくりは米つくりからと自分の田圃で自ら米つくりをするとともに、平成8年から消費者に喜ばれるお酒造りのために、試飲ができてお酒が買える「ソムリエハウス酒匠の館」を造りました。ここでは清酒だけでなく、大吟醸入りのソフトクリームや蔵元特製の甘酒等もいただけるようなので、一度覗いてみたいですね。平蔵さんはまだ67歳とお若いですが、最近足を痛めて蔵の力仕事は息子や蔵人に任せているそうです。
その息子さんの文章さんは早稲田大学理工学部物理学科卒業で、26歳の時に蔵に戻って、現在33歳ですが、杜氏の父に酒造りを教わっただけで、他に蔵に修業に行ったことはないそうです。でも今では他の蔵人2人と酒造りをしており、今では実質的に杜氏の仕事をされていると言えます。
この写真を見てください。とても優しい顔立ちで、酒造りに苦労をしているようには思えませんね。たぶん酒造りを楽しんでおられるのではないかと思います。お話しぶりもちょっとシャイな感じですが、一切張ったり的なことは言いません。とても正直な方だと思います。彼にどうして「東魁盛」と名付けたのですかとお聞きしたら、「東の国の先駆けとして盛んになる」ということで、初代思いが現れた名前のようです。
それでは早速お酒を飲んで、味わってみましょう。最近東魁盛のお酒を飲んでいなかったので、楽しみにしてきました。
お酒のラベルが文字だけなのですね。よく見るとお酒の酒質が詳しく書かれています。最近酒質を書かない蔵が多い中、こんな表示をするのはとても珍しく、正直者の文章さんらしいなと思いました。
どうしてこのラベルにしたのですかとお聞きしたら、東京で唯一の東魁盛の酒販店である三和酒店(上野)と打ち合わせてこのラベルにしたそうです。まだ出したばかりなので、将来変わるかもしれませんとのことでした。現在のお酒の生産量は300石弱なので、扱っている酒販店は少なく、東京以外には、横浜の一石屋酒店、栃木の菊地酒店の2軒だけだそうです。一石屋酒店のHPで確認すると、同じ酒と思われるものが全く違うラベルで販売していました。僕は文字表示は悪くないと思いますが、遠目からでもわかるように、色使い等を工夫すれば特徴があっていいかなと感じました。
飲んだお酒は下記の通りです。
1.斗瓶取り 大吟醸 東魁盛 山田錦 35% 火入れ
2.純米吟醸 東魁盛 五百万石 55% 無ろ過生
3.純米吟醸 東魁盛 五百万石 55% 火入れ
4.斗瓶取り 純米大吟醸 東魁盛 山田錦 40%
5.山廃純米 東魁盛 五百万石60% 火入れ
6.山廃純米 東魁盛 五百万石80% 火入れ
7.純米吟醸 夏 東魁盛 山田錦 火入れ
8.本醸造 東魁盛 千葉ふさおとめ 火入れ
1本1本解説します
1.斗瓶取り 大吟醸 東魁盛 山田錦 35% 火入れ
アルコール17%、日本酒度+5、酸度1.2、酵母K-1801、火入れです。
これは出品酒と同等な酒質だそうで、飲んでみるとカプロン酸エチルの香りの立ち方は抑え気味で、甘みも抑え気味だけど口の中で旨味がフラットに広がり、後味に綺麗な余韻が漂います。
酸が少なめなので、余韻を一層楽しめるようで、アル添しているので、より綺麗さが出ている気がしました。
これだけのお酒を造れるのは大したものです。
2.純米吟醸 東魁盛 五百万石 55% 無ろ過生
アルコール16%、日本酒度+1、酸度1.3、酵母K-1801、無ろ過生原酒
この蔵では珍しい生原酒です。口の中に含むと最少に澱からくる甘みとフレッシュさを感じてしまいますが、お米が自社生産米の五百万石のためか旨味が少し少ない気がしました。
やや甘めに作っているのか、香が口の中の後半まで広がってきます。どちらかというと今はやりのお酒に近い感じがしました。
3.純米吟醸 東魁盛 五百万石 55% 火入れ
アルコール16%、日本酒度+5、酸度1.4、酵母K-1801、瓶燗火入れ
2番のお酒とは米違いと火入れ違い呑みのお酒です。飲んでみると辛味を感じてしまいました。日本酒度が+5になっているせいだと思い、専務にお聞きしたら搾りのタイミングが違ったためにそうなったそうです。
僕にとってはもう少し甘めにして、カプの香りを引き出してもいいかなと思いました。
4.斗瓶取り 純米大吟醸 東魁盛 山田錦 40%
アルコール16%、日本酒度-2、酸度1.4、酵母K-1801、瓶燗火入れ
基本的には1番のお酒とは精米違いとアル添なしの違いだけですが、アルコールを入れる方が香がたってくるようです。
飲んでみると1番のお酒ほど綺麗さはないけど、旨み成分が増えて飲みごたえがあるように思えました。日本酒度は-2ですが飲んだ後に少し辛みを感じたのはどうしてかな。
でもなかなかいいお酒に仕上がっていると思いました。
5.山廃純米 東魁盛 五百万石60% 火入れ
アルコール18%、日本酒度+1、酸度2.1、酵母K-1401、瓶燗火入れ
山廃を造りだしてまだ2年くらいしか経験していないそうですが、飲んでみると綺麗さとさわやかな酸味が上手く出ている気がしました。
酵母は14号系なので、イソアミル系のさわやかな香の中に少しだけ酢酸エチルのセメダインの香を感じますが、いい感じでした。山廃でこれだけのバランスが出せれば大したものだと思いました。
6.山廃純米 東魁盛 五百万石80% 火入れ
アルコール18%、日本酒度+0、酸度1.9、酵母K-1401、瓶燗火入れ
6番のお酒とお米の精米違いだけですが、飲んでみると7番とはだいぶ違います。お米の旨みが少なく、飲んだ後にストンと消えてしまうキレのあるお酒でした。
お米の精米度が悪いものを使っているので、もっとタンパク質からくる高級アルコールやアミノ酸を敢えて増やしてもっと濃厚にした方が面白いように思えました。
7.純米吟醸 夏 東魁盛 山田錦 火入れ
アルコール13%、日本酒度-12、酸度2.1、酵母K-1801、瓶燗火入れ
このお酒は夏酒用としてつくったお酒で、アルコール度数を抑えて飲みやすくしたおさけですが、飲んでみるとすっと飲めるけれども、味わいもあるお酒でした。 加水して薄めるとお酒のバランスが変わって美味しくなくなるので造るのが難しいお酒です。
加水して13%にしたのですかとお聞きしたら、仕上がりを13%強にして、少しだけ加水したお酒だそうです。これはなかなか作れない技術だと思います。
バランスが良いので食事を邪魔しない食中酒としていいお酒だと思いました 。
8.本醸造 東魁盛 千葉ふさおとめ 火入れ
アルコール15%、日本酒度+1、酸度1.6、酵母K-1401、火入れ
このお酒は本醸造なので、アルコール添加(10%以下)しているお酒で、お米が地元の千葉ふさおとめ(精米度不明)ですが雑味の少ないきれいなお酒に仕上がっていました。
どうしてそんなお酒を造れるのかお聞きしたら、本醸造でも大吟醸とおなじ手洗い限定吸水をしているからだそうです。 小さい蔵だから出来る技なのかもしれません。
1升2000円しないお酒ですから、お買い得です。
以上で飲んだお酒の紹介を終わりますが、久しぶりにこの蔵を飲んで、まず出品酒の出来は昔と変わらず、相変わらず旨かったので安心しましたが、まだチャレンジして経験が薄いという山廃の出来が良いのに驚かれました。まだ安定性はかけるのかもしれないけど、将来楽しみです。それからアルコール度数の低いお酒をここまで仕上げたのは技術力を感じます。普通酒にも愛を感じました。
これだけのお酒を造れる技術力を持っている蔵なのに、首都圏であまり知られていないし、売っているところが少ないのは非常に残念です。きっと蔵の人数も少なく、営業に力を入れる余裕がなかったからかもしれませんね。
最後にこの蔵を紹介していただいた宮坂さんにお礼を言いたいと思います。僕はもともと良い蔵だとは思っていたのですが、こんなに幅広いお酒を造れる蔵になっていたとは驚きでした。
是非これからも酒類ビジネス推進協会のお仕事としてこの蔵の発展に貢献していただくことをお願いいたします。もしお力添えできることがあれば、微力ではございますが、ご協力いたします。
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